第18話 『海神マリン』


 対峙した途端。強烈な威圧が全身を襲う。

目の前には10メートルはあるかもしれない巨大なドラゴン。青白い鱗から見ると、こいつが海神様か。

眼は紅く光っているが、まるで暴走した〇ームみたいだ。

 陸地は半径30メートル程の小さな小島だった。島の周りには破壊された船が山棲みになっている。


 スキル海神の逆鱗を獲得しました。



 先程の威圧の効果なのか、身体が重い。デバフスキルかもしれない。

右に飛び出した、ミカさんの鉄球が、海神の腹に直撃した。


「ギィーヤー!」


意識外からの攻撃に悲痛な叫び声をあげるが、それほどダメージを受けていない。


 抜刀し海神の懐を目指し飛び込むが、威圧のせいか勢いが足らない。


バチーン!


 海神の手で叩かれて遠くへ飛ばされた。


「ぐえっ!」


 知力の高い竜種と聞いていたが、とてもそんな風には見えない戦い方の様だ。明らかに暴走した魔物と言った方がしっくりくる。


氷結の槍アイシクルランス


 ミカさんの周辺に氷の刃が無数に展開され、海神目掛け飛んでいく。

が、全て海神の手前で粉砕された。


「?!」


 見えない壁に氷がぶつかった様に見えた。


「こいつシールド持ちみたいね」


 シールドか。どの程度強力かわからないが、とりあえずミカさんの魔法は効かないと。


 空間収納から、回転式自動拳銃ガトリングガンを取り出す。すぐさま毎分200発のライフル弾を撃ち込む


 ドガガガガガガガッ!


 全て正面で弾かれ無数の弾丸が辺りに転がる。

その隙に背後にミカさんが周り込み、モーニングスターの鉄球を飛ばす――


「ギャオオオオオオオオ」


 鉄球が背中にめり込み海神が悲痛な叫びをあげる。


 効いてますね。シールドは正面のみ、あるいは範囲が限られているか、意識外の攻撃が有効か。


 二点同時攻撃ならダメージを与えられる事になる。

多分だけど。


「ミカさん!シールドを展開させろ!」


「がってん!」


 ミカさんが魔力を全開放し、氷の刃を形成していく。


氷結の槍アイシクルランス本気モード!」


 先程の数倍の量の氷の刃が、海神目掛け撃ち込まれる。海神のシールドは破れないが、充分だ。


 依然、威圧のせいで敏速は下がってるが、背後に飛び込み、左逆袈裟で切り込む。


「ギャオオオオオオオオ」


 間髪入れずに、刃を上向きに突き刺し、更に切り上げて行く。

海神の腹から血しぶきが舞う。


「ギャオオオっおっ!?」


 のたうちまわった海神にトドメの一撃を入れようと、上段に構えた時――


「ひぃぃー勘弁して下さいっスー」


「「は?」」




「おい。どういう事か説明しろ」


 雷電丸を鞘に納め、プルプル震えている海神に問いた。


「うちはこの辺りで海神やってた竜族っス。ある時、変な女が、この島に現れたっス。変な食べ物をくれて、食べたら、変になったーっスよ」


「ちょっと何言ってるかわからないから殺す?」


「ヒィィ!勘弁っス何でもするからマジ勘弁っス!」


「要するに知らない女から毒盛られて自我を失ってたって事だよな?」


「そのとーりっス。だから命だけはお助けっス代官様っス」


 誰が代官様だ!


「でも二人ともパネェっスね!こんな強い人300年ぶり位っス」

 そりゃどうも。

「そう言えば姐さんは、この前来た変な女に似てるっス。同じ天族だからっスかね?」


 姐さんて……?


「今、同じ天族って言ったか?」


「そうっス変な女は天族だったっス銀翼に銀髪は天族っス。顔はよく見えなかったっスけど」


「ミカさん、天族って普通にいるもんなのか?」


「知らないわ。女神アチナに聞いた方が早いんじゃないの?」


 ミカの言う事はもっともだが…… まだ何かアチナが隠してる事がありそうな気がする。


「アチナ様っスかー懐いっスね」


「お前、知ってんの?」


「昔、子どもの頃にアチナ様達に助けられた事があったっス」


「アチナ達って事は先代の勇者一行って事か?」


「そうっス!でも語っても本編と関係ないから語らないっス」


 何言ってんのか良くわからないが、こちらもあまり時間に余裕があるわけでないので聞く気はない。


「とりあえず、魚釣って帰るか」

 本来の目的を思い出した。


「それなら、うちに任せるっス!最高の海の幸を用意するっスよー!」


「でも、お願いがあるっス。身体中が傷だらけで海入れないので、回復プリーズっス」


「わかった。ちょっと待ってろ」

 空間収納から回復薬を取り出し、傷にかけてやった。


「あざーっス、とりあえず港町まで送るので町で待ってて欲しいっス」


 回天も壊れたので有難い。一応回収しておくか。


「じゃあ、背中に乗るっス、えーと、うちはマリンっス」

「俺はエイル」

「私はミカエルよ」


「エイル様にミカエルっスね!ではレッツゴーっス」

「なんで私は呼び捨て?」



 そうして、俺達は海神マリンの背中に乗り港町に戻ったのだが……


 港町は突如現れた海神を見て大騒ぎになった。

町には非常事態発令の鐘が鳴り、ギルドの冒険者は総動員で町の防衛に駆り出されている。


「こっち来るぞー!」

「ヒィィお助けー」

「なんか人が乗ってないか?」

「本当だ!」

「ちょ可愛いくね?」

「あの娘達、昨日やたらエール飲んでた2人だ!」「ああ胸はないが、美少女」

「そうだ!胸はないがな」


 どうやらこちらに気付いてくれたみたいだが、ちょっとディスられている気が……


 港の防波堤に俺達を降ろし、「ちょっと釣って来るっス」と言ってマリンは海に戻って言った。


 とりあえず宿をチェックアウトして遅い昼食をとっていたら……。


「やっと見つけたっスー」


 聞き覚えのある声がしたので振り返って見たら……。


 大量の魚介類が入った網を抱えた、青髪の美女が立っていた。


「え?誰?」

 ヤバい、ちょっと状況が理解出来ないんだが。


「ひょっとしてマリンか?」

「そうっス、人型バージョンっス」


 青髪ロングヘアに凶悪な程の豊かな胸。裸同然の格好でキラキラした青い眼でこちらを見ているが、格好が酷い。

貝殻の水着とは、いつのグラビアアイドルだ。

粗末過ぎるその水着?は10センチ程の貝殻を紐で繋げただけで、見えてはいけない部分をただ覆っているだけだ。背後から見たら裸にしか見えない。


「マリン、人だかりが出来てるから、服着ようか」

 マリンの後ろには、裸の美女が居るとの噂を聞いた、男達が群れになって凝視していた。


「うちの服これしかねーっスけど」

 それを服のカテゴリーに入れてる時点で色々間違っているが、このままだとまずいのは明確だ。

「ミカさん、なんか服あるか?出来るだけ露出の少ないヤツ」

 ミカさんを見ると俺をジト目で見ていたが、鞄からメイド服を出して、マリンに渡した。


 周りにいる野郎共からガッカリしたため息と、舌打ちが聞こえたが気にしない。


「似合うっスか?ご主人様は、こういうのが、そそるんですか?」

 誰がご主人様だ。

「あのなぁ、いちいち誤解招く様な事言うなよ。一応、俺は女の子だよ。」

 見た目はな!中身は男だから、確かにマリンの言う、そそるんですか?には同意する部分もあるし、さっきの貝殻姿も、出来ればずっと眺めていたいが、そう言う事に異常に敏感なミカの手前、妥協点として服を着てもらった訳だ。


「えーっ?確かにご主人様は見た目が、美少女っスけど、なんかソウルが男っス、てかイケメンっス!」


「やっぱりこの駄竜殺そうか?」


「ミカさん!殺す以外の選択肢ないの?」

 相変わらず、物騒な考えにしか至らないミカさんの気の短さには困り所ではあるが、この世界の美女って相手が男とか女とか関係ないのだろうか?

 セリスも最近、百合感ある気がしてる。


「と、とにかくわざわざ人型になってまで沢山の海の幸を届けてくれて、ありがとうなマリン」


「いやー、当然っスよ、これからご主人様に付いて行くのに、ドラゴン形態じゃあ迷惑かけるっスから」


 そうかそうか、意外ときを使ってくれてるのねー

 って、なんて言った?


「「えっ?」」


「ご主人様、どうかこの海神マリンを貴方様の犬にして下さいませ……っス」


 キラキラした眼でこちらを見て、返事を期待しているが……ミカさんを見ると、俺を見てフルフルと顔を横に降って、机の下では指をペケ字に交差していた。


「マリン……駄目だ」

 俺はマリンにやや冷たい感じでそう言った。


「俺達は、私怨を含む戦いをしているんだ。ただの冒険者じゃないんだよ。下手したら世界を巻き込む事になるかもしれないんだ。そんな事に海神である、マリンを巻き込む訳にはいかない」


 うん。我ながら、最もらしい事言ってやんわり断ったぞ!こうでもしないとミカさん怖いからな!


「ご主人様も……うちを邪魔もの扱いするっスか?リョーマ様と同じたい、うちを仲間ハズレにして、置いて行くたい!リョーマ様は言ったッたい!マリンはまだ小さいから、連れて行けんって!でも、300年待っても、迎えに来ん!うちは待ってたのに!でも、本当は知っとるばい、戦争ば終わって平和になって、リョーマ様も墓の中ばい。でも!ご主人様が島に来たばい!うちの時間が動き出したんとよ!もう一人で海を見てるのは飽きたんでごわす!何卒!何卒!おいを、連れて行ってぐださりまぜぬでござらぬかぁー!」


 宿の食堂が静まり返り、中にはシクシクと同情の涙を流す人までいた。

確かに、グッと来るものはあったが……。


 マリン……


 それ、どこの方言だよ?



 仕方なくと言うか、場の空気的に連れてかざるを得ない状況になってしまった訳で……



「わかったよ。でもしっかり働けよ」

 土下座で、頭を床に擦りつけてるマリンの肩にそっと手を置いて、俺は優しく声をかけた。

 心の中ではミカさんが怖いのだが……


「ご主人様、おもさげながんす……」

 またよくわからない方言だな!

「頼んだぞ!」

「はい!ご主人様の為なら、どんなプレイでも満足させるっス!」


「台無しだよ!」

 せっかく、なんかいい空気が一気に凍りつき、宿に居た人達もヒソヒソ話になり、目を合わそうとしない。


「痛ててっ」

 ミカさんに尻をつねられた。

「フンっ」

 そう言ってミカさんは外へ出て行ってしまった。

 何をそんなに怒ってんのだろうか?



 とりあえず、当初の目的だった魚介類はGET出来た。

 予想外の新しい仲間と共に俺達は港町サクルを後にした。

 いざ!サンク市へ――

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