第17話 『港町サクル』


 港町サクルに着いたのは日が沈みかけた夕方頃だった。


 ほとんど、運転しっぱなしだったので、魔力をかなり消耗した。もう少し燃費の向上の余地はありそうだ。


 街はサンク市ほど大きくないが、屋台などが沢山並び活気のある街という印象だ。

潮の香りが海の近さを感じさせる。


「ん夏の〜お〜わ〜り〜♪」

「下手くそ」

 俺が夏の終わりに聞きたいM山N太郎の歌を一言で終わらした。

俺の中で女の子に、言われたくない言葉ベスト3

①下手くそ②ちっさ③早くない? だ。


 それはさておき、すっかり夕方なので買い出しは明日にして、宿を探して腹ごしらえと情報収集に努めよう


 宿「風車小舎」

 1泊2食で4000ジルの宿だ。

 風車小舎と言う名前なのに風車は無い。

「二名一部屋でお願いします」


「食事は付けるかい?」

「宜しくお願いします」

「部屋は2階の上がって右の奥だよ。食事はすぐ出来るから荷物置いたら、1階の食堂の空いてる所、適当に座っとくれ」


 食堂にて


「あ、エール2つ下さい」

「あいよー」

 元気な女将さんだ。


「はい、お待ちどうさま。あんた達サクルは初めてかい?」

「ええ。ちょっとサンク市から魚介類を買い出しに来たんです」


「そうだったのかい。でも今はかなりタイミング悪いねぇ」

 女将さんによると、最近になって海神様が、暴れているので、沖の方は船が行けず、漁ができないらしい。


「なるほど。それでサンク市に魚介類が全く入らないって事か」

「港町あるあるなイベントね。どうするの?」


「もちろん、決まってるでしょうに」


「「ぶっ飛ばす」」

 2人の意見が一致した所で、不意に声をかけられた。


「やぁ!君達、久しぶりだね!こんな所で会うなんて、運命を感じるよ!」

 チャラそうな男が図々しく同席して来た。


「お前……誰?ミカさんは知ってる?」

「……知らない」


「アントニオだよー、覚えてないかなぁ!ギルドで仲良くテーブルを共にしたじゃないか」


 あー、あのハーレム野郎か。仲良くはして無いはずだが。

「で、なんか用か?」

「今日は是非、お近付きのしるしに1杯奢らせてくれまいか?」

「では遠慮なくいただくわ」

 あら意外。ミカさんが拒否しないとは思わなかった。


「女将さん!エールを樽で2つ」


「「えっ?」」


「そんな!樽でなんて言ってないよ!」

 青ざめるアントニオをなど最早気にせず、グビグビ飲み始めるミカさん。


 エール樽2つ10万ジル。ごちそうさまです!


 海神

 海の守り神で、上位種のドラゴンだそうだ。

 知恵もあり、穏やかな性格のため、暴れた事は今までなかったらしい。



 ◇部屋にて


「流石に飲み過ぎたな」

 フラフラになりながらベッドに倒れる。

「ミカさんは大丈夫?」


「問題ないナリ!あのくらい楽勝ら!」


 いや、明らかに口調がおかしいですよ


「はいはい。わかったから、もう寝るぞ、明日は海神ぶっ飛ばしに行くんだからな」


「咲野くんは真面目れすなぁ」


 最近わかったのだが、ミカさんは酒に酔うと、俺の事を前世の名前で呼ぶ事がある。普段は意識して呼ばない様にしてるが、酔うと忘れるみたいだ。


「咲野くん……お願い」

 くっ!ミカさんが酒のせいなのかわからないが、頬を赤くして、うるうるとした瞳で見つめてくる。


「え?あ、あぁわかった」

 何故か逆らえないんだよな。


 ミカさんのベッドに2人向きあい座る。

 俺は上着の左肩の方を脱ぎ、肩をミカさんに差し出す。

 すると、抱きしめる様にミカは俺の首筋に噛み付く。

 ミカさんは吸血鬼バンパイア淫魔サキュパスのハーフだ。定期的に発情して性的欲求を満たさないと

 ならない。暴走すると、本人の意思と関係無く、性的欲求を満たすため、襲いかかる。

 それを防ぐため、定期的に吸血行為で満足させてる。


「かぷっ」「ちゅー」


 コクコクと俺の血を飲む音がする。

「んふぅ」

 少し艶っぽい吐息が盛れる。

 ミカさんの腰に手を当てて見ると、ビクッと反応する。

 細い腰だ。俺も負けてないが。


 以前、この状態をセリスに目撃された時があった。

 完全に勘違いされ、慌てて説明した記憶がある。

 他人から見れば百合ってるみたいな感じだそうですよ

 勘違いしたセリスが恥ずかしそうに仲間に入れてくれと言って来て焦った。


「ごちそうさま♡」


 そのまま2人眠りについた。



 朝起きると二日酔いでした。

「頭痛い……」


 隣りで寝てるミカさんをゆさゆさして起こす。

「おーいー朝だぞー」


 返事が無い、ただの屍のようだ……


 仕方なく布団ひっべがしたら全裸でした。

 最近は見慣れたので、べ、別に驚かないよ。


「……うーん」

 どうやら起きたらしい。


「おはよう」


「んーおは」


「ご飯食べたらすぐ出るからね」


「あい」


 まだ寝ぼけてますね。



 それから朝食を済ませ、俺達は港に向かった。



 漁船は全て停泊していて、やはり漁に出てる漁船は無いようだ。

 近くにいた漁師に聞いてみた所、1キロも沖に行けば海神は海底から現れるそうだ。


「で?どうやって沖に出るの?空飛ぶのはまずいでしょ?それとも漁船を盗む?」

 ミカさん盗みは犯罪です。


 俺は、空間収納から小型潜水艦を出した。

 こんな事もらあろうかと密かに作った自信作だ。

 小型潜水艦「回天」

 ミサイルの様な形状で基本は一人乗りだが、頑張れば二人乗れる。武器は搭載してない。


「そのうち巨大ロボ作れそうね君は」

 それはまだ構想段階だ。


「因みに10分おきに浮上しないと窒息死するから」


「問題ありね」


 回天に乗り込み魔力を使って起動させる。

 海中の視認はスコープを通して確認が必要だ。


「エイル行きまーす!」


 勢い良く進みながら、水深5m辺りに浸水。


「そろそろ1キロ地点だけど……」

「何も起きないわね」


 数分経ち一度浮上しようとした時だった。


 艦体が上下に揺れ出した。


 ミシミシと金属が軋む音がする。

「多分……捕まったかもしれない」


「大丈夫なの?」


「最悪、中から破壊して脱出するしかない」


「外の様子はどうなってるの?」


「うーん、あっ!イルカの群れだ!すげー」

「え?ホント?私にも見せて!」

 スコープをミカさんに譲る。


「わーきれーい。まるで天然の水族館ー。なんて喜ぶわけねぇだろがぁ!」

「聞きたい事はそれじゃねーんだよ!今の状況を聞きたいんだよ!危機感持てよ!馬鹿!」

 ヤバいキレた。

「すみませんでした」

 土下座して謝りました。


「とにかく何処かに移動してるくらいしかわからないわね」


 それから10分は過ぎただろうか。艦内の酸素が限界かもしれない。

極力会話をせずに過ごしたが、後数分も、持たないだろう。今この時にオナラしたら、二酸化炭素中毒で死ぬ前に、ミカさんに殺されそうだ。

なんて、思考もおかしくなって来た。


 突然、艦内に衝撃が。

だが、明らかに陸地に転がされた様な衝撃だ。

直ぐに静かになった。


 スコープで確認すると、どうやら陸地のようだ。

急ぎハッチを開けて、酸素を取り込む。


「ふぅー」

 深い深呼吸をして外を覗く。

「どうなってる?」


「ミカさん、俺が出たら直ぐに右に出て!」

 小さい声で伝えると、ミカエルは黙って頷く。


 脱出のカウントをする。3.……2……1!


 回天から真上に飛び出し、銀翼で弾幕を展開する。


 その隙にミカが右側に飛び出す!


 海神の咆哮が辺り一帯の空気を揺らす。

「ギャオオオオオオオオ!」


 耳がキーンとする。ビリビリとした威圧を肌で感じる。


 ――戦闘開始





 ◇昨日、エイル宅


 居間には突然の訪問者、黄色の服を着た、白い髪の美女と、シスターの少女、サンク市防衛隊の隊長フレオニールと私、セリスの4人が、向きあっていた。


 しかし、この自称エイルの姉、あろう事か自分の貞操を暴露し、フレオニールから目を離さない。

 ははーん。なるほど……さてはストーカーって奴だな

 あれ程の美少女だ。エイルにストーカーがつくのも納得は出来る。そして、フレオニールを警戒していると言うわけか。


「おい。貴様ら、名前と目的を言え!」

 うむ、我ながら高圧的な態度で言えた。

 この手のストーカーには、これくらいで良いだろう。

 終始、上から目線で行くとしよう。


「ボクは女神アチナ、こっちの子は……弟子の……

 」

「ティファです。隣りの教会でシスター見習いをしています。セリス様、以後、お見知り置きを」


「貴様、あろう事か女神を騙るとは!」

 フッ、ボロを出したなストーカーめ!

 アチナは姉では無く、母だと聞いている。


「え?、本当なんだけどな。まぁ確かに、信じるのは厳しいよね。解るよ」


 おっと、信じて貰えないのは想定内と言うわけか。

 中々に策士やもしれないな。

「貴様が女神アチナである証拠を見せてみろ!」


 ふん!これで詰みだな。私はそう簡単に騙されん。


「証拠かぁ、中々証明しにくいね。さて、どうしたものか」

「アチナ様っ!以前に私が頂きました、あの色紙はどうでしょう!」

「いや、余計に怪しくなるだけだね」


「わかったよ、これ以上ない証拠を見せてあげるよ」

 そう言って、アチナを騙る女は急に1人芝居を始めた。


「あっ!もしもし、ノア?悪いけど今ヒマ?」

「えっ?宅配の再配達来るから無理?あー、わかった。じゃあ後で、武道館待ち合わせだよね?違うの?今年は国技館?危なかったー、ありがとね。じゃあまた」


「もしもーし、ツバキちゃん?アチナだけど、今ちょっと来れないかな?何、寝てたの?とりあえず呼ぶねー」

 1人芝居をしていた、アチナを騙る女は右手で魔法陣を作り、そのまま手を突っ込んだ。

 すると――


 魔法陣から、狐の亜人が現れた。


「ツバキちゃん、おはー」


「朝から何の用ですかー?」

 まだ眠そうな狐の亜人は、面倒な顔して、アチナを騙る女と話てる。因みに昼だ。


 が、「椿つばき様?」


「あれ?セリスに、フライドチキンじゃあないか?息災か?」

「フレオニールです」


 どうやら、本物の女神アチナだったらしい。

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