第16話 『陸王試作一号機』


「あぁ、もう耐えられないよミカさん……」


「私も我慢出来なくなって来たわ……」


 異世界に来て早1ヶ月が過ぎたある日。

こちらに来るまではそこまで恋焦がれる様な存在ではなかったはずなのに……


 どうしてこんな気持ちになるのだろうか?

俺たちのDNAが求めているのかもしれない。

お前無しには生きられない。

2人は見つめあい頷く。


 そして┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「「魚がたべたい!」」



「生魚!焼き魚!煮魚!」

「マグロ!サーモン!カツオ!」

「あー寿司食いて〜」


 2人してバタバタと暴れているところにセリスが

「一体どうした?なんかの中毒症状か?」


 似たようなものだが、現在サンク市には魚がめっきり入って来ないらしい。

元々内陸のため、希少な魚は高価だったが、港町で収穫が減少しているらしい。

その影響で、サンク市から魚が消えた。


「よし!決めた!魚を取りに行こう!」

「激しく同意」


 思い立ったが吉日とばかりに立ち上がり

「セリス!留守を頼んだ!ちょっと魚狩りして来る!」

「エイル!急ぐわよ!海が私達を待ってるわ!40秒で支度しな!」


「待て二人共!肝心な事を忘れてないか?明後日の夜は辺境伯の屋敷に呼ばれているよな?」


「あー、そーでしたねー」

「すっかり、忘れてたわー」

 2人して棒読みの返答をしてしまった。


「やはり逃げるつもりだったな!行きたくないのも解るが、我慢してくれ!」


 今回、サンク市の領主である。辺境伯の屋敷にて赤龍討伐の叙勲の前祝いと言う事で宴の会が用意されている。叙勲自体は王都の城にて後日迎えが来る事になった。

 正直に言うと行きたくないのである。特に辺境伯の屋敷には。

 辺境伯はチョー・スケベールと言う名前だそうだ。

 名前のとおりの好色な人物である。

セリスも度重なるセクハラ行為をされているらしい。

そんな話を聞いて、行きたくなくなるのは、当然だ。


「ちゃんと行くから!明後日までにはなんとか帰ってくるよ」

「いや港町は馬車で2日はかかるぞ」


「あぁ、それなら大丈夫だ。馬車の3倍は速い乗り物作ったから」


 俺はこの1ヶ月、冒険者として、依頼や討伐をする傍ら、日々錬成のスキルを向上させていた。


 そして、ついに完成した試作一号の乗り物だ!


 一旦外へ出て、空間収納から取り出す。


「これが、陸王試作壱号機だ!」


 俺が作った黒鉄製の魔力駆動式三輪だ!

 要するに魔力で動くトライクである。

 ベースはビッグスクーターに後輪は2輪付いているスクーター仕様のトライク。スロットルを回すと魔力の強弱による、加速と減速が出来る優れものだ!

 因みに2人乗りだ。オプションで馬車の荷台も引っ張れる仕様になってます。


「なんと言う物を作ったんだ!魔力で動く鉄の馬か!」

 セリスの表現はわかりやすいね。


 颯爽と俺とミカさんは陸王に跨り、街を飛び出した!



 サンク市を出て数時間がたった頃。


「ん?なんか空飛んでる黒いの何かな?」

 見ると遠くに黒い鳥みたいなのが数体飛んでいた。


「近づいて来るわね。あれは多分ワイバーンね」


「ワイバーン?ってドラゴンみたいなやつか。強いのかなぁ」


「ミカさん、これで撃ち落とせる?」

 袖の収納から、銃火器を取り出す。

 この1ヶ月の間に作ってみた近代兵器の1つ。

 回転式自動拳銃ガトリングガンだ。

 これなら狙撃スキルが無くても当たるだろう。


「またとんでもないの作ったわね。こういうのアーティファクトって言うのかしら」

 呆れながらも、肩に回転式自動拳銃ガトリングガンを担ぐ。


「ライフルじゃないからスコープ無いけど適当に宜しく!」


「任されて〜♡」


 そう言ってミカさんは飛来するワイバーンに銃口を向ける。その頃には完全に飛来するものが、ワイバーンだと確認出来る距離だ。まぁ向こうからも近づいて来てるのだが。


「これでも喰らえ!落ちろカトンボ!」

 ダダダダダダダダ

 毎分300発の20ミリの弾丸がワイバーンを襲う。


 まさに蜂の巣の如く、ワイバーンの体に穴を開けていく。

「結構効くね」


 続けざまに2体を撃ち落としたが、残り3体は散開してから向かって来た。

「ミカさんは右の1体宜しく」

「りょ!」


 俺は陸王から翔んで、ワイバーンに近付き、雷電丸を抜刀して首を落とすと、もう一体には左手をかざした。

「天雷」

 ヘブンクロスのピンポイントバージョンだ。


 空から雷の矢の如くワイバーンを直撃して瞬殺。


 ミカさんが、最後の一体を撃ち殺したのを確認して、陸王に再び乗る。


 そして何事も無かったかのように、また港町に向けて走りだす。




 ◇神聖王国セブール

 王都セブンスヘブン

 大陸のほぼ中央に位置する大国は、人族による最大の国家である。唯一神アチナを崇め、勇者を召喚した国でもある。

 その王城の一室。


「リュウタロウ様〜、もうお昼ですよ〜、起きてくださーい」

 部屋の中心にある天幕付きの大きなベッドで寝ているであろう男を、柔らかい口調の女は優しく声をかける

「もしもーし、リュウタロウ様〜」


 中々起きない男に少し困った様子で、少し迷ったが布団をめくる。

 すると男の傍らには3人の美女が裸で寝そべっていた。


「……やっぱり」

 ベッドの中にいる女達を先に起こし、退室させると

 リュウタロウと呼ばれた男はうっすらと目を開けた。


「ん〜?おはようスピカ」


「お早くないですよ〜、もうお昼ですよ」


「あぁ、確か朝まで……あれ?女の子達は?」


「帰らせましたよ。それよりちょっとしたニュースですよ。ファミリア王国に竜殺しドラゴンスレイヤーが誕生ですって。今その話題で持ち切りですよ」

 スピカは手にしていた新聞をリュウタロウに見せる。


「えーなになに、ファミリアに英雄現る。赤龍を1人で討伐したエイルさんは近く王都にてお披露目。ふーん。これ、凄いの?」


「凄いですよ。赤龍は上位種で活動期に入っていた凶悪なドラゴンですよ。リュウタロウさんは勇者なんですから少しは見習って下さいね」


「そうは言ってもね、戦争は終わってんだから少し位、休みでも良いだろう?」


「毎日がお休みのようですが?」

「うっ!」


「このエイルって子はとても可愛らしいお嬢さんだそうですよ」


「ほほう!それは是非手合わせしたいね。夜の方ね」

 そう言って立ち上がると腰を振る仕草をした。


「振るのは腰じゃ無くて剣にしてくださいな勇者様」


「スピカはたまに良いことを言うなぁ」


 やれやれ、この勇者は召喚間違えましたかね?

 スピカはちょっと後悔していた。


 スピカ(22)

 銀髪縦ロール、金眼の美女

 神聖王国セブール聖教会の神官で現在の聖女

 勇者リュウタロウの最愛の恋人である。

 リュウタロウを召喚した張本人でもある。

 引きこもりの勇者に頭を抱えつつも、優しくリュウタロウの傍で見守っている出来た人。

 神聖王国セブールの

 お嫁さんにしたいランキング第1位

 恋人にしたいランキング第1位

 幼馴染みの同級生にしたいランキング第1位

 なりたい顔ランキング第1位

 いずれも3年連続受賞


 リュウタロウ(29)

 本名 坂之上龍太郎さかのうえりゅうたろう

 現在の勇者

 ヒキニートで女好き

 王城とカジノの往復の毎日。

 毎晩の様に女を貪るのが最近の趣味(スピカは週2)

 スキル魅了持ちのため、女には困らない。

 抱かれたくない男ランキング第1位

 死ねばいいのにランキング第1位

 世界の害虫ランキング第2位

 6ヶ月連続受賞


 とは言え、なんとか夜伽意外のやる気を出して欲しいスピカであったが、気分転換も兼ねてファミリア王国にリュウタロウを誘う事にした。

「ちょっと2人でファミリア旅行でもいかがです?」


「おっ、それ良いね!そのエイルちゃんとお近付きになれるし」

 やっぱりそれか。まぁそれでもまだこの勇者に期待しているスピカだった。




 ◇陸王で爆走中のエイルとミカ


「うわっ」


「どうしたの?」


「いや、なんか寒気が……」


 港町まで後少しである。



 ◇サンク市の教会


 ティファは礼拝堂で祈りを捧げていた。

 何度シスターを説得しても、冒険者になる事を許されず、未だにエイルに会えずにいた。

「主よ、我らが絶対なる神アチナ様、どうか私に進むべき道を示して下さいませ……」



「呼んだかい?」

 礼拝堂の入口から普通にアチナが現れた。

 ティファからすると真後ろからの出現に心臓が飛び出しそうなほど驚いた。


「アチナ様っ!」


「やぁ!元気そうだね」


「今日は随分変わった服装なんですね。また何処か行かれるんですか?」

「ま、まぁちょっとしたイベントにね」

 黄色いTシャツに手に貯金箱を抱えている姿は、ティファには良く理解出来なかった。


「それは良いとして、何かお困りかな?」


「聞いて下さい!シスターが全然、アチナ様の事信じてくれず、未だにエイルさんに会えていないのです!」


「信じないと思うよ普通。それよりもエイルは隣りに住んでるらしいから、行ってみるかい?」


「えぇっ!知りませんでした!隣りに冒険者さんが越して来たのは知っていましたが、まさかエイルさんだったなんて!運命ですね!アチナ様バンザイ!」

「なんか語尾になのです。って付ける子はよく孤児院に遊びに来ています」


「じゃあ付いておいでよ」

 スタスタと教会を後にした。




 ◇エイル宅玄関前


「ごめんくださーい」

 アチナとティファはエイル宅に訪れた。


 すると玄関の扉が開き、中から金髪のエルフが出て来た。

「なんだ?怪しい格好しているな。新聞なら間に合ってるぞ」

 アチナは金髪エルフにそう言われると、後ろを振り返った。

「お前だ!お前!黄色の服着たお前だ!何の用だ!」


 その時、更に中から1人の大柄な男が出て来た。

 筋骨隆々な姿は漢と書いて、オトコと読むみたいな感じだった。その漢を見てアチナはつい。

「初めまして、エイルの姉です。処女です!」


 アチナ325歳、夏の終わりに好きな人が出来ました。


「あの〜私の事忘れてませんか〜?アチナ様〜」



 ティファの物語はやっばり始まらない。

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