第15話 『庭付き一戸建て』


 翌朝


 皆で朝食中


「エイル、寝不足か?」


 セリスが隣りで物凄い勢いで食べているリオの口元を拭いてあげたりしながら、明らかに眠そうな俺に声をかける。


「……あぁ、ちょっとね」


 俺は昨日の夜にミカさんから錬成と物質創造のスキルを獲得して、物作りの練習をしていた。


「こらこら、もっとゆっくり食べるんだ」

「びざびぶぶぶふびばべばんばぶれ!」


 早食い競争ですら、もう少し落ち着いて食べるであろうなと、思う位の速さでテーブルに並んだ食べ物を平らげていく。


 そして何言ってるかわからねぇ。

「そうか、だが、ちゃんと噛むんだぞ!」

「ばいばぼぶぶ!」


 殆ど、ば行しか発してないリオの言葉を何故か理解しているセリスに驚きだが、ちゃっかりミカさんの皿にまで手を出したリオの右手の甲に容赦なくナイフを突き立て、リオの動きを止めたミカさん。


「ぎゃっ」


 完全にナイフが貫通しテーブルと一体化したリオに逃げ場は無い。


「ごめんなさいなのです……」


 そこまでしておいて無言でモグモグと平然と食べているミカさん。

食堂に居る他の宿泊者から注目を集めている

なんだか余計に目立つパーティになって来たな。


「えーと、ミカさん、その辺にして置こうか。リオも、人の物を盗ったらダメだぞ!」


「はいなのです!」

 うん。素直な良い子だ。


「一応、今日の予定を確認するけど、セリスはリオと「爪の牙」の検分だったかな?」

 検分しないと報酬入らないからね。


「あぁ、そうだ、まだ時間があるのでリオ用に衣服や装備品を揃えに行くつもりだ」


 マリーの店か……あまり関わりたくない。


「じゃあ俺たちは家探しでもするかなぁ」


 手頃価格の物件が有れば良いけど、人数も増えたし、人前で出来ない会話などが、あるので欲しいところだ。


「あっ、そう言えばフレオニールから伝言だ。赤龍討伐の件で多分、叙勲されるかもしれないから覚悟しとけと。正式に決まり次第おって伝えるそうだ」


 え?叙勲?何それ?めちゃくちゃ目立ちますやん!

うーん。不味いな。どうしよう。まぁなんとかなるか!



 宿を出て、とりあえずどうしていいか解らないのでギルドで聞いてみる事に。


「ローザさん、おはです!」

 受付にいる眼鏡美人に声をかける。


「あら、エイルちゃん、おはようございます。今日は、可愛らしい服装ね」


 今日はブラウスにショートパンツというラフな格好だ。帯刀もしていない。

ミカさんの服装はワイシャツにネクタイ。チェックのミニスカート。ハイソに革靴。

要するにJKの制服である。何故こんな格好をしているのかと言うと、ミカさん曰く、たまに着たくなるんだとか。因みにこれ以外にも、メイド、ナース、警官、バニー等があるらしい。そして髪型はポニテになってる。


「ありがとございます。実は住居を探してるんですが、何処に行けば良いか解らなくて、教えて頂こうかと」

「あら、こちらで用意出来るから、ちょっと待っててね」


 ギルドでは借家の仲介もやっているらしい。

ギルドとしては、冒険者に出来るだけ滞在して欲しいため、物件を家主から借りて冒険者に転貸している。


 待たされてる間、よく見ると他の冒険者達がチラチラこちらを見ている。盗賊団の殲滅の効果も有り、注目されるのも解るが……。


 男からのいやらしい視線や、女からの敵対的な視線が多いのはちょっと困る。

ミカさんに至っては、男を汚物を見るような眼で見るが、逆に興奮している変態が増殖中だ。


「待たせたわね。一応、即入居可能な冒険者専用物件を幾つか持って来たわ」


「冒険者専用物件?」


「ええ、冒険者の方達はちょっとした事で内装や、外壁を壊すので、修繕がかなり入っているのよ」


 確かに。つい先日もセリスが宿のドアを吹っ飛ばした事を考えると納得だ。要するに使い方が荒いと。


「あぁ、なるほどね。あと、一応言っておくけど、なんか悪霊が取り憑いてたり、イタズラ好きな妖精やらが居て格安になってる様な訳あり物件はパスで」


 異世界もののお決まりパターンだからな。うちに除霊とか出来る神官やらプリーストは居ないからね。


 そう言うと、さり気なくローザが2枚の資料をサッと隠した。

やっぱりあったんだね。


「そうなると今はこの1件しか無いわね。鍵を渡すから中を確認して頂いてからの契約になります」


 3件中2件が訳あり物件とか高確率だな!

異世界では当たり前なんだろうか?


「わかりました、ちょっと見に行ってみますね」



 例の物件は街の教会の隣りにあり、大きくはないが二階建てで庭付き。更に工房付きで月15万ジル

家賃には修繕積立金が含まれるので、少し高めに設定されているらしい。

上下水道完備だが、風呂は無いので作るしかない。

所々壁の色が違うのは修繕の跡だろう。


「うーん、まぁこんなもんだろ、俺はここで良いかと思うけど、ミカさんは?」


 ミカさんは入念にキッチン付近を見てます。

「トイレとキッチンは改装すれば問題ないわ」


「じゃあ、決まりだな!」


 それから、ギルドに戻り契約書にサインして前家賃を支払い、生活に必要な物を買いに行き、宿に戻った時には夕方になっていた。



 森に検分に行っていたセリス達と宿で合流し、その夜は宿で過ごした。


 翌日、俺は1人でギルドに来ていた。

ミカさん達は拠点の清掃等、生活のための準備をお願いした。

 今日、ギルドに来たのは、報酬の受け取りとギルドマスターからの呼び出しに応じたためだ。


 ローザさんではない職員(居たのか!)に連れられ、ギルド2階のギルドマスターの部屋へ。

「マスター、冒険者エイル様をお連れ致しました」

「うむ、入ってくれ」


「失礼しまーす」


 部屋に入ると、応接用のソファに腰掛けた、ハゲマッチョなおっさんがいた。

如何にも元冒険者でしたと言ってる様な、傷だらけの顔に顎髭といった風貌にちょっとビビる。


「やぁ!よく来てくれた!どうぞかけてくれ。ほら!君!早くお飲み物を用意するんだ!ささっどうぞっ」

 ペコペコと頭下げながら席へ案内してくれた。

腰低いな!見た目とのギャップあり過ぎだろ!


「え、ええと、初めまして、エイルです。宜しくお願いします」

「はっ!申し遅れました!ギルドマスターのアルガスと言います!今日はお忙しい所、御足労頂き感謝しておりますです。はい」

 なんか凄い汗を垂らしながら緊張が伝わってくる。


「今回の「爪の牙」討伐報酬800万ジルとランクアップでアイアンから一気にシルバー昇格の報告だよ」


 おお!ランクアップはどうでもいいが800万はかなり嬉しい。これで当面は生活に困らないな!


「あざます!謹んで受領しまっす!」


「あとな、フレオニールから全て聞いている。君の目的はなんだ?この下界に何の使命を負って来たのだ?」

 緊張も解れて来たのか、落ち着いた口調になって来たな。ただの人見知りか!


「うっ!知ってらしたんですね……」


「また聞き程度だがな。話してはくれないだろうか?」


「目的は世界の調査です。と言ってもまだ全然出来てないのですが。特に大した使命は無いので」


 実際、まだ何もしてないな。まずは生活基盤を作ってから〜って感じだったからな。

基本スローライフで行くつもりだったが、面倒な仲間達に巻き込まれてる感が少しある。


「そうか。では1つ問おう。君はこの先、我々の敵になるつもりはあるか?」


「ないです。なりたくはないですが、今の時点でならないとも、言い切れないです」


 勇者を倒すという個人的な目標次第だろう。


「……わかった。今は君を1人の冒険者として歓迎しよう」


「ありがとうございます。ではあと特に無ければ失礼したいのですが」


「あぁ、あとシルバーランクになったんだ、パーティ名を考えておくと良いだろう。指名依頼も受けれる様になる」


 パーティ名か。その辺は皆で決める必要があるな。


「わかりました。仲間達に相談してみます」



 ギルドマスターとの話も終わり、受付のローザさんに軽く挨拶して、新居に向かった。



「ただいま〜」

 玄関の扉を開けると、パタパタとスリッパの音をたててリオが出迎えてくれた。

「おかえりなさいなのです!」

 うん。いい子だ。


 中に進むと掃除も終わってくつろいでいるミカさんと、何やら巨大な箱の扉を開け閉めして驚いているセリスがいた。

「おお!エイル!見てくれ!この箱はミカが作ったんだが、中が寒いんだ!」


 冷蔵庫である。どうやらこの世界では冷蔵庫は珍しいのか、セリスが感動している。


 見るとキッチン周りはかなり改装したのか、流し台はお湯が出る仕組みになっていた。

釜戸だった所はIHヒーターの様になっていた。


「すげぇな!どんな仕組みだよ!」


「魔石と錬成で作っただけよ」

 なるほど、火の魔石や氷の魔石を使った魔道具みたいなものか。

風呂にも使えそうだな。



 そして、初めての拠点での夕飯。

 期待してたとおり、ミカさんが食事を作ってくれた。


 唐揚げにサラダ、ご飯に味噌汁だ。

 簡単だが最強だ。

 特に味噌汁は涙した。

 異世界でまさかの味噌汁。一生無理だと思ってた!

「ありがとうございますミカさん!」


「これは美味いな!意外な特技だなミカ!」

「美味しい肉、サクサクなのです!」


「ふふふ、そしてこれをかけるとぶっ飛ぶわよ!」

 冷蔵庫から何かを持って来た。

 少し黄色っぽいどろりとした物を、唐揚げにかけるミカさん。


「ま、まさかそれはマヨネーズ?」


「ふふっ私の15年の研究と努力の結晶!刮目せよ!味わうが良い!もうマヨネーズ無しでは生きられない体にしてやるわ!」


「「「美味っ」」」


「あ、悪魔だ悪魔の食べ物だ……」

 セリスは何故か泣きながら天井を見だした。


「ばべぶぼべべばフッ」

 リオ何言ってるか解らない。


「いやぁ本当美味いわ〜ミカさん天才!」


「HAHAHA」


 料理チートですね。


 その後は他愛ない話をして過ごした。


「さて、風呂入って寝るかぁ」

 エール酒を飲み干し、席立とうとした所をがっちり肩を掴まれた。

「待ちなさい。まさか一番風呂を頂こうなんて思ってないわよね?」


「え?ダメですか?」

 自分で作った風呂くらい先に入っても良いかと思うのですが、ミカさんの手はミシミシと肩を掴んで離さない。

「せっかくだから皆で入れば良いだろう」

 セリスがとても素晴らしい提案をする。ナイスです!


 確かに皆で入っても問題ない位に広い風呂を作った。


「はいなのです!」


「ようし、じゃあ皆で入りますか!」


 て事で皆で風呂に。


 脱衣場もかなり広めにしてあったので、4人とも同時に脱衣可能だ。言っておくが、狙ってた訳では無いと言っておこう。


 しかし、セリスは本当にモデルみたいな体型です。太ったエルフって居ないのだろうか?

 足なげーな!

 ミカさんは先日見たとおりのグラマラスボデーだ。

「あんま見るなヘンタイ」

 チッ。バレたか。


 だが、予想外のダークホースが1人いた。

 リオだ。

 身長は俺と同じ位に低い。まだガキだしな!

 だがしかし、だがしかしだ!

 胸が明らかに俺より成長している。

 恐ろしい子。将来を約束されたエリート乳か。



 エイル貧乳1位確定。

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