第14話 『ご機嫌なミカさん』


 日が沈み、少し肌寒い街中を2人で歩く。

 ギルドから宿への道のりも見慣れて来たが、それでもまだ、見慣れない食べ物や、変わった様相の人やら亜人などが、道行く姿を見ると現実とはまだ思えない。


「まだ慣れない?」

 そんな俺の心を読んだかの様に、顔を覗きながらミカさんが声をかけてくる。


「そりゃあ、まだこっち来て数日間しか経ってないし」

「だよね。大体この世界の食事は味がね〜なんか物足らないよね〜」


「あー確かにそうかもしれない」


「ふっふっふ、そんなホームシックなキミに良い物を与えよう」

 自信満々且つ何故か先程から上機嫌のミカさん


「え?何?」


「それは後でのお楽しみ〜☆」




 宿に着いて軽装に着替え、とりあえず風呂に行く事になった。

 今日はかなり血や土やらを浴びたので、洗い流したい。

 初めて人を殺めてしまったのもあり、なんだか自分が汚れた感が強い。


「ん?お風呂行くの?んじゃ私も一緒に行くよ」

 え?何言ってんですか?


「ちょ、ちょっと、幾らなんでも平気なの?俺一応中身は男だよ」


「んー、なんかキミに男を感じないし、一度見られてるし、大体その身体私だし、だから平気」

 ボリボリ頭かきながら、簡単に理由を述べるミカさん

 男を感じないは流石に傷付いた。


「あぁ、じゃあ行きますか」

 なんだかなぁ、ミカさんの身体は刺激強すぎるんですよ。


「あんまジロジロ見たら殺すよ」

 理不尽ですね。



 カポーン

 良くある浴室の効果音です。


 浴室に入ると残念な事に、いや、都合良く、ちょうど他の冒険者と入れ違いになり、2人きりだ。


 2人して、身体に自動回復が備わっているため、傷1つ無い美しい身体を保っている。

 自分に至っては、神の造形である。ツルツルでぷにぷにだ。他の女冒険者からしたら、羨ましがられるだろう。胸は無いが。

 ただ、背中には翼を構築する為の紋章が刻まれているので、なんかちょっとヤバい子みたいになっている。


「その紋章で翼が展開されるのね?」

 マジマジと紋章を見ながら何やら納得している。


「ミカさんは種族の特徴みたいなのは無いのね?」

 そもそも魔族的な人種?を見た事が無いので比較対象が解らないが。


「有るよ。今は魔法で見えなくしているだけで、角と尻尾有るし。そんなん丸出しにしてたら街中歩けないでしょう?」

 そうですね。休戦中とは言えど魔族がフラフラ歩いてたら、大変な事になる。


 それから少し他愛無い会話をして俺たちは浴室を後にした。



「面白い話を聞けたわ、グフフ」

 湯船の中で潜み盗み聞きをしていたマリーが

 のぼせて脱衣場で倒れてたのは言うまでもない。



 風呂に入り、さっぱりした俺たちは食堂でまずはエール酒で乾杯した。

「お疲れ様!」

「はい、お疲れ様」

 風呂上がりと仕事の後の1杯がたまりません。


「「くーっ美味い!」」


 テーブルに肉料理を中心にスープやらサラダが次々に置かれる。内陸部にある街のせいか魚類はあまり無いらしい。

 ある事はあるが運搬にかなりコストがかかるため、価格が庶民的ではないらしい。

 いつか、海辺の街とか行ってみたいな。


「クックック、ではエイル君、良いものを与えようではないか!」

 不敵な笑いでこちらを見ながら、ミカさんが懐から小瓶を幾つか並べる。

 一つを小皿に垂らすと、黒い液体が出てきた。

「舐めてみ」


 恐る恐るその液体を少し舐める。

「!!」

「醤油だ!」


「見たか!私の15年の努力の結晶を!」

 ドヤ顔でなんか嬉しそうだな。

「他の瓶は?」

 期待に胸膨らみながら聞いてみた。胸ないけど。


「あとは味噌、胡椒、ポン酢、ソース、わさび」

 これは機嫌が良くなる訳だ。盗賊に奪われてた荷物を取り戻して良かったですな。


「大したもんだね、これで異世界の食事が楽しみになったよ」


「でしょう!今度なんか作ってあげるわ」




 ◇兵舎◇


 ガンガン!

「フレオニール!入るぞ!」

 返事を待つ事をせずに勢いよく、隊長室へセリスは入り。そのまま足早にフレオニールのデスクへ向かう。


「もっと大人しく入れないのか、お前は。大体ノックの音がおかしい。絶対殴ってるだろ。相変わらずガサツな奴め!」

 多少は上官として注意はするが、長年の付き合いなので半ば諦めている。


「あぁ、すまない。火急の用件だったので許せ」


「で、その用件とはなんだ?」


「「爪の牙」を壊滅させたんだが、以前捕縛した盗賊の子供が収監されて居ただろう?至急面会をしたい」


「壊滅?「爪の牙」を?」

 思わず目を丸くして驚く。先日アジトの位置を特定したばかりである。近いうちに殲滅作戦を実行する予定であったフレオニールは虚をつかれた思いだ。


 セリスは事の顛末を偽りなく説明した。


「そうか、しかし、エイルは相変わらず規格外の強さの様だ。それと、捕縛した盗賊の子は検分に立ち会わせた後に釈放する予定だ」


 これにはセリスが驚く

「釈放?どうして?」


「あの子には低位だが、奴隷紋があった。無理矢理盗賊をさせられてたものを罪には問われない」

 奴隷は主人には絶対に逆らえない。


「そうか、良かった」

 おそらく、ギャレットがいつかこうなる事を予見し、あの子供を守るために、わざわざ奴隷にしたのだろう。


「だがなぁ、赤龍討伐に続き、「爪の牙」壊滅となると流石に隠しきれん。近いうちに本国から報奨はあるだろうから覚悟しとけと伝えてくれ」


「てことは、叙勲の前に必ずあれが動くだろうな」


「あいつにエイルを会わせたくは無いが免れないか」


 エイル達に待ち受ける「あいつ」とは?



 ◇地下牢◇


「相変わらず辛気臭い場所だな」

 薄暗く、ひんやりと静まりかえった地下牢にセリスの声が響く。

「明るくて快適な地下牢があったら喜んで捕まるよ」

 面会の立ち会いでフレオニールが前を歩く。



 収監されている牢の前に着くと辺りに灯りを灯して行く。

「おい、リオだったか?お前に面会だ」


 一応、脱走されると困るので解錠はせずに塀越しの面会となった。


「……面会?誰です?」

 部屋の隅で小さく座りこんでいたリオは、恐る恐る立ち上がりゆっくりと塀の前へ進んだ。

 怯えている様子で獣耳は垂れ下がり、尻尾も下がっている。

 毛は所々チリチリになっているのは、エイルの魔法を受けたせいだ。


「私はここの副隊長のセリスという。お前のボスからこれを預かって来た。お前の母の形見だそうだ」


「お母さん?これはボスが着けてた」


 この子は自分の父がギャレットである事も解ってないばかりか母の事も知らされてなかったようだ。

 母は恐らくティナだろう。確か牙狼族と言う亜人種族だった。とても美しい顔立ちだった記憶だ。


「フレオニール。この子は私が預かって良いか?もちろん検分には参加させる」


「ふむ。まぁ良いだろう、どうせ釈放の予定だったからな。セリス、母性でも目覚めたか?」


「ち、違う!私はただ、古き友の残した子をだな、なんと言うか、放って置けないと言うか、んん?よく解らん!」

 耳を赤くし、否定しながらも図星だったのかは解らないが、以前よりどこか柔くなったセリスを嬉しくも思う。


「よし、たった今から仮釈放だ、この姉さんの監視付きだがな」

 そう言って看守を呼び、錠を外す。


 リオはセリスに連れられ、兵舎を後にした。




◇一方その頃再び宿


「いやぁ久しぶりに美味しい食事だったよ」

 部屋に戻り、膨れ上がった腹をポンポンと叩き、ベッドに座る。


「ふふ、感謝しなさい」

 酒で少し酔ったのか、頬が少し赤いミカが、盗賊のアジトから奪い返した荷物をガサガサあさると、衣類を取り出し、寝間着に着替え始めた。


 コンコン。

「エイル、ちょっと良いか?」

 セリスの声だ。

「あぁ、大丈夫だよ」


 セリスが扉を少し開けて、ゆっくり入って来た。

 そして、セリスの後ろから隠れる様にリオが顔を出す


「おや、そいつは確か……」


「リオだ。訳あって面倒を見る事になった」


 あー、捕縛した盗賊のガキだ。確か徒手空拳だった。

 速さだけならセリス以上の実力はあったな。


「あぁ、別に俺は構わないけど……」

 ちらっとミカの方を見ると興味無さそうに鞄から色々出してる。


「あの、ミカさん?」


「いいんじゃない?盗賊なら、そこのエルフより役に立つから」


「む、なんか言い返せないが恩に着る」

 大人しく頭を下げるセリス。顔を上げると安堵の表情になり、リオに優しい目を向ける。


「それより、その格好はどうにかならない?囚人にしか見えないわ」

 確かに囚人か奴隷にしか見えない簡素な服装だ。

 サイズ的に近いのは俺だな。

 仕方ないので普段着の予備を渡す。

「ほれ、これ着るといいよ」


「あ、ありがとうなのです」

 渡した服を両手で抱きしめ、嬉しいのか、恥ずかしいのか、にこりと笑顔になった。


「じゃあリオを連れて風呂にでも行って来るよ」


 セリスとリオは部屋を出て行った。


 うーん、これは本格的に家探ししないとだなぁ


「ところでさっきから何してんの?」

 先程からあまり会話に入って来ないミカに声をかける


「錬成」

 そう言うと、ミカが鞄から出したインゴットが輝きだす。すると長方形だったインゴットが形を変え始める。

 出来上がったのは、鉄球にトゲトゲが付き、長い鎖が持ち手まで繋がった、そう、モーニングスターだ。


「モーニングスター?」

 俺は多分そんな名前の武器だったくらいの認識で聞いてみた。

「違うわ、これは〇ンダムハンマーよ!」

 自信満々でガ〇ダムハンマーなる物を両手で掲げ、ドヤ顔でこちらを見る。


 また凶悪な武器ですね。

 あれで撲殺される魔物達に同情した。


「ねぇ、錬成って何でも作れるの?」


「うーん、作る側のイメージ次第だと思うけど、例えば、銃を作るとして、私には銃の構造が全くイメージ出来ないから無理。あとは必要な材料とか硬度とか」


 なるほど。イメージと材料が有れば何でも作れるって事か。

「その錬成ってスキルもっかい見してくれ」


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