第13話 『セリスとギャレット』


 先に斬り込んで来たのはギャレットだった。

 突進から間合いを詰めると体制を低くして脚を狙った

 薙払い。

「シャアアア!」

 それを飛んで躱し、ギャレットの後ろへ着地した。

 そのままセリスの高速の連続突きがギャレットを襲う。

 後ろに飛びながら全て剣て受け防ぐ


「やるようになったじゃねぇか」


「お陰様で剣しか能が無いからな」


「こりゃあ随分変わっちまったな、俺に抱かれて喜んでいた頃とはエラい違いだよなぁ!」


「今でも、一番の黒歴史だよ!」


 会話をしながらの小競り合いが続く。



 ◇



 ギャレットのパーティはセリスを迎えて6人になった。

 魔術師のサラ、女戦士のシェリー、亜人のティナ

 治癒術師のローザ。ギャレット以外は皆女性だった。


 パーティはシルバーランクだそうだ。

 仲間達は心よくセリスを受け入れてくれた。

 剣術はギャレットが教えてくれた。

 天賦の才もあってか、メキメキと上達して行った。


 剣の師であり、パーティのリーダーであるギャレットは頼りになる存在だ。

 今まで接して来た同じ世代の異性とは違う、大人の男性に対する感情はいつしか恋心に変わっていった。

 いつもギャレットを目で追ってしまう。

 ギャレットに褒められたくて討伐にも力が入る。


 思い切ってティナに相談してみた。

 ティナはいつも優しくしてくれるが、ギャレットには厳しい。パーティのまとめ役で、母みたいだ。

 反対された。

 まぁ、確かにギャレットは女たらしではある。

 サラやシェリーと深い関係があるのは知っていた。

 ショックではあったが、羨ましくも思ってしまったのは、おかしいと思う。


 それでも、好きになってしまった自分を抑えらず、ティナの反対を押し切り、ギャレットに想いを告げた。

 受け入れてくれた。


 最初はハーレムパーティでも構わない気持ちではいたのだが、嫉妬という感情が時折、顔を出す。

 他のメンバーと仲良くしている姿をなるべく見たくない。



 独占したい。



 自分だけを見て欲しい。だが、現実は違った。5分の1。ギャレットから見ればただそれだけなのだと。

 もう、嫌になる位、女だ。

 平等な愛情など要らない。特別な存在になりたい。

 そう願うのは女のわがままだろうか?


 最近、パーティの連携が上手くいかなくなった。


 怪我をする事が増えた気がする。


 ギャレットを覗いた仲間達は表面的な極めて薄い仲間の様になって来ていた。

 誰もが敵にさえ見えてくる。

 あからさまに邪魔をしてくる。

 皆、蹴落とすライバルかの様に。


 ある時、事件は起きた。


 オーガの討伐依頼の時だ。森でオーガを追い詰めたギャレット達だったが、深追いは危険だと、ティナが皆に言ったのだが、サラが何故か反対して結局オーガを追う事になった。しかし、オーガの集落まで入り込んでしまった。たちまち50匹程のオーガに囲まれた。

 幾らシルバーランクのパーティと言えど50匹のオーガは相手に出来ない。撤退を余儀なくされる。が、撤退とて簡単ではない。


 始めにシェリーがオーガ三体に囲まれ、無残にも死んだ。ギャレットはオーガに囲まれつつもなんとか突破口を作り、ローザとティナを先に行かせた。

 サラと私はなんとか包囲をくぐり抜け全力で走った。

 だか、後方からオーガの群れが迫る。

 突然、足が動かなくなり、私は転倒した。

 見ると、足が膝から下の部分が凍っていた。

 魔法で凍らされたのだ。

 サラの氷魔法によって。


 動けなくなった私にオーガ達が追いつくのは、あっという間だった。


 裏切られ、捨て駒にされて死ぬ。


 サラはわざとオーガを追い詰め、偶然誰か死ぬ様に仕向けたのかもしれない。

 現にサラの魔法でこのザマだ。

 絶望と恐怖そして怒り。色々な感情が入り交じり

 震えが止まらない。死は免れない状況でも何かに縋る

 声にならない様な声で叫んだ。「助けて」と。

 ギャレットなら助けてくれる。

 私がギャレットの特別なら、戻って来て助けてくれる。

 もちろん、味方は既にこの場に居ない。ギャレットが助けてくれるわけでもない。だが──


「─承知した」


 確かに聞こえた。何処からかはわからない。だが直後、意識を失った。



 ◇



 街の病院の病室で目が覚めた。野営訓練中の軍の小隊に保護されたらしい。

 現場にはオーガの死体が数十体と冒険者の死体が二体、どれも鋭利な刃物で寸断された様な死体だったと言う。不思議なのは100メートル四方の木々も同様に斬られていたらしい。

 何にせよ、生き延びる事が出来た。



 翌日、ギルドに顔を出すと、ギャレット達と再会した。

 生還した事は喜んでくれたが、サラによる魔法での裏切りに関しては、ギャレットは信じてはくれなかった。

 サラはそんな事しない。あいつの事は俺が一番わかっている。それがギャレットの答えだった。

 絶望した。ギャレットにも、仲間にも、そして自分自身の女の部分に対しても。

 信じて欲しかった。でも私は1番になれなかった。

 パーティを抜けた。次いでローザもパーティを抜けたらしい。

 事実上パーティは解散。ギャレットとティナは街から居なくなった。




 そして――





「どしたぁ!お前の10年はこんなもんかよ!」

 セリスの剣撃を防ぎながら、言葉で煽ってくる。


「.........」

 ギャレットの威勢は良いが、セリスの攻撃に防戦一方である。しかもセリスはまだ本気ではない。

 ケリを付けるとエイルに言ったは良いが、まだギャレットを殺す覚悟が出来ないでいた。

 かつての仲間であり、初めて愛した男。初めて嫌いになった男。


「終わらせる!」


 自分自身に言ったのか相手に言ったのか、両方なのか。

 セリスは迷いを捨てるために自身に喝を入れた。



 超高速の突進から、打ち出される刺突の連撃は先程までとは次元の違う鋭さだった。

 確実にギャレットの急所を捉えた連撃はまるで、セリスの傷付いた思いを返すかの如く、ギャレットを襲う。


 勝負は決した。


 最早、致命傷の傷を負ったギャレットは死を待つだけだ。

「あー、やっぱり、こうなっちまったなぁ……」


 大の字に倒れたギャレットは、死を待つだけであるが、力を振り絞り、語りだす。


「セリス、色々すまなかったな」


「何を今更……

 何故、逃げなかったんだ?別の出口から出てそのまま逃げる選択もあったはずだ」



「若い奴らは逃がした。だけど、セリスが居たからよ、つい、な」


「最期まで女絡みとはギャレットらしいな」


「俺ぁ、英雄になりたかった。どうして、こうなっちまったんだろうなぁ」


「女にだらしがないからだろうな」


「はは、言ってくれるなぁ、一つ頼みがあるんだが、これを、捕まってるガキに渡してくれねぇか?」

 首から下げていた紋章入りのネックレスをセリスに渡した。


「これは?」


「あのガキの母親の形見だ……頼ん……だ」

 そう言ってギャレットは息を引き取った。


「――っ!」

 セリスは多分泣いていたのだろう。ただ黙って下を向いている背中が震えていた。


 しばらくして


「盗るもんも盗ったしずらかるわよ」


 ミカさん、悪党のセリフです。


「待たせてすまなかった。もう大丈夫だ。さぁ帰ろう」

 何かのケリを着けたセリスは颯爽とその場を後にした。


「そっちは街とは逆よ」


 方向音痴は変わらずだった。


 帰りは迷う事なく?街へすんなりと戻る事が出来た。

 ギルドの受付にて魔物討伐の報酬の受け取りと「爪の牙」壊滅の報告をした。


「え?「爪の牙」を壊滅した?単独で?」

 さすがにローザさんも、驚く。

 ギルド内がざわついた。

「嘘だろ?」「あの子達3人で?」

「あの黒髪の子がいいな」「あのショートヘアの子は将来が楽しみですな」「ああ、セリス様はいつ見ても凛々しいお姿です」


 色々聞こえて来るが、俺は成長するのだろうか?

 胸など要らないけど、もう少し大人になりたいな。


「そう、ギャレットが……」

 セリスから「爪の牙」の顛末を聞いたローザは少し目を閉じた後、普段の表情に戻った。


「盗賊団討伐報酬はギルドが検分して後ほど査定させていただきます。魔物討伐報酬はギルドカードに入金しますのでカードの提示をお願いします」

 いつもより事務的な口調でローザさんは受付の仕事をこなす。

 ゴブリン(1500ジル)×38体=57000ジル

 オーク(2500ジル)×14体=35000ジル

 計92000ジル

 均等割りして、1人3万か。まぁまぁだな。

「エイル、私は報酬は受け取れないぞ。本業は軍属だからな」

「え?そうなんだ。意外と厳しいんだね」

「受け取ったら闇営業で軍法会議ものね」

 ローザさんが怖い事言う。


「じゃあ、とりあえず報酬も入ったし、宿に戻るか」


「エイルすまない、私はちょっと野暮用が出来たので失礼する」


「ん?ああそうか分かったよ。また明日ね。お疲れさま」


「んじゃミカさん帰りましょうか」


「うん!早く帰ろ♪帰ろ☆」


 え?なにそれ、怖い。

 めっちゃ笑顔で超ご機嫌のミカさんを初めて見ました。なんか逆に怖いのですが、大丈夫でしょうか?





 ◇英雄の女子会◇


「んでさぁ!聞いて聞いて!」

「あ、あぁ〜聞いてますでゲスよアチナ女神閣下殿!」ビシッと敬礼する、剣聖の椿つばき

 2人共かなり酒に酔っている様だ。


「うちの子がぁ、勇者を倒したいとか言いだしてさぁ!」

「ほう!それは流石に無謀でございますなぁ。今の勇者……えっと、名前、忘れ申した!HAHAHA!」


「リュウタロウでしょ」

 ノアが呆れ顔でアチナと椿つばきの会話に割って入った。

 ノアは、今の勇者が気に入らない。先代の勇者リョーマと同じ、龍を司る名前を持ちながら、何もせずに女遊びしかしない様な勇者など死んでしまえば良いとさえ思っている。


「おぉ!そうそれ!リュウタロウ!胸くそ悪いが、実力は、師匠に匹敵しますからなぁ」


「一応、止めはしたけど、いずれぶつかると思うんだよ。その時は椿つばきちゃん、あの子を頼むよ」


「はい!喜んで〜

 師匠直伝の剣術を指南致しましょう☆」



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