第12話 『残念エルフと盗賊のアジト』



 宿屋ロビンソンの一室


 俺達はセリスの部屋に来ていた。

 一人部屋なのでちょっと窮屈だが仕方ない。

 ミカさんと俺の部屋は扉を修理中の為、入室不可だ。


「ってわけで女神さん的には今はまだ勇者に手を出さないで欲しいそうだ」

 昨日アチナと会った時の話をまずは説明する。


「まぁ、仕方ないわね。今の時点では倒す方法すら分からないし、今行っても返り討ちね」

 意外にもすんなり納得した。ミカさんなら暴れるかと覚悟していたのに。


「私も賛成だ。あの破廉恥野郎を倒すには、まだまだ実力が足らない」

 セリスさんは一体勇者に恨みでもあるのかな。


「で、当面の予定です」


 ①とにかくレベルを上げる

 ②生活拠点を手に入れる

 ③遠方に行く為の移動手段と資金が必要


「まずはですね、レベル上げ&資金調達を最優先にしたいと思います」





 サンク市の東方にある森に来ていた。

 この森には魔物がそこそこいるらしいので、討伐報酬を得るためだ。


 森に来て一時間程でかなりの魔物を討伐した。

 ゴブリンやオークしか遭遇しないが。

「小物ばっかりね、いくら倒してもレベル上げの足しにならないわ」

 血だらけの釘バットをハンカチで拭きながらミカさんがボヤいた。


「まぁこの辺りはアイアンクラスでも狩場にしてるくらいだからな」

 レイピアを鞘に収めたセリスが答える。


「え、そうなの?俺は初めて魔物らしい魔物と戦ったから充分満足してるけど」

 Lvも少しあがって上機嫌だぜ!

 初めての魔物がドラゴンでしたから!


「それよりもフレ夫からの情報によると盗賊団のアジトが、この森の北側って本当?」


「うむ、捕縛した盗賊から聞き出したらしい。魔法で虚偽は出来ない尋問だから間違いはない」


「に、しては全然らしい場所が無いな」

 なるべく辺りを観察しながら進んでいるが、一向に見当たらない所か、景色にあまり変化がない。



 しばらく歩いていると、魔物の死骸があった。

 まだ新しい死骸だな.........

「これさっき倒したオークじゃないか?」


「そ、そうみたいだな、やはりここは魔の森!」

 妙にオーバーアクションで魔の森を強調するセリス。


「森自体になんの魔力も感じないわ。ただの森よ」

 ミカさんがあきれ顔でセリスを見る。



「すみません、道に迷いました.........」



「「.........」」

 二人ジト目でセリスを見る。


「ちょっと!エルフって森の妖精じゃないの?」

 ミカエルがキレ気味に吠えた。


「実は極度の方向音痴でありまして.........」

 セリスが汗を拭いながら俯く。


「森の精霊とかは?エルフなら精霊魔法とか使えるんじゃなくて?」


「.........ません」


「「は?」」


「精霊魔法使えません。なんか精霊が寄り付かない体質らしくて.........」

 縮こまり、目を合わそうとしないセリス。


「残念なエルフね。森の案内をかってでたのに道に迷い挙句の果てに魔法が使えないとかエルフ失格ね」


「おい!それは言い過ぎだろ!もっと言い方あるだろ!剣だけは取り柄とか!」


「エイル.........余計傷付く……」

 とうとうしゃがみこんで泣きだしてしまった。

 しまった。フォロー失敗だ。



「とにかく現状を打開しないといけないんじゃないの?このままじゃ日が暮れるわ」

 おっしゃる通りですね。


「あっ!空飛んで街の方向見てみるよ」

 飛べる事忘れてた。



 使徒モードになり、翼を展開する。


「お、おお!これが天族なのか?」

 セリスは見るの初めてだったか。


「一応、本来の姿だよ。髪の色が変わって翼生えるだけだけど」


「エイルマジ天使、これがE・M....」

「言わせねぇよ!」

 セリスに銀翼一発御見舞した。



 上空から辺りを見渡すと、現在地は森の北西部辺り。

 街は、南に行けば帰れるな。

「ん?」

 森の北側の方に屋根っぽいの見えるな。ひょっとしたら盗賊団のアジトじゃないか?



「アジトらしき場所見つけたけど、どうする?」

 下に降りると、ミカさんが正座しているセリスを何やら罵っていた。


「もちろん皆殺しよ!」

 相変わらず発想がぶっ飛んでますね。


「セリス、一応聞くけど、盗賊は殺して良いの?」


「別に問題はない。殲滅の報告の後、軍とギルドで検分が行われるはずだ」

 急に真顔になったが、正座状態でなんか説得力ない。


「じゃあ行きますか!」




 アジトは入り口は洞窟の様になっているが、建物を崖にくっつけた、ちょっとした要塞だ。

 見張りは入り口に二人、物見櫓に一人の計三人。

「爪の牙」には100人程いるらしい。

 先日捕縛した盗賊から得た情報だ。

 問題は出入口は一つとは限らない所だ。逃げ道がどこかにあるはずだが.........

 今は正面の見張りを何とかするしかないか。


「セリスは弓で入り口の見張りをなんとかできないか?」


「二人同時は厳しいな」

「なら、一人は私が殺るわ」

「頼んだ。俺は櫓をやる」



「後は作戦通りに宜しく頼む」

 そう言って俺達はそれぞれの持ち場に移動した。


 .........少し、緊張はするものだ。

 一撃必殺。文字通り、一撃で目標を殺す。


 立案したのは俺自身だが、初めて人を殺す事に抵抗がない訳じゃない。


 だが、この世界では非日常的な事が、当たり前の様に思えてくる。

 殺らなければ殺られる。殺られる前に殺れ。

 それがこのファンタジーな世界の常識なら覚悟を決める時だ。


 俺は刀を握り絞めた。


 俺が翔ぶと、セリスの弓矢が見張りの一人に命中した。ほぼ同時に隣の見張りの頭が爆ぜた。ミカさんによるものだろう。


 見張り櫓に居る、一人の高さまで翔んだ俺は雷電丸を抜刀して、背後から横一文字斬り、首を跳ねた。


 そのまま櫓に乗り込むと上空に魔法陣を展開する。


 その間にミカエルが魔法で土の壁を作りあげる。

「物質創造」


 5メートル程の壁をアジトの両サイドに創り、出てくる盗賊を1箇所に纒めるためだ。


「ヘブンクロス!」


 上空から光の柱がアジト目掛けて着弾すると、アジトの建物部分を粉砕し、洞窟部分にも大きな穴を開けた。

 辺りは爆発の土煙が立ち込める。


「殺ったか?」

 セリスがありがちなフラグを立てた。


「.........」


 数分後、誰も出て来ない所を見ると全滅したのだろう。

「あの爪の牙をこんなにあっさり.........」


「私は奥を見てくるわ」

 ミカは魔法で瓦礫を破壊しながら洞窟内部に入って行ってしまった。


「セリス!まだ警戒しておこう。出入口がここだけとは思えない」


 櫓から降りて辺り見渡す。



 すると……後ろから声を掛けられた。



「随分派手にやってくれちゃったなぁ!おい!」


 一人の盗賊らしい男が肩に剣を担ぎ立っていた。


 全く気配に気付かなった。まさか後ろから出てくるとは完全に油断した。


 その男を見たセリスが驚き、口を開いた。

「ギャレット!」


「ん?なんだ、やけに美人が居ると思えばセリスじゃねぇか!久しぶりだなぁ!」


「なんであんたがここに居る!」

 動揺し事態を飲み込めてないセリス。


「ああ、そっちの嬢ちゃんの言った通りだぜ。出口は一つとは限らないってな!」


「そうじゃなくて!なんであんたがこの場所に居るのかって聞いてるの!」



「ああん?そりゃもちろん、俺が「爪の牙」の頭だからだよ!セリス、いや今はサンク市防衛隊副隊長様だったか?」

 くくくっと笑いながらセリスの動揺を楽しむかの様に話す。


「おい!お前、セリスと知り合いなのか?」

 気になるので聞いちゃいました。


「おお、嬢ちゃん!気になるよなぁ!知りてぇよな?なんで盗賊の頭と副隊長様が知り合いなのかをよ!」


「やめろ、やめてくれ.........」

 剣を落とし、頭を抱え震え出すセリス。


 そんな事は見えてはいないかのようにギャレットは語りだした。




 ◇


 12年前、セリスは15才。エルフとしてはまだまだ子供ではあるが、人族の国で育ったセリスは成人として扱われる為、冒険者ギルドにて身分証を発行して貰いに来た。同じ街の中なのにセリスは道に迷い、朝に家を出たのにも関わらず、既に夕方になっていた。

 ギルドカードを受け取り、ギルドを出ようとした時、急に腕を掴まれた。

「おい!姉ちゃん、こっちで酌しろよ!ガへへ」

 夕方にもなると依頼を終えた冒険者が、ギルド併設の酒場で飲み始める。

 その男もその一人なのだろう。既にかなり酒臭いが。

「痛っ、やめて下さい!」

 急に腕を掴まれ、抵抗しても冒険者の男の腕を離せない。

「いいじゃねぇかよ、オラ!こっち来い!」


 ドカッ

 酔っていた冒険者の男は突然何者かに蹴飛ばされ吹っ飛んだ。

「何しやがる!」

 吹っ飛ばされた男が、起き上がり怒り出す。

「おや?オークかと思って思わず蹴っちまったが、万年アイアンランクのマルちゃんじゃないの!」


「くっ!ギャ、ギャレット!」

 青ざめるマルちゃん。


「ああん?」

 ギャレットが睨む。


「い、いやギャレットさん!お疲れ様です.........」


「てめぇも、お日様昇るうちから酒飲んでねぇで討伐の一つくらいやって来い!」


「は、はいー!」

 ギャレットに一喝されると一目散にギルドから出ていった。



「大丈夫かぃ?お嬢さん」

 スっと手を差し伸べるギャレットを見てセリスは。


「あ、あの、私を冒険者にして下さい!」


 ◇


「って事がな、あったんだよ」

 腕を組み、頷きながら過去話を終えたギャレットだが。


「ふーん、で、こいつ誰?」

 いつのまにか、洞窟から戻って来たミカさんが隣りで座って聞いていた。何やら鞄と麻の袋を大量に持って来ていた。


「あ?なんか美人が増えてんな!続き聞くかい?」



「もういい!ギャレット!お前は私がここでケリを付ける!エイル!淫魔!手を出すな!」


「淫魔言うな」

「わかった、任せる」


 セリスは腰の細剣を抜いた。


「ふん!じゃあ12年振りの痴話喧嘩と行こうかい!」

 ギャレットが剣を構えた。





 ◇教会◇


 エイル達が森で盗賊と戦っている頃、ティファはシスターに冒険者になって生計をたてる旨を伝えた。

 が、反対されていた。


「どうしてですか?こうして神託を受け、旅立たねばなりませんのに!」

 ティファは、アチナから貰ったサイン色紙を高々と上げた。


「その色紙がどうして神託だと言えますか!

 大体、我らが至高なる女神様が、天界より降臨なされ、下界の小さな教会にてあなたに神託を授けなければならないのですか?偽物に決まってます」


「うぅ、でも!天使様も居ましたし!」

「でもじゃ、ありません!物語の読み過ぎで現実と夢の区別もつかなくなったのですか?」


「やーだー、エイル様の元へ行くーのー!」

 泣きながら駄々こねるティファを他の孤児たちがクスクス笑っている。


「腕輪もー、貰ったのー」

 そう言って腕輪をシスターに渡すと。


「こんな物まで貰って!絶対後で膨大な金額を請求されるに決まってます!今すぐ返して来なさい!」


 ティファの物語はまだ始まりそうになかった。




 その頃とある草原


「くしゅん!」

 草原で肉を焼いていたアチナが急にクシャミをした。


「あっ、ビックリした。アチナ殿、風邪ですか?」

 アチナの隣で肉が焼けるの待っていた着物を着た狐族の女が箸を持ったまま言った。


「うーん、大丈夫だよ椿つばきちゃん。神は状態異常無効だから」


「あら、羨ましいわね。私は日焼けしてシミにならないか心配ですのに」

 日傘をさした銀髪の魔女が肉を裏返して微笑む。


「ノアは外へ出なさ過ぎだよ、何百年引きこもりだい?」

「200年くらいかしら」

「ギネス級ですな」


「ところで、アチナ殿、今日は何か重要な話があるとかで集まった訳だが、先程から肉を焼いては食べ、だけなんだが、そろそろ本題に入って下さらぬか?」

 肉をつまみに酒を飲んでる椿つばきが言う。



「実はね、子供が出来たんだ」

 頬を赤く染めながらアチナの爆弾発言に二人は

 肉を喉に詰まらせた。


「「ええっ!?」」


「どういう事でですか?」

 椿が動揺して箸を落としたり、酒をこぼしたりしている。


「あ、ああ子供って言っても、産んだんじゃなくて転生者をボクの眷属にしたんだよ。ある意味子供みたいなもんじゃないか」


「「なんだ」」



「そんなにガッカリする事かね?ボクだって母親に憧れはあったんだ。それを相手も居ない処女だからって理由で神にされたボクの気持ちも解ってもらいたいね!」


「あなたまだ、その事を根に持ってたのね。悪いと思ってるわ、結局私もリョーマとの間に子は授からなかったけど」

 魔族のノアとリョーマは邪神戦争後に結婚したが、子は授かる事なくリョーマは人族の一生を終えた。


「なんで授からなかったんだろうねぇ?」


「子は神からの授かりものだけど、神を封印した我らへの呪いぜよ。ってお師匠様が以前言ってましたな」


「「はぁ……」」

 ため息が漏れる。



 300才超えた英雄達の女子会だった。

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