第10話 『アチナ再び』
ギルド内の食堂にて
食堂の1番奥の隅にある6人かけのテーブル席に3人で座る。
「セリスに聞きたい事があって」
「うん、なんだろうか?」
「勇者について何か知ってる事ないかな?訳あって勇者を探しているんだ」
「勇者か.........わかり易く言うとクズだな。あれは」
異世界でクズ呼ばわりされている勇者って一体。
「まず、非常に女好きで、パーティは全員女。全員と関係を持ってるらしい」
「うわぁ……」
仲間内にも手を出してるのか!羨ましくなんて無いからね!許さん!
「だが強い。5万の魔物を単騎で全滅させる程だ」
「5万!化け物だね」
「だが、今は魔族側と休戦中の為、毎日カジノ通いだそうだ」
落ちぶれて弱くなってないかな。
「ねぇ!それよりも注文決めなさいよ!」
ミカさんご立腹。
「あーごめんごめん、エールと、えーとこの鳥バードの串焼きで」
あとはとりあえず適当に注文してもらった。何が美味しいか知らんし。
「とりあえず、乾杯だな」
あー、美味い。この世界に来て初めての酒だ。いや、宿で少し飲んだな。
素晴らしき異世界生活。飲んで食べて好きに生きたい。
なんて小さな幸せを感じておりました……が。
「おい、クソエルフ。なんでエイルの監視をする事になったのかしら?エイルについて知った事を話なさい!」
ミカさん、ど真ん中に投げたー。そして口悪いな。
「む、フレオニールが、エイルが天族である事をギルドを通じて知った。天族の存在は危険だ。邪神戦争の事もあるからとかなんとかってフレオニールが言っていてな、とりあえずエイルが、間違った方向に行かない様に同行する事になったんだ。よろしく頼む」
「ふん、私が付いていれば充分よ!死ね」
「いや、むしろ貴様が悪い虫にしか思えない」
何やら険悪な乾杯になってしまった。
そこにナイスタイミングの、ある意味お約束のアレが来た。
「やぁ!君達!どうやら新人さんかな?ボクは今、売り出し中の『隼の刃』のアントニオだ。良かったらボクが色々、力になってあげるよ」
なんか高価そうな鎧とやたら飾りの付いた剣を持った騎士風のイケメンが来た。
てか『隼の刃』って二つ名?パーティ名だろうか。
後ろにはやたら肌の露出の多い神官と、やたらボディラインのハッキリした黒いローブを着た魔術師の女達が、何やら、こちらを睨んでいる。
わかりやすいハーレムパーティですね。
「チッ!」
ミカさんが、邪魔しやがってと言ってそうな顔で舌打ちした。
「何この女!今、舌打ちしましたわ!」
神官の女がアントニオの右腕にしがみつきならがら言った。
その立派過ぎる双丘で腕を挟みつつ
「あんた達、新人の分際でアントニオの誘いを断るなんてバチが当たるわよ!」
バチってあんたら神ですか?
こちとら神の使徒なんですが。
「まぁまぁ、話中の所に割って入ってしまい気を悪くしたなら謝るよ。申し訳無かった」
素直に謝るアントニオ。割と良いヤツなのかな?
「お詫びに今日はボクに奢らせてくれないか?隣に失礼するよ」
引き下がらねー。
居座る気満々ですねー。
そして、ちゃっかり俺の隣に座って来た。
「やぁ!君すごく可愛いね。良かったら名前を教えてくれないかな?」
そう言って俺の手を握って来た。背中からなんかゾクゾクっと悪寒が走る。
気持ち悪い。
「ヒィっ」
思わず声が出てしまった。男に手を握られるって気持ち悪いな。
「「エイルに触るな!」」
目の座ったセリスが立ち上がりアントニオの胸ぐらを掴む。
それと同時にミカさんが、持っていたジョッキでアントニオの後頭部を叩いた。
その威力凄まじく、アントニオの顔面がテーブルに直撃して、テーブルを破壊した。
仲間の二人は慌てて、気絶した(たぶん)アントニオを引きずって、逃げる様に帰って行った。
「ありがとう助かったよ」
素直にそう言った。純粋に二人に助けられた。
本当にそう思って自然と感謝の言葉が出た。
「べ、別にあんたを助けたわけじゃないから!ただ
理由はどうあれ助かりました。ツンデレのセリフみたいだけど。
結局、日が暮れるまでギルドで飲んでしまった。
だが、酒のお陰かミカさんとセリスも少し打ち解けたようで良かった。
因みにセリスは酒が弱く、あの後はすぐに酔いつぶれた。
宿に戻り、セリスが1人部屋。ミカさんと俺が同室だ。勝手に部屋を一緒にされていた。ミカさん曰く、俺が一人で変な行為をしないか心配だからだそうだ。二人を宿に残し、俺は夜の街へ1人で出かけた。
この世界の神アチナに会うためだ。
基本的に呼べば会えるらしいが、教会の方が電波が良いらしく、出来れば教会が良いらしい。
何の原理だ。
仕方ないので。街中にある小さな教会に来た。
入口にカギはかかって無かったので、勝手に入ってしまったが、大丈夫だろうか?
まぁ、神社とか、フリーでお祈りするから大丈夫だろう。
教会の奥にある燭台と神の像?が祀られてる場所で、膝をつき、手を合わせる。
「おーいアチナー、俺だよ俺!」
「出てこいやー!」
すると、女神アチナが現れた。
「もう少し呼び方を改めようか」
ちょっと不機嫌そうだ。
「呼び方まで教わってないですが」
「それより、何か用かな?」
「勇者ぶっ殺してもいい?」
「は?な、なんで?」
「勇者の事なんですが、どうやら前世で俺を殺したヤツらしいので、倒そうかと」
「君はボクを邪神にでもしたいのかい?」
俺は、この数日の出来事と勇者の現在の素行の悪さ等を簡単に説明した。
「話は分かったけど、流石にそれだけで勇者を敵に回すのはボクとしては了承出来ないよ。勇者と敵対すると言う事は人界と敵対する様な事だ。もう少し様子を見てから考えて欲しいかな。勇者が世界に害を成す存在であればその時は力を貸すよ」
確かにアチナの言う通りだ。神の使徒が私怨で世界を敵に回したら、世界がアチナを邪神認定してしまい、300年前にあったとされる邪神戦争と同じ事になるらしい。
邪神戦争
この世界の創造神アルテミスと12人の守護天使を従え
世界を混沌へと陥れた。
世界を滅ぼしかねない神の存在を知った人族の勇者と魔族、亜人族らと共に、神と戦った。
戦いの末、アルテミスを封印する事に成功した。
勇者リョーマ、亜人の戦士ライオ、魔族の魔術師ノア
聖女アチナ、ハイエルフの精霊使いユーリ。
5人の英雄によって世界は救われた。らしい。
「なるほどね、因みに英雄のアチナって人は?」
「ボクの事だよ。元は人間だったんだよ、神官として勇者と共にアルテミスと戦ったんだ。だけど、星の管理者を失うと、世界を維持出来ないらしくてね、誰か一人が神にならないといけなかったんだ」
「仕方なくボクがなったんだよ。ボクだけ独り身だったから.........グスっ」
なるほどアチナを除いた他の英雄達は恋仲の相手がおり、これから幸せな生活が待ってるのに、神になんてなりたくなかったから、アチナに押し付けた訳だ。誰でも神になれるのかな?人選ミスだよね。
「でも、封印て事は倒せてはいないみたいな感じだけど、復活とか大丈夫なの?」
大抵、封印された存在って復活して大変な事になるのが相場だ。邪教の狂信者とか邪神の力を手に入れようとする悪いヤツとか。
「そう簡単に封印は解けないよ。勇者の封印は代々剣聖達が守ってるから」
セキュリティは万全てわけか。
でも復活はありそうな気がするのは、俺だけだろうか?
「とにかく今はあまり世界を刺激して欲しくない。君の事情も理解出来るが、今はまだ大人しく世界の状況を見て来てくれ」
納得出来た様な出来ない様な感じだが、仕方ない。
今回はとりあえず、無しの方向でミカさんにも納得して貰おう。
シスター見習いのティファは、2階にある自室から見える礼拝堂に入る人影を見た。
「こんな時間にお祈りなんて珍しいですねぇ」
人影はまだ少女の様だったが、夜に1人出歩くなんて大変危険だ。何か特別な事情があって神にでも縋りたいのでしょう。と勝手な推測と好奇心でティファは礼拝堂に入った少女を見に行く事にした。
ティファの自室のある建物と礼拝堂は繋がっており、急にお祈りやら、懺悔やらが来た時の為に近道がある。礼拝堂の裏側に回り込む事が可能だ。
ティファは近道を使い、礼拝堂の奥、祭壇の横の部屋まで辿り着いた。結構、息が乱れてるが、息を殺し礼拝堂の来客をそっと覗いた。
「出て来いやー」
少女が明らかに祈りではない奇声を発しているのを聞き、今出て行く勇気を失った。
すると女神像から1人の女が現れた。
「もう少し呼び方を改めようか」
突如現れた女はとても現実とは思えない程、美しく、見ているだけなのに涙が止まらない。
神の降臨。まさに美しき麗しの女神としか思えない輝きを放っていた。
なんと言う事でしょう。私は今、女神様の降臨を目の当たりにしてしまうとは!
ティファは声に出せない興奮MAX状態で 心拍数が最高潮だ。
とんでもない会話を聞いてしまった。
勇者様が実は罪人である事。あのエイルと言う少女が神の使徒である事。
今現在は冒険者として活動しているらしい。
それよりも、あの聖女アチナ様が目の前に!
ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
体中から汗が出て来た。なんかパンツも湿ってる!
僅か1歩先の出来事。だが、その1歩先は神の領域。
非現実的な光景が目の前にある。
まるでそれは、おとぎ話の物語の出来事が今、目の前で演じられてるかの様に。
ティファ17歳 人族
栗色の少しくせっ毛があり、肩口で跳ねているのが特徴だ。
ティファは5歳の頃、戦災孤児として、サンク市にやって来た。
以来、孤児院兼教会である、街外れの小さな教会で育った。
ティファには治癒術の適正があり、まだ見習いではあるが、日々治癒術の勉強をして過ごして来た。
いつかは憧れの聖女様の様に多くの人の手助けをして世界を救う様な冒険がしたい。そう願って生きて来た。
この一歩を踏み出せば、何か変わる様な気がする。
私の物語は、この先から始まるのです。
ティファは思い切って飛び出した――――
「あのー」
言いかけた途端、自分の汗で足を滑らせ、すっ転んだ。
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