第9話 『その女凶暴につき』


街から出て1キロ程の近距離に流れる川沿いにナオーリ草が生えていた。

 早速ブチブチとむしり麻袋に入れて行く。


「あー軍手必要だったかも」

 次に採取依頼をする時は軍手と鎌、帽子も有った方が良いだろう。なんて考えながら一人で依頼をこなしていた。

 ミカさんはと云うと、木陰で釘バットを担いでる。

 他人から見たらどんな風に見えるだろうか?


「サッサと終わらせなさいよ!ヒマすぎ!」


 手伝う気ゼロね。なんかふと、コンビニバイト時代を思い出した。

 よく2人夜勤中に俺が洗い物や、掃除等を終わらせるのを結城美佳は待っていた。

 休憩時間に2人でオンラインゲームをやるのが、日課だった。その時と同じ様な気がした。

「懐かしいな」


 ドカッ

 後ろから石が後頭部を直撃した。

「痛え!」


「何1人で物思いにふけってんのよ!」

 なんか怒ってます。


「あ、てんとう虫」

 異世界にも、てんとう虫いるんだなぁ。


 ガシャ

 ミカさんが、釘バットで草ごと粉砕した。

 ていうか、武器が釘バットとか、悪役みたいだよ!


「てんとう虫がぁぁぁ!」


 鬼ですか?悪魔ですか?あんたは?

 本当に酷い女だ。


「もっと派手な依頼とか無いの!暗殺とか毒殺とか撲殺とか!」


「それ、殺し屋の仕事だろう」

 派手な暗殺ってなんだよ。


「まだ冒険者見習いなんですいません」


 そんな中、少し離れた街道に1台の馬車が走っていた。

 ミカさんが少し馬車を見てから、突然、近くに落ちてた石を釘バットで、打ち始めた。

 鋭い弾丸ライナーで石が馬車に向けて飛んで行く。


 突然、馬車を襲撃するミカさんに驚愕する。

「何してんのぉぉ!?」

 いくらヒマすぎとか言えども、馬車襲撃して暇つぶしとか、何処の悪党ですか?


 次々とノック打ちされた石が馬車を直撃する。


「あいつら、私を騙した馬車よ!」


 あー、なんかそんな事言ってたなぁ。

 ミカさんは、魔国を出て、偶然見かけた馬車に乗せてもらったのだが、野営の時に荷物を持ち逃げされたらしい。

 て事は相手は盗賊ですね。

 馬車は方向転換して、こちらに向かって来た。

 中には3人いや、4人か。


 馬車内から、矢が飛んで来る。

 俺は雷電丸で薙ぎ払い、構えた。


「お前ら何してくれてんだ!ゴラァ!俺達を「爪の牙」と知って喧嘩売ってんだろうなぁ?」

 人相の悪い、モヒカンの世紀末みたいな男が血相変えて向かって来る。

 爪の牙ってなんだよ。変な名前だ。


「私の荷物返しなさいよ!」


「んあ?てめぇは、あん時の怪しい女!生きてやがったか?まぁいい、裸にひん剥いてぶっ殺してやるぜ!野郎共!やっちまいな!」


「「ヒャッハー」」

 ゴツイ男3人と小柄な亜人が1人。人数的には劣勢だが・・・


「よく見りゃそっちの女も上玉じゃねぇか!たっぷり楽しんでやるぜ!ゲヘヘ」

 うわー、ベタなセリフありがとさん。


「おい!リオ!てめぇはそっちの銀髪をやれ、殺すなよ!」

「わかったなのです」

 リオと呼ばれた亜人が、飛びかかって来た。


「速いっ!」一瞬で間合いを詰められた。すかさず雷電丸を横に薙ぎ払うが、簡単に躱される。

 速さだけならセリス以上だ。

 武術の使い手なのか、ただ単に武具持ってないのかは、解らないが素手だ。

「ぶっ殺すなのです!」


 リアルに「なのです!」って言う人初めて見た。


「だだだだだっ!なのです!」

 連続の拳撃を撃ち込んで来た。が、うん。やはりドラゴンに比べたら軽いな。

 避けるまでも無い。だけどこちらの攻撃は全て躱されるので、勝負がつかない。さて、どうするかな?


 ちょっと川を使うか。

 リオの攻撃を躱しながら、川の方へ誘導する。

 そして、使徒モードに変身。


「!?変わったなのです?」


「銀翼!」足元に向かって銀翼のマシンガンを放つ!

 が、これも躱す。

 躱した所に超速で飛び、蹴りを入れてリオを川に落とした。

 水しぶきを上げ川に落下したリオは少し流されたが、水面には出てきた。

「ぶはぁ」



 少し上空から、リオを確認すると雷電丸を空に向け魔力を込める。刀身がバチバチと雷を纏った。

「100万ボルト!」


 強烈な爆雷が川に落下する。


「フギャギャギャギャ!」


 ビリビリ作戦成功!


 プカーっと浮いて来たので回収して岸に放り投げた。


 さて、ミカさんは大丈夫だろうか?



 ミカVS盗賊3人


「へっへっへ、けしからん身体しやがって覚悟しろよ」


「フン!お前ら達に抱かれる位なら、ゴブリンの方がマシよ!」


「気の強え女だなぁ!3人相手に勝てると思ってんのか?おい!」


 ミカが手を盗賊1人に向ける。以下盗賊A

「夢幻」


 すると盗賊Aは虚ろな顔を上に向け脱力した様に膝を地に着けた。「うあぁぁ、はぁっはぁっ」

 何だか幸せそうだ。


「快楽に溺れて死になさい」


 やがて盗賊Aの髪は白くなって行き、急激に老化し、ミイラの様になり、白骨化した。


「ヒィィ!」盗賊Bが叫び出す。


 ミカエルが自分の口元に掌を近付け、フーっと息を吹く。

「毒霧」


 盗賊Bの全身がキラキラした霧に包まれた。


 身体中に黒い斑点が盗賊Bを侵食して行く。

 たまらず苦しみ出す。

「うがァあぁ!た、助けてくれ!ん、がはっ」

 そのまま絶命した。


「ヒッ!頼む!見逃してくれ!荷物も金も全部やるから!こ、殺さないでくれ!」

 リーダー格の男は尻もちを付き、ガクガクと震えている。


「殺してから頂くわ」


「あ、悪魔!」恐怖の表情でミカを見上げる。


「大体合ってるわ」

 冷たい眼でリーダー格の男を見下ろすと、少し微笑んだ。


 次の瞬間、釘バットでフルスイングされた頭は何処か遠くへ飛んで行った。



「…………エグい」


 本当に悪魔だわコイツ。簡単に人を殺した。

 改めて異世界が、俺達の居た世界とかけ離れた場所だと認識させられた。

 俺達の非日常が、この世界の日常。



 ミカさんが馬車内を物色中、俺は先程、無力化した亜人を川から引きずり出して来た。


「やっぱり荷物は無いみたいだわ。多分アジトに持ち帰ったのかもしれないわ。アジトを襲撃しないとダメね。面倒だけど」


「この子はどうする?このまま放置って訳にはいかないよな?」


「アジトの場所を吐かせるか、案内させるのに必要だわ、この縄で縛って連れて行きましょ」


 そう言うと手際良く、縄でリオを縛り上げた。




 ナオーリ草の依頼分も採取出来たので、俺達は街へ戻った。




 ギルドの受付カウンターに居たローザに声をかける

「ローザさん、こんにちわ。無事に依頼完了しました」


「あらエイルちゃん、採取終わったのね!お疲れ様。それじゃぁ確認するから、袋を預かるわ」


 袖の収納から麻袋を取り出しカウンターに置いた。


「はい。確認しましたので、ギルドカードを石版に置いて依頼完了よ!」


 ギルドカードを石版に置くと少し光った。

 報酬は2000ジルか。

 因みにミカさんの話だと1ジル1円くらいらしい。


「依頼完了ね。これでランクがペーパーからストーンランクに昇格ね」

「ところで、その縄で引きずってる物体は何かしら?」


「あっ、忘れてた!外で捕まえた盗賊団の一味です。捕縛したので連れて来たんだけど、どうしましょう?」


「捕縛って、それ生きてるの?一応こちらで預かるけど、多分、兵舎に移送されると思うわ」


「よろしくお願いします。後でこちらも幾つか聞き出したい事があるのですがいいですかね?」

 ミカさんの荷物回収の為、アジトを聞き出さないとだな。


「それは大丈夫だと思うわ、捕縛者なんですもの。

 念の為、報告はさせていただきます」



 そんな話をしていると、ギルドにセリスが入って来た。

「やはりギルドに居たか。宿に行ったら朝に宿を出たと聞いたのでギルドに来れば会えると」


「やぁ、セリス。これから迎えに行こうと思ってた所だよ。えーと、改めてよろしくね!」

 セリスはいつもの騎士服ではなく、冒険者風の様相になっていた。下が、パンツでは無くスカートになっているのは嬉しい限りだ。

 ピシッ !なんか今、後ろからプレッシャーを感じた気がする。



「エイル。その女は誰?」

 ミカさんが今にもセリスに殴りかかりそうな怖い顔で威圧している。


「挨拶が、遅れてすまない。私はファミリア王国騎士団、サンク市防衛隊副隊長のセリス・アレクサンドロワだ。隊長のフレオニールから聞いていると思うが、今回エイルに同行する様に任を受けた。以後よろしく頼む」



「あらそう。私はミカエル。いらないから帰りなさい。騎士団のスパイなんて願い下げよ!」


 なんで、バチバチした空気作るかなぁ。これから暫くは行動を共にする仲なんだから、仲良くして欲しいっす!


「スパイとは心外だな。私の任務はエイルをお前みたいな悪い虫から遠ざける事なんだがな」


「それこそ要らないって言ってるのが分からないのかしら?私とエイルは貴方以上に深い仲なんだから」


 えっ?そんな深い仲でしたか?


「わ、私だってエイルの裸くらいは知っているぞ!なんせ、保護した時に、体を拭き、着替えさせたのだからな」


 あっ、セリスが着替えさせてくれたのか!

 ちょっと恥ずかしいな。


「ふ、ふーん。裸くらいで何言ってるのかしら?私なんてエイルの敏感な所や感じる所まで知り尽くしているわ!」


 えっ……それは前世の時の体開発ですか?そんなカミングアウト必要ですか?因みにどこですか?


「び、敏感な所だと?ふ、2人はそこまで……」


 ヤバいセリスが変な勘違いをしてるのか、顔が真っ赤になっている。


「ま、まぁここじゃなんだし、とりあえずそっちの食堂で乾杯でもしようよ!ね?」


 あぁ、このパーティ大丈夫だろうか?

 ストレスで胃が痛くなりそうだ……

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