第8話 『本人登場』
兵舎に向かう道を歩いていると、何だか誰かにつけられてる感じがした。マリーではないのか。
とは言っても、つけられる覚えもないので気にしない事にした。自意識過剰かもしれない。
それに、ただ歩いているだけで、色々な人がすれ違いざまに、チラチラ見てくる。特に男だが。
「今の子、凄く可愛くない?」
「お人形さんみたい」
などと言う声がチラホラ聞こえて来る。
それも全てこの容姿のせいである事は間違いない。
生前の結城さんは非常にモテた。
バイトで一緒の時は、結城さんのレジだけ行列が出来る始末で、いつも嫌そうな顔しながら接客をし、時には客に対して失礼な行ないをしたり、罵倒したりと、酷い店員であった。逆にそれを、御褒美と思い、喜ぶ変態も少なくなかった。
なんて考えていたら、兵舎に着いた。
「すみません。えーと隊長さんに会えますか?私、エイルといいますが、取り次いで頂きたいのです」
「かしこまりました。エイル様ですね。どうぞ中でお待ち下さい。直ぐに隊長を呼んで参ります」
中々丁寧に案内された。セリスとの模擬戦の効果で、駐屯している兵士には顔が割れているらしい。
聞く所によると、セリスは王国でも実力の高い騎士で、隊長のフレ何とかさんとも互角なんだそうだ。
女騎士ってなんか良いよね。俺が男だったらなぁ……
「はぁ……」
俺が今更、女になってしまった事で落ち込んでいると、隊長のおっさんが入って来た。名前は忘れた。
「待たせてすまない。私に用があると聞いたが、なんだろうか?」
「あー、忙しい所すみません。ちょっとギルドの依頼で町の外に出ないといけないので、大丈夫かなと」
「ああ、そうか。冒険者になったのだったな。セリスから聞いているよ。うむ。良いだろう。ただし次回以降はセリスを同行させても良いか?」
セリスを同行?
監視なのだろうか?でもセリスが一緒とか最高です!
エルフと2人で冒険者ってのも悪くない。
「セリスさんと御一緒なら有難いです」
と言うわけで、外出の許可も取れたし、セリスが今後も同行してくれる事になった。
俺は鼻歌を歌いながら兵舎を後にした。
「やったー♡」
日も暮れて来そうな時間になってしまったので、採取依頼は明日の朝からにしよう。
宿への帰りついでに、防具を揃えた。
革製の胸当てと、小手を買った。サイズが子ども用しか無かったが、おかげで安く済んだ。
夕食までは時間があったので、部屋でマリーから受け取った衣類に袖を通したりして姿見で確認してみた。
胸当てを装着して着物を羽織ると、ちょっとだけ胸がある様に見える。
「うーん。ニセパイだな」
姿見に映る自分を見る。着物と防具で少し凛々しい姿だ。やだ可愛い♡
マリーめ、良い仕事しやがる。
一通り、着てみたので、別途作ってもらった普段着に着替えた。白いブラウスにショートパンツだ。
スカートはやはり慣れないので落ち着く。股の間はスッキリだが。
今夜の食事がカレーうどんだったらアウトだな。なんて考えていたら、ドアをノックされた。
「ミカエルだけど、今少し良いかしら?」
ミカエルさん?一体なんの用だろうか?
「はい。大丈夫ですよ、どうぞ」
別に見られて困る物も無いので、直ぐに招き入れる事にした。
ミカエルさんは部屋のドアを閉めると、急に飛びかかって来た!そのままベッドの上になだれ込む形になり、ミカエルさんが馬乗りになった。
まさかの夜這いですか?女の子同士ですぞ!
なんて変な事考えていたら、そんな艶っぽい展開では無いようでした。
ミカエルさんは隠し持っていたナイフを俺の眼球の前に突き出し、空いてる手は首を掴んで来た。
「殺されたくなければ、私の質問に答えなさい!返答次第では殺すわ!」
何それ!結局殺すんですか?何が正解なんでしょうか?
殺されない模範解答は一体!
「……分かった……から……手……を」
ミカエルさんの左手が首を掴んでいるので、上手く声が出せない。答えよう無いじゃないか!
「ふん。仕方ないわね」
首を掴んでいた手を離すが、右手のナイフはこちらに向いたままだ。
「エイル。あなた何者?素性を明かしなさい!東の山奥から来たと言ってたけど、この大陸には東側に山は無いわよ」
あら迂闊!この大陸の知識不足と言うか、アチナの適当過ぎる地図のせいかもだけど、いきなり詰んだ。
「……う、えーと、私は、いや俺は女神アチナの使徒です……」
仕方ないよね?言わないと殺されそうだし。
「使徒?あなたが?人界の神アチナの使いだって言うの?」
「ええ……一応そうみたいで……」
「あなた日本人でしょ?食事の時に、いただきます。と言ってたわ」
なんと!それだけで日本人って分かるの?いただきますって世界共通だと思ってたよ。外国行った事ないけど。
「本当の名前……教えなさい」
再び、ナイフの先をこちらに向けり。少し手が震えているようだ。
「咲野……大河……です……」
「!」
ミカエルさんは、持っていたナイフを床に落とした。
すると、急に抱きついて来た!
絞め殺すつもりか?
「やっと……見つけた!咲野くん……私だよ。結城美佳だよ……」
「はい?」
どういう事?ミカエルさんが結城さん?どうしてだろう。何がなんだか分からないのだけど……
◇
ミカエルさん(結城美佳)はこの世界に転生して15年なんだそうだ。俺と15年の差がある。
俺たちはお互いの無事?を確かめあった訳だが……
「なんで咲野くんが私の体で転生してんのよ!」
まぁ、そうなりますよね。そんな訳で、結城美佳、改めミカさん(と、呼ぶ事にした)に女神アチナの間違いで、この体になった事を説明した。
「その女神大丈夫かよ?駄女神なんじゃないかしら?」
ミカさんの毒舌は転生しても変わらないようだ。
そのミカさんは魔族に転生してしまったらしい。父親が
それでもミカさんは今の姿には満足しているみたいだ。
なんて言っても、前世には無かった武器。
巨乳を手に入れたのだから。
「ミカさんはなんで魔国を出てファミリア王国に居るの?魔族って普通に居て大丈夫なのかな?」
「魔国を出たのは……勇者を殺すついでに君を探すためよ。一応偽装して人族に見える様にしてるから問題ないわ。ギルドカードも偽造だし」
サラッと勇者殺すとか、偽造カードとか出て来ました。
関わりたくないのだけど。
「なんで勇者を殺すとか物騒な事言うの?俺は出来れば無難に生きていきたいんだけど」
「はぁ……相変わらずね君は。勇者はね……私たちを殺した、あのコンビニ強盗なの。だから殺す!」
あのコンビニ強盗って言われても、ストッキング被ってて顔まで知らねーよ!
「し、証拠は?」
「私、殺される時に、ストッキングを剥いでやったから、顔はバッチリ覚えてるの。よく店に来てたヤツだし。だから一緒に殺すの手伝いなさい!」
「えぇー?」
ヤバい!めんどくさい事になった。正直、今更恨みとか無いんだけどな。それに勇者を殺すとか、人類に敵対する事になりそうだし、てか、なるし。
でも……俺が手伝わないと、ミカさんは1人でも殺るつもりだ。そうなったらミカさんは死ぬかもしれない。
それは見過ごせない。でも……
「勇者はね。その地位を利用して毎日、女をひっかえとっかえして、ハーレムを満喫してるそうよ」
「すぐ殺そう!凄く殺そう!」
許せない!俺が女の子でハーレム出来ないのに、自分だけ、ハーレム三昧かよ!ぶっ殺す!
「んで、勇者ってどうやって殺すの?いつ殺る?」
「う、うーん……それはまだ考え中……かな?」
あっ、コイツ、ノープランだ。
そんな感じで、俺たちは再び異世界で再会し、勇者を殺すと言う目的を同じくし、行動を共にする事になったのです。
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