第7話 『模擬戦』

執務室で腕を組みながら、フレオニールは考え事をしていた。

 考えてるのは先日保護した少女、エイルの事だ。

 今日の午後にセリスと街に出かけた際に冒険者ギルドにて、冒険者登録をするのは予想済であった。

 事前に彼女の登録情報をこちらに開示する様に根回ししておいたのだが……


 ギルドからの内容は、想定を遥かに超える内容だった


 名前エイル 種族 天族 職業 天使見習い

 Lv5

 体力2400 力2400 敏速2400 魔力2400


 ステータスはLv5にも関わらず2000越えが異常値だ

 フレオニールはLv60で約700

 普通はLv5なら100~200の間だ。


 それよりも問題なのは、種族と職業だ。

 天族ってのは元来、世界に生息していない種族で

 天界より神の使いとして現れるとされている伝説の種族のはずだ。




 記録では300年前にあった邪神戦争を最後に確認されていない。

 子供の頃、祖母が「悪い事をすると天使が来て何もかも壊してしまうぞ」と言われたのを思い出す。

 人族の伝承では、天使即ち天族は邪神の使いであり、全てを壊すものとされている。

 存在そのものが、既に災厄級である。フレオニールが無い頭を使って考えいる状況だ。



 そんな中、フレオニールの悩みなど知らない2人。

 エイルとセリスは兵舎の外にある訓練所にいた。


 エイルは昨日約束したとおりセリスに剣術の指導を受けに訓練所にいた。


「まずは目の前にある.、標的を斬撃で斬ってみましょう」


「はーい」

 エイルは訓練用の剣を握りしめ、丸太と藁でできた人形と向かい合っていた。


 訓練所には、先日保護した美少女を観ようと兵士達が多数集合中である。


「えいっ」

 エイルが剣を振りかざすと、丸太が爆発四散し、爆風で辺りの砂やら小石やらが周りの兵士達に降りそそいだ。

「けほっ、一体何がっ」


 丸太があったであろう場所はちょっとしたクレーターの如く地面がえぐれていた。

 全員が呆然とエイルを凝視していると、バツの悪そうな顔をしたエイルが「き、斬ったかな?」


「「斬ってないから!」」

 総突っ込みが入りました。


「今のは斬撃ではなく打撃です、まずは素振りからにしましょう」

 セリスが引きつった顔で言ってきた。


 それから2時間ほど、基本動作をみっちり学んだ。


 そして模擬戦をする事になった。


「いいですか?打撃ではなく斬撃ですよ!あと全力はやめて下さいね!丸太の二の舞にはなりたくないので!」


「は、はい気を付けます」


 セリスと向かい合う、やはり美人だ。

 男の身体で転生していたら、土下座してでもヒロインをお願いしたいです。


 セリス・アレクサンドロワ

 ファミリア王国サンク市防衛隊副隊長

 その容姿もあってか、男女問わず人気も高いが、実力も王国でも五指に入る程の実力者だ。


 だが、エルフにも関わらず魔法が一切使えない。

 エルフ=精霊魔法ていうのが世界の常識なのだがセリスは、どんな精霊とも契約出来なかった。

 故に残念エルフと密かに囁かれている。

 残念な理由はそれだけでは無いらしいが。



 剣を正眼に構える。まずは受けに回り様子を見よう

 と言うより、迂闊に飛び込める相手ではない気がする。


「行きますよ」

 セリスがそう言った瞬間、一気に間合いを詰めて来た

 突進と同時に左になぎ払って来た。


「うおっ」

 速いっ!後ろに一歩飛んで、なんとか避けた。

 が、直ぐに上から剣が降りて来る。

 剣の腹で防いだ所で、腹に蹴りを食らう。

「がはっ!」

 えげつないが、これが実戦剣術なのだ。


 容赦なくセリスの剣術が、襲って来る。

 防戦一方だ。

 キン、キン、キン。

 剣と剣のぶつかる音が辺りに響く。


 周りのギャラリーもヒートアップして来た。

「やめてー!鬼畜ー!」

「エイルちゃんをいじめないでぇぇ」

「逃げてぇー」「セリス姉さん素敵ぃ!」

「ヒャッハー」「結婚してくれぇぇ」


 関係ないのも混ざってるが、言いたい放題だな。

 ていうか、何故名前知ってるんだ!

 よく見たらマリーじゃねぇか!いつの間に!


 とにかく、この状況を打破する手は……





 剣術を獲得しました。




 来た!ものまねスキル発動!



 剣術スキルのお陰で、セリスの剣の動きが良く分かる様になった気がする。

 今までは反射的に防いでいたが、剣筋の予測が出来る様になった。



 勝負は直ぐに決した。



 セリスの右袈裟斬りを、下方に捌ききり、剣を右片手に持ち替え、そのまま時計回りに一閃。セリスの首の後ろを捕らえる。

 もちろん寸止め。



「ま、まいった……」

 セリスの首筋に寸止めされた状態で、セリスが降参した。


 剣を下ろし、深呼吸してから

「ありがとうございました」

 礼をした。


 やはりスキルって凄いな。ノースキルだったらフルボッコにされているのは俺だ。

 今回はかなりの収穫だ。


「いやー、でもギリギリでしたよ、セリスさん凄い速いんだもん」


「それだけが取り柄ですから。あと、いい加減、さん付けはやめて欲しいな。セリスでいい、私もエイルって呼んでいいか?」少し頬を赤らめたセリスがこちらを見つめる。


 そんな眼で見るな。普通ならヒロイン誕生の回みたいな展開じゃないか!


「うん、よろしくねセリス」

 その笑顔100万ボルトと言わせる位の最高の笑顔を食らわせてやった。

 セリスの中で何かが弾けたのは、本人しか知らない。



「汗もかいたし、お風呂入りたいな」

「では案内しよう」


 訓練所を後にし、浴場へと向かう。

「結構、打ち込まれたからしみそうだなー」


「すまない、痛かったか?」

 申し訳無さそうにセリスが、言う。


 やがて、浴場に着いたが、ここで重大な事に気付く。



 女子風呂やん。



 いいのか?というより、遂にこの時が来てしまったと言うべきか?

 乗り越えなければならない一大イベント発生だ。

 だが、合法的に女子風呂に入れる事を喜べ俺!


 いざ!女の園へーー




 って誰も居なーい!ショボーン。



「着替えは置いておくから、ごゆっくり」

 セリスも行ってしまった……


 仕方ない、一人で入るか。


 服をバサッと脱ぎ、鏡を見て気付いたが、先程の模擬戦で、出来た傷が全て消えていた。

「ひょっとして再生機能付きなのか?」

 便利な身体になったもんだ。



 ◇



 今日の目的は、マリーの店に服を取りに行く事と、ギルドに行って、依頼を受ける事。



 カラン…

 マリーの店のドアを開けるとベルの音が鳴る。

「ごめんくださーい」


 あれ?居ないのかな。

 店内を見渡すとカウンターの奥で血溜まりの中にマリーが居た。


「?!」

「死んでいるのか?」


 後ずさりながら、何故?マリーが殺されたのか?

 この場合、何処に通報するのか解らず、オロオロと

 狼狽えてしまう。

 異世界来ていきなり知り合いが死ぬイベント発生!




「なーんてね」


 死んだはずのマリーが起き上がってケラケラと笑ってる。

「え?」


「ビックリした?」

「驚かそうと思ってさー、アヒャアヒャ」

「マリーだけに血溜まりー、なんちゃって!」



「…………死ね」

 脳天にチョップを食らわしておいた。

 何なんだコイツは、昨日もどさくさに紛れ模擬戦見に来てたし、宿からつけてたのはコイツだろう。


「おおぉ」

 頭を抱えて悶絶している



「で、服は出来たのかよ?」



「ふっふっふ、勿論出来ていますぜ旦那」


 もうマリーのキャラが分からない。



「ジャジャーン!どうですか!」


 お、和服だね。まさか異世界で和服とは予想外だが

 何故に?!


「やはりカタナにはキモーノですよ!剣聖もそうだし」

「剣聖?って着物着てるの?」

 新たなワードが出てきたが剣聖ってのがいるとして、刀を使うのだろうか?


「え?!剣聖知らないとか大丈夫ですか?」

 マリーが阿呆を見る様な仕草で反応する。

 なんかムカつく。


「知らないもんは知らないし!

 何なんだ剣聖って?」


「えーと、確か剣のヤバイ人です」

「3人います」


 大して詳しくねー!

 これは自分で調べた方が良さそうだ。


「その剣聖の一人、神速のツバキ様がカタナの使い手で、キモーノを着てるんです」


「ほほう」

 デザインは白と黒のツートンカラーで派手さはないが

 落ち着いた雰囲気だ。

 着てみると意外と動き易く工夫されている。

 丈は短めだがショートブーツとソックスで露出は少なめだ。中々良いかもしれない。

 袖には空間魔法により、アイテム収納が出来る優れものだ。


「胸当てとか防具は中に着れる様に少し大きめにしてありますよー」


 なるほど、良い仕事してくれてる。案外優秀な職人なのかもしれない。人間的にはアレだが。



 その他普段着と、下着類を受け取り店を後にした。

 派手な下着は無くて良かった。

 代金は今回のみフレオニールが負担してくれてる。

 赤龍討伐の礼だそうだ。

 因みに報奨金50万ジルは口座に入金済み。


 さて次はギルドに向かうか。


 ◇


 ギルドに入り受付にいるローザに声をかける

「おはようございますローザさん」


「エイルさん、おはようございます、早速依頼探しかな?」


「はい。初めなので、おすすめありますか?」


「そうねー、まだ最低ランクだから討伐依頼は無いけど、採取依頼からかな」


 最低ランクのペーパーランク(依頼未達成の人)

 要するにペーパードライバーみたいなもので身分証の代わりになるギルドカードを持ってるだけの人をペーパーと言うらしい。


「ナオーリ草を一袋の依頼がおすすめかな」


 ナオーリ草。名前からして、回復薬の材料みたいだな。とりあえず受けてみよう。


「よろしくお願いしますっ!」


「じゃあギルドカードをこの石版に置いてね」


 ギルドカードを石版に置くと少し光った。

 依頼受領が完了したらしい。

 カードの裏面に現在受けてる依頼が表記された。


「なるほどー、便利ですね」


「あとこれが、採取用の袋ね」

 麻か何かの袋を受け取った。それと一応ナオーリ草の見た目を描いてある紙も頂きました。


「じゃあ頑張ってね!」

「はーい」


 とりあえず街の外に出ないとだから、あのおっさん……

 なんだっけ?フレオニール?に許可もらいに兵舎戻るか。

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