第6話 『謎の女』



 セリスに案内された宿は『ロビンソン』と言う宿だった。建物は3階建てで、1階の食堂はレストランとして人気らしく、今もたくさんの客で賑わっていた。


「いらっしゃい。2名様かい?」

 人の良さそうな宿屋の主人が俺たち2人を見て言ったが、泊まるのは俺はだけだ。


「1人です。この子が泊まります」


「そうかい。うちは食事付きだと6000ジル。無しだと4000ジルだ。食事は朝と夜だ。付けるかい?」


「はい。食事付きでお願いします!」


 高いかどうかは分からないが、とりあえずは大丈夫そうだ。なるべく早めに仕事につかないとだな。


「あとうちは前払いだけど、何泊だい?連泊で食事のメニュー変えるから決めとくれ」


 なるほど。毎日同じメニューじゃあ飽きるよな。俺、焼きそばなら毎日でも大丈夫だけどな!


「うーん、とりあえず5泊にして下さい」


「あいよ!じゃあ5泊で30000ジルだ」


 俺は主人に代金を払い、部屋へと向かった。部屋は3階に上がって目の前だった。因みに3階は女性専用らしい。まぁ、なんか安心だ。


「じゃあ私はこれで失礼するが、剣の稽古は明日にでも兵舎に来てくれ」


「はい!ありがとうございます!じゃあまた明日!」


 セリスが出て行き、部屋で孤独になった。当たり前だが、テレビが無い。風呂は共同の風呂があるらしく、男女で時間帯が別れてるみたいだ。間違えない様にしないとだな!


 部屋に備え付けのドレッサーに座り、鏡を見る。

 瞳と髪の色は違うが、結城さんの姿だ。鏡の中から結城さんに見られてるみたいな気分になる。なんか怖い。


「よし!やるか!」


 俺は買い揃えた日用品の中からハサミを取り出した。

 この長い髪を切るつもりだ。

 長い髪に違和感があるのもそうだが、やはりこの姿が結城さんにしか見えないのが、ツラい。

 死んでしまった結城さんには悪いが、過去と結城さんとは、お別れだ。

 これからはエイルとして生きて行く。その為の儀式みたいなものだ。


「さよなら結城さん」


 長い髪を首元くらいまでバッサリと切った。

 これはこれで可愛らしいじゃあないか!中々の美少女っぷりだ。しまった!自分に見とれてしまうとは!

 この後、風呂入らないといけないのに、自分の裸見れそうにない。罪悪感あるなー!


 そうだ!別の事考えよう。これからの行動計画だ!


 まず、仕事だ。手っ取り早いのは冒険者だ。セリスさん曰く、馬鹿でもなれるので、腕っ節に自信のある人は冒険者になるのが多い。ランクが上がれば、報酬も高くなり、生活に困らないレベルの稼ぎは得られるそうだ。

 だが、死亡率も高いので、40代で引退するのが、普通だそうだ。家族とか出来たらやってられないみたいだ。

 危険な仕事なんですね。


 次は軍隊。この町には兵学校と士官学校があるらしく、平民の子は普通、兵学校。貴族の子は士官学校だそうだ。特別推薦枠で士官学校はどうかとセリスさんに誘われたが、保留中だ。

 騎士団とかに入れば、生活は安定しそうだし、なんかカッコイイけど、学校に行きたくないのでパスかな。

 俺、大学もスポーツ推薦だったから、勉強した事ほとんど無いんだよね。


 さて、次は前世の知識を異世界に持ちこんで、商売をしてぼろ儲けする事だ。

「…………」

 全く思い付かないどころか、自分の知識が無さ過ぎた。

 却下だ!


 あーあ、異世界来たらモテモテになってハーレム生活が出来るって昔誰か言ってたのにな……

 あれは二組の田中だったかな。アイツ嘘付きか!


 まぁ、そもそも女の子になった時点でハーレムの夢は叶えられそうにない。だけど、とりあえず美少女に囲まれて冒険とかしたいな。



 冒険者になる事にした。



 部屋でする事も無いので、食堂のカウンターで酒でも飲む事にした。


「親父、キツいのを頼む」


「……ウチは子どもに出す酒なんて無いぞ。ガキはココアでも飲んでな!」


 やはり子どもに見えますか。だが!子どもじゃあないぜ!俺はギルドで発行して貰ったギルドカードを親父に見せる。


「え?嬢ちゃん15歳かよ!一応、酒の飲める歳だな。悪かった。てっきり10歳くらいかと思ってたよ。1杯奢るぜ!」


「10歳て……」


 まぁ、異世界で年確されたりとかは、あったが無事に酒を飲む事が出来た。酒の種類が良く分からなかったので、ビールっぽいやつを注文した。エールと言うらしい。


 夕食の支度が出来たらしく、テーブル席へと案内された。どうやら相席みたいだ。まぁ、1人だから仕方ない。「し、失礼しまーす」

 俺はちょっと緊張しつつも、当たり障りない挨拶をしておいたのだが……


「え!……あっ、すみません」


 俺を見て驚いた顔をして、謝り目を逸らした。

 なんだ?俺が美少女過ぎたか?


 相席の相手は女だった。歳は……サッパリ分からん。

 年齢当てクイズは苦手だし。あと異世界の人だし。

 でも、凄く美人だ。長い黒髪は艶やかで、紅い瞳と白い肌が、妖艶さを上げている。胸元が大きく開いた黒い服装で、立派な谷間に目を奪われてしまう。


「いただきます!」

 並んだ食事を食べ始めたのだが、相席の人が一瞬ピクっとした。何やら考え込み、急に話しをして来た。


「自己紹介がまだだったわね。私はミカエル。15歳よ。貴方は?」


「え?俺は……じゃなかった。私はエイルです。これでも15歳で……」


 同じ歳かよ!なんだ?この成長格差は!別に胸が大きくなりたいわけじゃないからね!

 胸なんて、多分、戦闘の邪魔になるし。装備代とかかかりそうだし。


「え?15?なんだ。同じ歳なのね。ごめんなさい、もう少し下かと思ってたわ。この町は初めてかしら?」


「うん。初めてだよ。今日来たばかりで……み、ミカエルさんは?」


「ミカエルでいいわよ。私は3日前に来たばかりよ。ちょっと人を探してたんだけど……エイルは何しに来たのかしら?」


 なんだか色々聞き出されているみたいだ。

 別にやましい事してる訳じゃないけど、使徒って所はバレない様にしよう。


「この町には、仕事を探しに来たんだけど……まだ特に決まって無いです」


「ふーん。そうなんだ。出身は?」


「出身?えーと、東の山奥で母と暮らしてたので……」


「東?そっかぁ……ごめんなさいね色々聞いて。冷めないうちに食べましょ☆」


「え……う、うん」


 なんだろう。あまり深く関わらない方が良さそうだ。

 でもあれか。また食事の時は相席なら顔を合わせる事になるのかな。とにかくボロを出さない様に注意だ。


 その時食べた夕食の味はあまり覚えていない。


「じゃあ、おやすみなさい。エイルくん」

「お、おやすみなさい」

 ミカエルさんは食べ終わると席を立ち、部屋へと戻って行った。不思議な人だ。凄く美人だけど。



 ◇



 翌朝、朝食の席では挨拶程度の会話しかなかった。

 一度部屋に戻り、支度をした。

 対して荷物無いけど。今日はまず、兵舎に行く予定だ。

 その後はマリーの店に行き、仕立てて貰った衣類を受け取りに行くつもりだ。その後はまだ決めて無い。

 冒険者になるなら防具とかも買わないといけないか。

 案外、出費がかさむなぁ。


 宿を出ると、直ぐ町の大通りなので、町の入口と逆方面に歩けば、兵舎だ。迷う事はない。

 大通りは朝から賑わっており、所々に屋台があって、誘惑に負けてしまいそうになる。


 なんだか、先程から視線を感じる。つけられてるみたいだ。振り返って見ても分からなかった。

 気のせいかな。




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