第4話 『知らない天井』
エイルがドラゴンに遭遇した頃。
大陸の東方に位置するファミリア王国の南西部サンク市。
このサンク市防衛隊長フレオニールの元に、ある一報が届いた。
「失礼します!」
司令部の隊長室に、伝令役の士官が勢いよく入って来た。
「なんだ」
事務処理中の筆を止め、入って来た士官を見る。
「ハッ、南方10キロ程の場所にて巨大な光の柱が数発上がったとの監視塔からの報告です!」
「光の柱?魔法か何かか?」
顎の髭をさわさわしながら考えてみるが、答えは出ない。
「いえ、そこまでは分からないとの事で……」
「分かった、至急第1小隊を招集し、調査に向かう。セリス、留守を頼む」
「了解した。ご武運を」
金髪の長い髪をサイドテールに束ねた女騎士は立ち上がり敬礼をした。
フレオニール・ダンテス
貴族の出だが、体格に恵まれ腕力も人並み以上でまさに武人と言ったイメージそのままの人である。
性格は豪快で、人当たりも良く、身の丈に近いくらいの、巨大な大剣を振り回す姿は王国兵士だけでなく
国民男子の憧れとなっている。
素手でオークの首をへし折る程の怪力である。
フレオニール達一行が、現地付近に到着した頃、辺り一帯は煙やら蒸気やらで視界が悪くなっていた。むせ返る様な肉の焦げた匂いが充満していた。
「霧払いを頼む」
フレオニールが随行していた魔導士に命じると、風魔法で辺りの霧は吹き飛ばされた。
辺りの地面は激しい戦闘の跡か、20メートル程のクレーターが幾つも存在した。
「一体何があったんだ?戦争か?」
そこには黒焦げのドラゴンと、少女が倒れていた。
「生存者確認しました!」
若い兵士が、少女の息がある事を確認し報告しに来た。
「隊長!このドラゴン、本国から要討伐に認定されている赤龍です!」
「なんだと!まさか!?」
赤龍……王国領内で主に活動し、村や町を襲い度々戦闘になったが、かなり強く大隊規模でなんとか退ける事が出来る災害レベルのドラゴンだ。
「とにかく少女は保護、赤龍は解体して町へ運べ!」
「「ハッ!」」
◇
フレオニール達が町へ帰還して、一時間程。
「失礼します」
セリスが、隊長室に入って来た。
「少女の容態はどうだ?」
「それが……まだ意識は戻らないのですが、あれだけボロボロの衣服と血だらけにも関わらず、傷一つ見つかりません、それに……」
「それに、なんだ?」
「背中に翼の様な紋章が2つありました」
「翼の紋章?」
「ええ、最初は奴隷紋かと思ったのですが、見た事もない類の紋章でした」
「意識を取り戻したら、話をするしかないか」
「それと、同時に回収した剣ですが、非常に珍しい刀と言われる物で、鑑定師の話によると伝説級か神話級の可能性があるとの事です」
「ますます怪しいな。出来れば味方である事を祈るしかあるまい」
「光の柱に翼の紋章……赤龍の死体……いや、まさかな……」
フレオニールはある一つの可能性に行き着いたが、ありえないと思い、頭を横に降った。
◇
目が覚めた
「知らない天井だ」
まさかこのセリフを言う時が来るとは!
「ヨダレでてた」
口の
「どこだ?」
確かドラゴンと戦ってて、その後は記憶が無い。
服が変わってるので、寝てる間に着替えさせてもらったのか……変な事はされてないだろうか?
異世界ものの定番で、俺が主人公だとしたら、やっぱり美少女が登場して看病してたりする場面ですが……
居ないみたいですね。
ヒロインの登場があったりとか期待してしまう。
「よっ」
ベッドから降りて、窓から周辺を確認する。
高さからすると3階くらいか。
辺りの建物を見ると、町のようだ。
町の風景は何と言うか、中世西洋風ですかね?
石造りの建物が殆どを占めている。
太陽?で良いのか解らないがお日様の位置からして
朝だと思う。一日経過している?
「さてどうしようか?」
装備品も見当たらないので、窓から逃げる訳にもいかない。一文無しは困ります。
コンコン
突然のノックにビクってなった。
「はひっ!」
ダッシュでベッドに潜り込んで、ドアの方を伺う。
「入りますね」
金髪のロングヘアをサイドテールに束ねた女騎士が入って来た。
ぴょんと跳ね上がった長い耳。どうやらエルフだ。
ヤバイ、実物のエルフとか初めて見るが本当に美人だ
スラッとしてますよ、スラッと。
このちんちくりんの身体とは出来が違うのですよ。
〇クとは違うのだよ!ザ〇とは!と言われてる様な
プレッシャーを感じるぜ!
「意識が戻られて良かった」
本当に良かったと思って無いだろう位に無表情だ。
少し、警戒しているようだ。
「あの、あなたは?、それとここは一体?」
「申し遅れました。私はファミリア王国騎士団、サンク市防衛隊、副隊長のセリスでございます」
騎士らしい礼をする。
「貴方のお名前を伺っても?」
「あ、えーと、エイルです。はい」
エルフで女騎士とか、お腹いっぱいっス
今後のクッコロに期待大だ。
「では、エイルさん、私の上官がお話があるそうなので、お呼びしてもよろしいでしょうか?」
「……はい」
拒否は出来る状況ではない為、仕方ないよね?
ボロが出ない様にしないとだが……
尋問?拷問?
しばらくして
「私はファミリア王国騎士団のフレオニールだ、幾つか質問をさせてもらう」
うう……俺はこういった尋問や面接が苦手だ。
異様に緊張して、余計な事答えたり、要らん事聞いたりしてしまう。
俺が就職に失敗したのは9割は面接と言っても良い。
「あの場所で一体何が起きた?」
「えーと、ドラゴンに遭遇して倒しました」
うん、そのまま言った。
「「!」」
「君一人でか?」
「はい……強かったので死ぬかと思いました」
「そ、そうか、で、どの様に倒せたのだろうか?」
引きつった表情でフレオニールが聞いてくる。
「えと、殴ってから、魔法を連発して……後は覚えてないです」
「「…………」」
しばらく沈黙が続いて
「質問を変えよう、君はどこから来たんだ?」
「あっちの方だったかな?ちょっと方角が分からなくなってしまい、すみません」
「出身は?どこの国かな?」
あっ、そういう事か、困ったな。超田舎設定で行こう。
「山奥で 母と二人ひっそりと暮らしてまして、国とかは良く解らないのです」
「そうか、了解した。暫くは解放出来んが、町に滞在する許可を出そう」
「ありがとうございます」
「食事の用意が出来たら、人を寄越すので、それまで部屋でゆっくりしてくれ」
そう言うとフレオニールとセリスは部屋を出ていった。
隊長室にて
「セリス、どう思う?」
「怪し過ぎますが、間者の可能性は低いですね
嘘が下手すぎです」
「まぁ、しばらく様子を見るか」
◇
「うーん」
ベッドの上で俺は考え事をしていた。
とりあえずこの先の行動計画が必要だ。
異世界のテンプレ的な行動として、宿を探す、職を探す
なのだが、あとはこの世界について調べる必要がある。
予めアチナに聞いておけば良かったが、アチナも説明不足でないかい?不備が目立つよね?
それと、刀剣スキルが無い為か、ドラゴンに全く通用しなかった。師事出来る人を探して戦いの基本を学ばないと危険だ。
食事のあと、外出の許可を貰おう。
コンコン
「お食事のご用意が整いましたので、ご案内いたします」
「はーい」
部屋を出ると、部屋を出ると若い兵士が食堂まで案内してくれた。
途中、何人かの兵士達とすれ違ったが、皆チラチラと
俺を見る視線が、気持ち悪い。
「こちらです。手前の席にお座り下さい。」
そう言って案内すると、兵士は去って行った。
ガチャ
「待たせてすまない」
フレオニールとセリスが入室して来た。
部屋の感じからして、他の兵士達とは別の食堂の様だ。
一つのテーブルに席は6つしかない。
「遠慮なく食べてくれ、赤龍を討伐してくれた礼の一部だ
あとで報奨金として金貨10枚を用意しよう」
「ありがとうございます」
金貨10枚が、どれだけの価値があるか解らないが、貰える物は貰っておこう。
目の前に並ぶ料理の数々。どれも初めて見る物ばかりだ。初異世界料理だ。
何の肉か解らない物がたくさん並んでる。
とりあえず食べてみるが、可もなく不可もなく
要するに普通だった。海外で食事する様なもんか。
海外言った事ないが。
「この後、町に出てみたいのですが、よろしいでしょうか?
買い揃えたい物もあるので」
「ん、許可しよう。セリスを案内役に付けるが、よろしいか?」
「是非よろしくお願いします!」
多分、監視だろうけど助かる。実は1人で買い物はかなり不安だったのだ。ぼったくりに合いそうだし。
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