第29話

「ほう」

 担当者は小さく驚くと、眼鏡のふちを何度もいじりながら、紙をじっと見つめた。

 

 僕たちは、喫茶店から会議室へ移動した。

 この会社で一つしかない会議室に、僕はジェニーさんと担当者の3人がいた。

 人数のせいか、会議室が少々広く感じられた。


 ジェニーさんは、真剣な表情で担当者を見ていた。

 僕は、部屋の中をぼんやりと見ていた。

 

「いいですね。このパロパ郎!」

「ありがとうございますっ!」

 ジェニーさんは、深々と担当者に頭を下げた。

「ハリーさん、良かったですね」

 ジェニーさんが大きな瞳を潤ませながら、僕の腕を軽く叩いた。

「実にっ!」

 突然、担当者が大きな声で叫んだ。そして、ニッコリ僕に微笑みかけてから

「あなたにそっくりだ」

と、真面目な顔で言葉を続けた。

「目の錯覚です」

 僕は即座に、答えた。

「キャラクターって、身近なところにモデルがいるっていいますからね」

 ジェニーさんはそう言って、僕の隣で笑いをかみ殺すかのように、下を向いて肩を小さく震わせていた。

「これ、あなたがモデルでしょ?」

「違いますよ!」

 目を丸くした担当者を見て、僕は自分が冷静さを欠いていたことに気づいた。いけない、ここは大人の男にならなくては。

「彼の先輩が、パロパ郎を描いたんです」

 ジェニーさんの悪気のない一言に、僕の心は空気の抜けた風船のようになった。

「彼と先輩、とっても仲がいいんですよ。肩を揉んだり・・・」

「え?」

 眼鏡をかけなおす仕草をしながら、担当者は、僕を睨むように見た。

「ジェニーさんっ!それ以上は!」

「いい先輩をお持ちですな」

 嫌味を含んだ声で言うと、担当者はジェニーさんにニコリと微笑んだ。

「私の先輩が、近所に住むフィリピン人の女性から聞いた過去の恋愛話を基に、パロパ郎を描いたんです。だから、モデルは、私じゃなくて、先輩の想像上の男性です」

「まあまあ、そんなにムキにならなくても」

 担当者が僕の話を止めた。ジェニーさんは口元に手を当てて笑いをこらえているようだった。

「今度のイベントのイメージキャラクターは、パロパ郎くん、君に決めた!」

 担当者は、ほっほっほと小さく笑った。

「おめでとう!ハリーさん!じゃなかった、パロパ郎さん!」

 パロパ郎にされた僕は、心の中で軽くジェニーさんに悪態をついた。

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