第21話

「マイさんのせいですよ」

 僕は、隣にいる先輩に聞こえるように、大きくため息をついた。

「何が?」

 先輩は、運ばれたピザを切りながら答えた。

「会社で僕の悪い噂が流れたの、マイさんのせいですからね。僕が会社にいられなくなったら・・・」

「大丈夫ですよ。人の噂も75日って言うじゃありませんか」

 僕と先輩の向かいに座っていたジェニーさんが、サラダを取り分けながら言った。


 ここは、会社の最寄り駅の居酒屋。

 ジェニーさんの歓迎会をしている。

 オフィスを出る直前、S女史が総務の人に呼び止められた。

「先に行ってて。適当に料理とか頼んで、食べてて」

 僕たちは食事をしながら、S女史の到着を待っていた。

 先輩とジェニーさんは、研修のことやジェニーさんの前の勤め先のことで盛り上がっていたが、僕は、社内に僕が女性を気持ちよくさせている男だという噂が流れていることが気になってしまい、2人の会話に入る気力がなかった。

「どうして、マイさんの肩を揉むことになったんですか?」

 僕の浮かない表情が気になったらしく、ジェニーさんが僕に質問してきた。

「あ、それはですね・・・」

「聞いてください、ジェニーさん!」

 僕が話し始めようとしたら、先輩が割り込んできた。

「ハリーって、失言が多いんですよ!」

「失言、ですか?」

「そうなんですよ。特に女性に関することが。今日のお客さんは美人じゃないですね、なんて私に言うのは、まだましなほうで。昨日、うちの課にいらした女性のお客様に、40過ぎると痩せにくくなりますよねって言ったんですよ!」

「ええ?」

「いやいやいや、違いますよ。聞いてください、聞いてください。ジェニーさん、マイさんの話を鵜呑みにしちゃいけません。この件については、僕に説明させてください」

 僕は、軽く咳払いした。

「お客様が、ダイエット頑張っているんだけど、なかなか痩せないっておっしゃったんです。だから、40歳過ぎると代謝が悪くなってどんどん太りますよねって、そう答えたんですよ。お客様が帰られた後に、マイさんが僕のこと、最低だって怒ったんですよ」

 先輩が軽く、テーブルを叩いた。

「そんなことないですよ、痩せてますよって言えば良かったんだって。お客様を勝手に40以上と決めつけて、話をしたから最低だって言ったの」

「・・・え?あのお客様って、40代じゃないんですか?」

「お客様は自分でアラフォーって言っていたけど、30代半ばよ」

 僕は、先輩が「失言」という言葉を使った意味を理解した。

 ジェニーさんが、噴き出した。

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