第22話

「アラフォーと40代って、何が違うんですか?」

 ジェニーさんは、大きな目をクリクリさせながら、僕と先輩のやり取りを聞いていた。

「だって、マイさん。アラフォーって四捨五入して40ですよね?40代と変わらないじゃないですか?」

「あのねえ。ハリー」

 先輩は、S女史用の食事を用意しながら言った。

「本人がアラフォーって言っても、アラサーとして話をしなきゃ。それに、ダイエットに悩む人に、代謝が悪くなって太るなんて・・・」

「マイさん、それは、本当のことですよ!年取ると、代謝が悪くなって、痩せにくくなるから、食べた分だけ太るって」

「だから、そういう言い方・・・っていうか、その考え方が、男として最低だって言っんのっ!」

 ジェニーさんが、テーブルに届いたばかりの飲み物を僕たちに渡しながら言った。

「マイさんとハリーさん、仲がいいんですね」

 ほんの数秒、僕たちは静かになった。

「ハリーに何度も注意しても直らないから、罰として、私の肩を揉みなさいって言ったんです。そしたら、ハリーが、女性の肩を揉むぐらい、どうってことないって」

「ですから!僕が言ったのは、みんなが見てる前で、マイさんの肩を揉むのは平気だってことで。まさか、誰もいない部屋で、マイさんの肩を揉むなんて・・・」

「若い男女が大声で揉む揉むって。何が始まるのかなあ?」

 S女史が、先輩の隣に座った。ジェニーさんが、先輩と僕とのやり取りを簡単に説明した。 

「今日は、ジェニーさんが主役なのに、ごめんなさいね」

 S女史は急に背筋を伸ばした。

「ジェニーさんの歓迎の乾杯をする前に、皆さんにお話しておきたいことがあります」

 S女史の真剣な顔に、僕たちも背筋を伸ばした。

「明日から、しばらくの間、ジェニーさんが2課の指揮を執ります。私は1課の手伝いをすることになったから、朝と夕方は2課に行くけど、ほとんどは1課で仕事することになります」

 ジェニーさんが小さな声で驚いた。僕はどうふるまってよいのかわからず、思わず、先輩を見た。先輩は「何があったんですか?」とS女史に聞いた。

「1課の課長が無断欠勤したのよ。総務の話だと、そのまま退職させるかもしれないって」

「え!」

 3人の声が重なった。S女史が話を続けた。

「こういう場合、本当は課長補佐のジェニーさんが1課の指揮を執ることになるんですが、まだジェニーさんは研修中なので、2課、3課の課長が一緒に1課の仕事をサポートすることになりました。ということで、ジェニーさんは、私の代わりに仕事をしていただきます。それを研修とします」

 呆然としているジェニーさんに、S女史が言った。

「ジェニーさん、大丈夫ですよ。私の仕事って、この2人のおしゃべりを聞くことですから」

 

 

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