第19話
「マイさんのせいですよ」
僕は、コンピューターのキーボードを叩きながら、隣にいる先輩に言った。
「僕の、クリーンで誠実なイメージが、あの出来事で・・・」
「それを言うなら、情事、でしょ?」
「やめてください!笑うところじゃないですよ!」
先輩をマッサージしているところを見られてから、社内で僕を見る目が厳しくなったように感じた。先輩は、気のせいだ、気にしすぎだ、と笑うが、先輩に想いを寄せる多くの男性社員を敵に回してしまったことは否めない。
「あの・・・、そういえば、朝からS女史の姿を見ていませんが」
僕は、話題を変えてみた。気が滅入りそうになったからだ。
「なんで?バレるのが怖いんだ?」
先輩は笑いながら答えた。
「バレるって、何がですか?」
「昼下がりの部屋。ハリーと2人っきり・・・」
「やめて下さい!からかわないでくださいよ!」
「こうして、作業していること。バレたら困るの?」
「・・・」
「やだ~、何、考えてんの?ハリー、顔赤いよ~」
先輩と僕を呆然と見つめた男性の表情が脳裏に蘇った。
「お疲れ様で~す」
先輩との間に、どんよりとした空気が漂い始めたのを壊したのは、S女史だった。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって!ミーティングが伸びちゃって」
大きなカバンを肩にかけたS女史が部屋に入ってきた。小柄な女性が後を追うように部屋に入った。
「今日から2週間の予定で、ここで研修を受けるジェニーさんです」
S女史よりも背の低い目鼻立ちの整った女性が
「はじめまして。先月、こちらに入社しましたジェニーです。こちらの部署には2週間、お世話になります。ご指導よろしくお願いいたします」
とてもきれいな日本語であいさつをした。
「もしかして、海外事業部の部長が引き抜いた・・・」
先輩の言葉が終わらないうちに、ジェニーさんは両手を大きく振った。
「ジェニーさんは、大手デパートで、海外の商品の買い付けを担当されてました。テレビ番組でジェニーさんがインタビューを受けているのを、海外事業部の部長が見てから、3年かかってヘッドハンティングに成功したという、とても優秀な方です」
S女史の説明をジェニーさんは恥ずかしそうに聞いていた。
「自分にはとてもレベルが高い仕事だと思って、何度もお断りしたんです。去年、勤めていたデパートで異動が決まった時、部長さんから、再び、お話をいただいて。環境を変えてみようと思って、お話を受けることにしたんです」
ジェニーさんの話を聞いた先輩が
「3年間も口説かれていたなんて。一歩間違えたらストーカーですね」
真面目な顔で言った。
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