第16話
「シーバさん。どうして、シーバって名前にしたんですか?」
僕の質問に、シーバは苦笑いした。
「小学生のとき、同じクラスにイシバシっていう名字の男子が3人いたんですよ。あだ名をつけるのが好きな奴がいて、イッシーとバッシーと2人に付けた後、おれにはシーバってあだ名をつけたんですよ。クラスが変わってからも、高校卒業するまで、おれだけずっとシーバって呼ばれて。あの店でホストとして働くときに、店長から名前をどうするかって聞かれたときに、ふっと、シーバっていう呼び方が頭に浮かんだんですよ。新しいホストが決まるまでだから、昔のあだ名でいいかなって」
シーバは、顔を赤らめながら
「なんでだろ。ツヨシさんには、素直に自分のこと話せる」
そう言って、自分のコップにビールを少し注いだ。
「ツヨシさんって、本名はハセガワなんですね」
シーバが自分のことを話しているのに、僕だけ嘘をつき通すのは気が引けた。
「いや・・・それも、実は偽名でして・・・」
僕の言葉に、シーバはビールを飲むのを止めた。
「また、調査、ですか?」
「えっ・・・ああ、まあ。そんな、感じ、です」
僕は、うつむき加減に答えた。シーバに、調査、と言われたことが少し恥ずかしかった。
「今度は、何ですか?」
そう言ったシーバは、自分が発した言葉にハッとした。
「・・・あ、聞いちゃ、ダメ、でしたね・・・」
「あ、いや、まあ・・・」
本当のことを言うべきか。あいまいな返事をしながら、僕はそんなことを考えていた。
「おっ!おれに、手伝えることがあれば、遠慮なく、おっしゃってください!」
「あ、ありがとうございます」
突然のシーバの発言に、思わずひるんだ僕は、言葉少なめに返事をしてしまった。
「おれ、ツヨシさんの役に立ちたいんです!」
あの店で冷たく突き放したような話し方をしていたシーバは、一体、何者だったのか?
僕は目の前にいるシーバと、記憶の中にあるシーバとを比べていた。
「あの。話がそれてしまいましたが、ツヨシさんの本名って、なんですか?」
「あ!ああ・・・。ハリーって呼んでください」
「え?ツヨシさんって、本当はハーフ、なんですか?」
「いや、そうじゃないんです。海外の大学に通っていた時に呼ばれていたのがハリーなんです。僕の名前、発音しずらいのか、誰も本名で名前を呼んでくれなくて。いつの間にか、友達からも教授からもハリーって呼ばれるようになったんです。今の職場でも、ハリーって呼ばれているんです」
「そうでしたか。じゃ、ハセガワっていうのは?」
「あ、それは、キットくん・・・じゃなくて、カトウ先生が勝手につけた名前です。職場が副業OKじゃなくて。バレたらまずいだろうって、キ、いや、カトウ先生がハセガワジュンって名前で講師登録しちゃったんです」
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