第14話

「告白、なんて大げさですよ。お客様の誉め言葉じゃないですか。好きとかカッコいいとかって」

 そう言いながら、僕は、少し気の抜けた瓶ビールを手に持ち、シーバのコップに注いだ。

「いや、ユリちゃんは、ツヨシさんのことが好きなんですよ。おれにはわかります。ユリちゃんのことをずっと見てきた、おれなら・・・」

 シーバは軽く頭を下げながらコップを持った。

「あの、シーバさんは、あの塾には、どのくらい働いているんですか?」

 僕は、ずっと抱いていた疑問をシーバに聞くことができた。あのお店を辞めてから、シーバに会うことはないだろうと思っていた。だからこそ、塾という、お堅い職場で再会したことが不思議でならなかったのだ。

「実は、まだ、学生でして・・・」

 シーバは僕に食事をすすめると、叔母さんと同居している理由、あの店や塾で働いている理由を話し始めた。

 シーバは大学進学と同時に上京、叔母さんの家に下宿している。学費の足しにと、叔母さんの親類が経営する店で働き始めた。それが、S女史がオーナーを務めるホストクラブだ。

「店の調理場で皿洗いしたり、食材の買い出ししたりしてたんですけど、2年ぐらい経ってから、急に店長がホストが辞めたから店を手伝ってほしいと頼んできて。新しいホストが決まるまでの間の代わりにってことだったんだけど、今でもホストですよ。笑っちゃいますよね?」

 自分のことを語るシーバは、笑っていた。僕が見たことない笑顔を何度も見せた。

「大学3年の冬だったか、オーナーが、いつまでもホストをやってちゃいけない、就活でアピールできるアルバイトをしたほうがいいって、おれに塾講師の話を持ってきたんですよ。おれクビなんですかって、オーナーに聞いたら、オーナーが言ったんです。シーバはもっと大きな組織で働くべき人間だって。嬉しかったなあ。おれのこと、ちゃんと、見てくれていたんだなって」

 シーバは、ビール瓶を手にして「あ、もう空だ」とつぶやき、カウンターを離れた。

 腕時計に目をやった。

 終電が出た時刻だった。

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