第8話

 説明会から1週間後。

 僕は、面談室と呼ばれる小さな部屋にいた。

「先生のことは、カトウ先生から聞いてます」

 スポーツ選手のような体つきの男性が、その体からは想像できないほどのやわらかく小さな声で話し始めた。

 男性の名前はハマダタツロウ。この塾の教室長だ。

 カトウ先生ことキットくんによると、先生方は「ハマダ校長」または「校長」と呼ぶが、生徒たちは「ハマタツ先生」と呼んでいるらしい。

「平日のお仕事で大変だとは思いますが、ぜひ、私たちのプロジェクトにご協力ください」

 そう言って男性は、ゆっくりと頭を下げた。

「よ、よろしく、おね、が、い、します・・・」

 緊張のあまり、のどが渇いてしまい、僕は自分でも何を言っているのかわからないあいさつをしてしまった。


 説明会は、僕が務めている会社の説明会よりも華やかで、活気があった。

 キットくんが言っていたように、女性は多かったが、僕よりかなり年下の女子大生が中心だったということもあり、場は華やかではあったが「僕にとっての」魅力的な女性はいなかった。

 アルバイトに説明会が必要だろうかと、内心、批判的だったが、参加してみて、説明会の開催に納得した。

 この学習塾だけなのかもしれないが、アルバイトから正社員になる人が多いらしい。塾の職員が「社員として働かないか」とアルバイト講師に声をかけることがあるそうだ。アルバイト講師であっても、その学習塾に入社するには、面接を受けなければならない。スムーズに就職の選考を進めるために、アルバイトに応募した学生を対象に就職説明会を兼ねた会社説明会を行っているのだ。

 説明会では、塾業界のこと、塾が社会に対する役割、最近の受験事情といった就職説明会用の話から、塾講師の時給や待遇まで、様々な説明が行われた。

 応募者からの質疑応答が終わるや否や、筆記試験が行われた。

 その試験のことは、事前にキットくんから聞いていたので、僕は冷静でいられたが、出席者のほとんどは、騒いでいた。

 テスト用紙が配られると同時に席を立った応募者がいたことに、僕の心が騒いだ。試験問題は、中学校程度の国語、数学、英語と適性テストで、数学と英語は選択制だった。問題も見ずに帰るなんて、そもそも塾講師になる気がなかったのだろう。


 説明会から数日後、学習塾から連絡があった。 

 

「ここの生徒は、みーんな素直で真面目だし、先生は全員、フレンドリーで優秀な方ばかりです。教室の雰囲気は、カトウ先生から聞いてると思いますけど」

 僕の目の前には、教室長がいる。

 面接という名目の顔合わせだと、キットくんが言っていたことを思い出した。

「2・3回授業をしたら、すぐに慣れますから、気楽にやってください」

「は、はい」

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