第7話

「ごめん、少し言い過ぎたよ。でも、この話は聞かなかったことに・・・」

「明日、講師説明会なんです!」


 目を潤ませたキットくんの表情は、僕に説明会に出ろと訴えていた。

 ここで、僕がキットくんを突き放して店を出れば、この話はここで終わるはずだった。


「説明会で司会役のスズキさん、声が超カワイイんですよ!」

「・・・」

「元声優って噂ですけどね。それから、毎回、説明会は、女子の出席率が高いらしいです。明日は、25人集まるところ、15人女子が確定って話です」

「・・・。キットくん、女子が多いといえば、僕が説明会に行くと思ってんの?」

「そんなことないですよ。そうそう。うちの教室の事務のタカラタさん、モデルのライ・アンに似てるんですよねー」


 僕は、もう一人の僕と戦っていた。この話に乗ろうとしている僕と。


「ハリーさんに負担がかからないようにしてますよ。説明会に出れば、交通費が出ます。1000円ぐらいですけどね」

「いや、僕は、お金がどうこう言ってるんじゃなくて」

「お金もらって、たくさんの女の子と出会えるんですよ。明日の説明会は、出て損はないと思いますよ。現役女子大生が多いし。それも有名大学・・・」

「ああ、もう、わかった!行く!行くよ!明日の説明会!」


 僕は僕の弱さを認めざるを得なかった。


「よかった!ハリーさんなら、絶対、引き受けてくれると思ったんですよ!」


 ニヤニヤしているキットくんの表情になぜか腹が立ってきた。

 同時に、自分自身の敗北を感じ、体中の力が抜けた。


「キットくんにそこまで頼まれたら、断る理由がないいからね」

「それだけじゃないってことも、わかってますよ」


 こうして、新しい物語が幕を開けた。

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