第5話

「それで、今、気になる子は?」

 この雰囲気を変えようと、僕は話題を変えた。

「かわいいですよ」

と、そっけなく答えたキットくんだったが

「今年、大学生になったばかりなんですよ。教育心理学を専攻していて。週4回バイトに来ているんですが、そのうち1回は事務の仕事していて。そうですね、タレントに例えると・・・」

 彼女のことを話していくうちに、段々、笑顔になっていった。

「デートは?」

「え?デート?」

 キットくんの顔がポッと赤くなったのがわかった。


「まだですよ!ナノハちゃん、いつも夜遅くまで働いているから。疲れているのに、ご飯誘うのも、悪いし・・・。あ、ナノハちゃんっていうのが、彼女の名前なんですけどね。いやあ、本当に、かわいいんですよ!あ、ミコちゃんもかわいかったですけどね。でも、ミコちゃんより・・・」


 キットくんの話はしばらく続いたのだが、スペースの都合で、彼のセリフは、この辺までにしておこう。


「キットくん。新しい彼女ができたことを知らせるために、僕を呼んだの?」

「あ、そうだった!」


 キットくんは用件を思い出したらしく、テーブルの上に置いたままの「講師説明会資料」を僕に渡した。


「ハリーさん!ボクがバイトしている塾の先生になって、ナノハちゃんがボクに気があるか調べてください!」


 突然の出来事に、僕は、飲み物を飲むことを忘れてしまった。


「気になる女の子がいるなら、自分で聞けば・・・」

「それができないから、ハリーさんにお願いしているんじゃないですか!」

「でも、それぐらいは、自分で・・・」

「ハリーさんはボクの恋を壊したんですよ!」

「・・・え?」

 僕はキットくんの顔をまじまじと見た。

 なんだかんだ言っても、キットくんは、僕を恨んでいる。

 僕は、心の中でため息をついた。


「だから、ハリーさんは、この恋のキューピットにならなきゃ、ダメなんです!」


 キットくんは真っ直ぐに僕を見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る