第2話

 目を覚ますと、少し離れた席で、2人の女性がケラケラと笑いながら雑誌を見ていた。

「ハリー、寝てたでしょ?」

「ち、違いますよ、マイさん。ちょ、ちょっと、考え事してただけです」

 僕は、やっかいな案件を片付けた疲れからか、少し居眠りをしていたらしい。


 僕の夢の中にも登場した、今人気のセクシー女優に似ている先輩が、雑誌のページを指差して、もう一人の女性に言った。

 こちらは先輩に比べればさえない年増の女性だが。


「男子が勘違いする女子の行動の、二番目と三番目、これは納得がいきませんね」

 僕と先輩の上司であり、僕の苦手な―本音は嫌いな―年増の女性、S女史が笑いながら答えた。

「女子から映画や飲みに誘うと、男子が自分に気があると勘違いするって・・・本当ですかね?そういえば、マイさん、先週、ハリーを飲みに誘ってましたね?」


 この2人、なぜか、丁寧な言葉で話をする。S女史のほうが年上なのに、なぜか、S女史はマイさんに敬語を使うことがある。

 S女史の言葉に、先輩は「あーあー」と言いながら大きくうなずいた。


「友人が六本木にバーをオープンさせたんですよ。友達連れてきたら半額にしてくれるって言われたんで、ハリーを誘ったんです。ギネスビール置いてあるから行こうって言って・・・」

 そう言うと、先輩は僕のほうを向いた。僕と目が合うと、

「ハリー、勘違いしちゃった?」

目を何度も瞬きさせながら言った。

 先輩の潤んだ目に、僕は何も言えなくなった。


「その前は、映画にも行ってませんでした?2人で」

 S女史が先輩に質問を続けた。

「あー、そうでしたねぇ。試写会のペアチケットが当たったんですけど、一緒に行く予定の女友達が、急に都合が悪くなっちゃって。ハリーに聞いたら、観たい映画だから行きたいって」

 再び、先輩は僕を見つめた。

「いやだあ!もう、ハリーったら!あの時、何考えてたの~?」


 先輩の微笑みが、悪魔の笑みに見えた。

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