自称探偵ハリー 2
たえこ
第1話
「んもう、ハリー!ちゃんとつけてって言ったでしょ!」
先輩の大きな声に、周囲は僕に注目した。
「マイさんが、今日は大丈夫だって言うから・・・出したんですが」
「私のせいだって言うの?」
僕は、この部屋にいる誰もが僕を見ていることを感じていた。
「い、いや・・・、そんなわけでは・・・」
「そりゃあね。出したのはハリーだけど。私は、ちゃんとつけてねって言ったじゃない!」
「すみません・・・」
僕は小さな声で謝った。
「ハリーがあの時、つけてくれてたら・・・。あたし、こんな風にならなかった!」
その場にいた男性陣は全て、先輩の潤んだ瞳に釘付けだった。
ご想像のとおり、女性たちは僕を冷ややかな目で見ていた。
先輩の声は涙声になっていた。
「責任取ってよね!」
僕は生まれて初めて、人の視線が痛いものだと感じた。
「マ、マイさん・・・。落ち着いてください」
ここは病室。
先輩はベッドにいた。
大部屋にいた8人の入院患者はもちろん、その見舞客、看護師までもが息を飲んで僕たちの言動を注視していた。
「落ち着いていられるわけないでしょ!私をこんな体にしたのは、ハリーなんだから!」
僕は、周囲を見ることができなかった。
先輩は人目をはばからず、泣き叫んだ。
「ハリーのバカっ!」
どれくらい時間が経っただろう。
気がつくと、人のよさそうな男性医師がにこやかな表情で僕たちのそばにいた。
「検査の結果、脳や臓器に異常はありませんでしたよ。骨折もしていないようですし。あ、それから、妊娠もね」
時間なのか、空気の流れなのか。何かが一瞬、止まった。
「せ、先生。・・・妊娠って?」
無意識に、僕は男性医師に質問していた。
「してませんよ。妊娠も、流産も。安心してください。彼氏さん」
男性医師は、笑いながら僕の肩を叩いた。
「彼女さん、衝突の際に、背中を強く打っているので、1週間くらいは痛みが続くかもしれません。もし、発熱が続いたり、吐いたりしたら、すぐに病院に連れて来てください」
男性医師の言葉に、僕は思わず、頷いてしまった。
「それから、彼氏さん。雪の日は、彼女さんのためにも、ちゃんとタイヤにチェーンをつけてくださいね。少しくらいの距離だから大丈夫だって、チェーンをつけないで車を出しちゃダメですよ」
「先生、それ言っちゃダメ~。会社の後輩いじめるの、楽しんでたのに~」
どこからともなく、笑い声が起こった。その声はやがて大きくなり・・・。
そして、 目が覚めた。
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