徒花と百合
soldum
百合好きと百合っ子
「おっはよ、
大学の食堂、その一番奥まった日当たりの悪い席に半ば隠れるように座っていた私の背に、ぼふっと柔らかいものが飛びついてくる。身構えていなかった首がガクンと揺れて、私の長い髪が一房、飲みかけのコーヒーに浸った。ちっ、と軽く舌打ちして、コーヒーに浸った髪を救出しながら背中におぶさるような格好でひっついている女の方を横目で睨む。私の肩に一切の遠慮なくぐりぐりと顎を押し付けている女の顔は体勢の関係で半分も見えなかったが、私の胡乱な視線は察したらしく彼女はぐりぐりをやめて「ん?」と小首をかしげた。
「……その頭の悪そうな呼び方はやめろって、何度言えばわかるんだよ」
「まぁまぁ、可愛いんだからいいじゃない」
可愛い、と。彼女の口から自然にこぼれた言葉にわずかに全身が強張った。密着しているとそんな些細な変化も察知されそうで、私は思いっきり上半身を揺すって彼女の拘束から逃れる。「あぅ」とわざとらしく声を上げて、彼女は数歩後ろに下がった。
「ねぇねぇ、それより聞いてよ、今日がっこ来る時に見かけた高校生っぽい子たちなんだけどね? 三人並んで歩いてたんだけど二人だけ手繋いでたの! もう一人の子に見えないように! これってさ、やっぱりさぁ!」
「いいから落ち着け。あと、妄想は垂れ流した時点で妄想じゃなくて迷惑行為だから」
「時と場合と相手は選んでるってば」
「それで何で今ここで私ならいいと思ったのかぜひ知りたい」
また私が舌打ちをこぼすと「かんじわるーい」とぶーぶー文句を言ってくる。
ほんっと、こいつは。人の気も知らないで毎日毎日。
「あんた友達多いんだから、他にいくらでも話すヤツいんでしょ」
私の投げやりな抗議に「だってー」と唇を尖らせながら反論が返ってくる。もっとも、それはなにも今はじめて聞くものじゃない。このやり取り自体、私と彼女の間ではワンセットの挨拶みたいなものだった。
「さーやしかわかってくれないんだもん」
だもん、じゃねーよ大学三年にもなって。なんて言い返しながら、コーヒーを飲むフリで彼女から目線を外す。……ちっ、嬉しそうな顔しやがって。
「私もわからん」
「えー、そんなことないでしょ。だってさーやちゃんは――――」
あー、聞きたくねぇ。
「百合っ子でしょ?」
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