第37話 第2部 その27
雪華は、熱さも構わずハフハフと、椀の中のものを喰らい始めた。
汁は、味噌仕立てであった。
しばらく夢中で鹿汁にがっついていた雪華は、やがてふと、ふみの方を見た。
「寝かせておけ」老人が云った。「腹が空けば起きて来るじゃろう。風呂も沸かしてある。入るが良かろう」
雪華は老人に向き直った。
「ふみの話だと…」
云いかけて、雪華はその先を云うのをためらった。
「何じゃ?」
老人が問うた。
老人の目が、鋭く雪華を見据えている。
雪華がこの老人を見極めようとしているように、老人もまた、雪華を見極めようとしているものと見えた。
雪華は、ふみが話していたことを老人に云った。
すなわち、ふみが囮となって雪華を連れて来ないと、じいちゃん、つまりこの老人が殺される、という話をである。
「何じゃと?」老人は怪訝な表情である。「そんな話は初耳じゃ。ふみは何も云っとらなんだが…。しかし、うむ、そうか」
老人は、何か得心がいったような表情になった。
「…何か心当たりでも?」
雪華が訊くと、
「うむ。どうりでここ数日、妙な気配がする訳だわい」
と老人は云った。
「妙な気配?」
「てっきり冬眠し損ねたクマか山犬でもうろついておるのかと思うておったが、曲者とはな…。なに、そんな連中にやられてしまうようなヤワなワシではない。それより…」
老人は薪をくべつつ、
「おまえさんのその背中…見事なもんじゃな。悪いがとっくりみせてもらえんか」
と云うのであった。
雪華は、老人をじっと見据える。
老人もまた、雪華をじっと見据えている。
雪華は箸を置くと、すっくと立ち、背中を向け、さっきまとった毛皮をはらりと脱ぎ、そのまま正座した。
「ほう…」
老人の溜息が聞こえて来る。
「おまえさん、名を何と云ったかな」老人が云う。「ふみに聞いたのだが、忘れてしもうた。トシは取りたくないのう」
「雪華。花澄雪華です」
「手刀師…だとか。マモノじゃな」
「はい」雪華は背を老人に向けたまま云う。「…御老体も、マモノなのですか?」
不意に雪華は身をひるがえして右手を振るった。
大ぶりの包丁の刃が雪華の立て膝の傍らに突き立ち、柄の方はいろりの中に落ちて灰が舞った。
老人は、感服の表情である。
「いや、これはすまん。…見事なもんじゃな」
老人はぺこりと頭を下げた。
頭を上げた老人の目は、心なしか潤んでいるようにも見えた。
「もう気が済みましたか」
雪華はそう云って足元の毛皮を取って、再び身にまとった。
「うむ、いいものを見せてもらった。冥土のよい土産じゃ」
老人は涙を拭うと、
「風呂に入りなさい」
と云った。
風呂は、五右衛門風呂であった。
たっぷりの湯に肩だけわずかに出して、雪華がつかっている。
鉄釜の周囲がレンガで固められ、下から火を炊いて湯を沸かす。
湯の上に丸いすのこが浮いており、それを足で沈めて入るのである。
洗い場は苔むした土間であり、そこには長方形のすのこが敷いてある。
明かりとりの小さな窓からわずかに見える外景には、降る雪が見える。
と、風呂場の木戸が開いて…。
ふみが入って来た。
全裸である。
ふみは何も云わず、洗い場にしゃがみ、湯桶で風呂の湯を汲み、身体に掛ける。
雪華も何も云わず、湯から上がろうとした。
するとふみが立って、それを黙って押し止める。
ふみが、思いつめたまなざしで雪華を見やっている。
ふみは雪華に顔を寄せて来て、唇に唇を重ねた。
雪華も今はそれを拒まなかった。
ふみの腕が、雪華の身体を抱きしめた。
雪華もふみの身体に腕を回す。
自然と、重ね合う唇の、その重ね合い方が深くなる。
お互いの舌が、舌をまさぐり合っていた。
舌だけでなく、お互いの右手の指が、お互いの秘所をまさぐり合っている。
ふみのそこは熱く濡れているが…。
ふみが唇を離して、潤んだまなざしで、雪華に囁いた。
「…濡れてるよ」
雪華の息も、次第に荒くなって来ている。
「…あんたのじいちゃんに、聞こえるよ」
雪華が云うと、
「構わないよ」ふみは云った。「それより、もっとあんたを見たいんだ。もっとよく見せとくれ…」
雪華は風呂のへりに腰を下ろした。
「脚を…開いておくれ」
ふみに云われて、雪華はそうした。
「綺麗だよ」ふみはまなざし同様うっとりした口調で云うのだった。「バラの花が咲いたようだよ。肉色したバラの花がね…。バラのつぼみが、開いたんだよ。…しかも蜜がしたたってるよ。…吸うよ」
ふみは雪華の股間に、顔を押しつけた。
「あ…ッ」
思わず、雪華は喜悦の声を上げる。
表では、ふみの祖父が、風呂のかまどに薪をくべている…。
ふみが、雪華の乳房を吸っている。
吸いながらふみは、雪華の秘所に、己の左手の中指を挿し入れて動かしている。
同時に親指で雪華の女芯を刺激している。
雪華は…。
「アッ…アッ…」
声を上げ、頬を上気させながら、ふみにしがみついている。
「温かいよ。あんたの中、温かい」ふみは云う。「それに…よく締まる。名器だよ。私があんたを、女にしてやったんだよ。覚えときな…」
雪華はいやいやをするように、首を横に振っている。
と、そのふみの右手を、雪華の右手がふと止めた。
「…どうしたのさ?」
ふみは怪訝な顔をして訊いた。
「囲まれてる」
雪華は荒い息の下から、云った。
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