第31話 第2部 その21

 その隙間の中は、二人分がようやく確保出来る程度の広さはあった。

 雪華は先にふみを中に入らせて、周囲の雪を集めて、入口に積み上げるようにして塞いだ。

 わずかに上だけ開けて、通気出来るようにした。

「…あんた、雪国育ちかい?」ふみが訊く。「どうしてそんなことを知っている?」

「お父っつぁんに教わったんだよ」

 雪華は答えた。

 雪で入口を覆ってしまうと、中はほんのわずかな光しかない。

 暗がりと云って良い。

 すると、ふみが云った。

「服を脱ぎな。裸になるんだ」

「えっ…?」

 雪華がギョッとして云うと、

「本当の雪国育ちの知恵っていうのを教えてやるよ」ふみは得意気な口調で云う。「こういう時はね、人肌で温め合うのが一番いいのさ。さあ、さっさと脱ぎな。裸で抱き合って、着物を上から被ってりゃいい。そうすれば濡れた着物も早く乾く。さあ、脱ぐんだよ」

 雪華は、ためらっている。

 するとふみが云った。

「じれったいな。じゃ、私から脱ぐよ」

 ふみは雪蓑を外し、どてらを脱ぎ、さらにその下の着物を脱いでゆく。

 帯を解く音と、かすかなシルエットが闇の中に浮かび上がる。

「さあ、あんたも脱ぐんだ。敷くのも掛けるのも、多い方がより温かいんだから」

 ふみはけしかけるように云う。

 雪華は己の着ているものに手をかけた。

 まずは作業着を脱ぎ、そしてその下のもんぺを脱いでゆく。

 その時、固いものが転がり落ちた。

「何だい、これ…?」ふみがそれを拾い上げる。「温かいじゃないか。カイロだね、これ」

 とっぱずれの辰がくれたカイロである。

 もんぺの下は、黒装束である。

 しかし雪華はそこで再び、ためらった。

「何してんだい。早くしてくれないと、こごえちまうよ」

 ふみは急かす。

 入口に近い方に雪華はいるので、雪華の姿の方が、この中ではどちらかと云うと、ハッキリ見えるのであった。

 雪華は黒装束も脱いでゆく。

 まずは手甲、脚絆を外し、そして黒装束をすべて脱いだ。

 ふみが暗がりの中で息を呑んだのがわかった。

「…これ…」

 ふみは云いかけたが、それ以上言葉にならない。

 わずかな光の中に、悲母観音の刺青が浮かび上がる。

 その鮮やかにして妖しい色彩に、ふみは目を奪われている。

 と、ふと…。

「これは…傷だね…?」

 雪華の背中の刀傷…悲母観音と赤ん坊をつなぐ紐の図柄に応用されているその傷の上を、冷たい感触がそっとなぞった。

 ふみが指先でなぞったのである。

 雪華の身体がピクリと震えた。

「フフッ」ふみが笑った。「あんた、男を知らないね?」

 雪華の背中に、冷たくも温かい、柔らかい感触がギュッと押し付けられて来た。

 そして冷たい手が、雪華の二つの乳房のそれぞれに押し当てられ、つかんだ。

「こっちを見な」

 雪華が声の方を見ると、その唇を柔らかく湿ったものが塞いだ。

 そこからさらに柔らかく湿ったものが、雪華の唇を割って中に侵入して来る。

 そのまま雪華の唇と舌は、ふみの唇と舌に吸われた。

 同時に、雪華の左の乳房をつかんでいたふみの左手が、そこから雪華ののへそへ、そしてさらに下へと下ろされてゆく。

 冷たいふみの指先が、雪華の秘やな部分をまさぐってゆく。

「う…ぐっ…」

 ふみに唇を吸われたまま、雪華の身体は再びビクリと、反応する…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る