大人げない、観ていられないやり取り。

 だが、何故か飽きない。


「お、カメラ持ってきたのか! ちょっと見せてくれ」


「レンズが汚れるから辞めてください……!」


 楽しそうな雰囲気とは裏腹に、俺は背を向けて静かに読書。

 充はこれを見たら、さぞかし呆れるだろう。

 それに、自分でも思うのだが、こうして読んでいるのに乗り物酔いを起こした事が全く無い。


 パシャリ。


 カメラのシャッターを切る音が、背後から聞こえる。

 撮っている人物は、窓からの逆光で見えなかった。


「しっかし……、何故に下呂!?」


「温泉だってあるしさ、彼処辺りに心霊スポットあるらしいぞ」


「心霊スポットぉ……? 血塗られた村とか有名ですよね……。実際見たこと無いですけど……。

 あと、岐阜って、古虎渓ここけいハウスとか、UCC喫茶店とか、朝鮮トンネルとか、なんやかんや言ってヤバイ心霊スポットありますよね……。私がよく耳にするのは、朝鮮トンネル–––––二股トンネルって呼ばれるんですけど、加茂郡かもぐんにあって、そこは地元の人も滅多に近寄らない場所で、昔、多くの朝鮮人が強制労働を強いられていたんです。でも、工事が難航したので、人柱として多くの朝鮮人がトンネルの壁に埋められたらしいんです。

 定かでは無いんですけど、工事中の事故で亡くなった朝鮮人を、隠蔽の為に工事関係者が埋めてしまったとか……。

 様々な怨念が混じっているので、霊感がある人は他の心霊スポット以上に体調を崩してしまうとか……」


【まもなくぅ、終点、新鵜沼ぁ、新鵜沼です。お忘れ物のございませんよう……】


 今までただの告知しか役割が無いと思っていたアナウンスに、愛水の怪談を遮ってくれた事に感謝する。


「ここまで来ると、都会の面影も薄くなるな……」


「名古屋とはまた雰囲気が違いますねー!」


「俺、ちょっとトイレ……」


 充が、顔を青くして、足取り重く向かう。

 さっきの話と、あれだけはしゃいだせいだろうか。


「先に行きますか? 乗り換えるのは7番線ですけど」


「……その前に、一杯買ってくか」


 自動販売機には冷たい飲料ばかり。一度考え込むが、やはり辞めておく。


「あれ? 買わないんですか?」


 既に愛水の手には、風味付きのスポーツドリンクが握られている。


「あんまり好みが無くて……」


「別に隠すこと無いじゃないですかー。男性だって冷え症持ちの方なんて、幾らでも居ますよ?」


「……は?」


「だって、峯岸みね先輩は、まず、自販機の一番下を見ました。

 上部に視線も向けずに。

 それに、厚手気味の上着をずっと着てますよね? 靴下だって長いし。

 部活の時も、ホット紅茶飲んでましたもんね」


……ここまで言われると、否定出来ない。

一層、我朱愛水という後輩人間を危険視するようになった。

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