「なあ、柚木ユギ


「ん、何だよ?

 つーか、夕佐ユサと呼べって。

 ……恥ずい」


「おう……。

 なんか、違和感感じないか?」


「またかよ……」


 あの推理マニア(とは言ってるけど人のことは言えない)–––––愛水アイミさんが入部して、はや1週間。


 ミチルは、未だにあんな事をぼやいている。


 実際、俺も違和感。


 部室兼探偵事務所には、菓子の空袋、ゲーム機、カセットテープ、CDプレーヤー、よく解らん彼奴ミチルの教科書やらルーズリーフ、あとは–––––––俺の本ッ!


「違和感の正体は……これか?」


 口元を綻ばせながら、同人誌を取り出す。


「おっ、見つけてくれたのか!

 って、ちがーう!」


「違うのか?」


「断言しよう。

 …いや、探しているものはあったけど」


「結局、違和感なんて存在ねえだろ」


「こんにちは〜! 我朱愛水、参りました!」


 神聖な空気が、ぶち壊される。


 ……最悪だ。


「……何か散らかってますね」


「では手伝ってくれ」


 いかにも探偵口調という喋りっぷりで、床を埋め尽くす類の物品を漁る。

 余計に散らかる……。


 俺は妙な威圧感を感じ、それは充の視線から発されている事を知り、本を閉じた。


 探偵がする行為では無いだろう。


「あッ!」


「どうした!?」


「何か見つけましたか?」


「こんな所に…! 俺の推理小説!」


「何だよ……。

 そういえばさ、合宿っていつだよ?」


「は?7月20日だろ?

 ……ん?やっべえ! 荷造りしてねえ!」


 カレンダーを横目で見ると、今日は18日。

 服だってそんなに蓄えは無く、合宿と言えど本格なのだ。

 だからこそ、2日前に全てが完璧でなくてはならない。


「俺、先に帰るわ!

 あとはよろしくな!」


充と愛水さんの2人きりでは、少々まずかったかと思ったが、何とかなるだろうと、プラス思考が働いたので、俺は慌ただしく部室を後にした。



しかし、やはり2人きりにしておくのは止めておいた方が良いという考えは正しい事を後で証明した……。

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