籠の殺人

朝陽うさぎ

「えッ、マジか!? ぅおっしゃぁぁぁぁ!!」


 読書を謳歌していた俺は、同級生及びマニア仲間フレンズの歓喜雀躍の大声に、思わず飛び上がってしまった。


「五月蝿いって……」


「これが喜ばずに居られるかよ! 合宿の許可下りたぞ!」


「合宿って……、脅迫状とか、悪戯が来たやつか?

 一応訊くが、まさか行くんじゃないよな?」


「行くに決まってんだろ、馬鹿野郎! 探偵シャーロック・ホームズが行かなくて如何すんだよ。

 腕の見せ所だ! 受けて立とうじゃねえの!」


 出港前の船人のように、ダンと大きな段ボールに足を乗せる。が、相当劣化していたのか、はたまた力の加減が出来ていなかったのか、勢いに耐えられず、ぐしゃりと呆気なく潰れる。

 それでも彼はめげずに腕まくり。


「一つ訂正するぞ。お前は主役シャーロック・ホームズであって、俺はただの脇役ワトソンだ。

 あとさ、そんなに探偵事務所名前は知れ渡って無いし、学校内じゃモドキだって噂立ってるぞ」


「お前がその噂を肯定してどうすんだよ!?

 しっかしな……やる気有んのか? ずっと本読んでばっかじゃん」


「俺の人生から本を奪う気か!?」


「そうとは言って……」


「…あの…、今大丈夫で」


「取り込み中だから黙ってろ!!」


「取り込み中だから黙ってろ!!」


 入室してきた女学生はぴえん、と涙顔。


 今思えば、よくハモったよな。


「す、すみません……」


 どうやら気を悪くしたようで、そそくさと部屋を後にする。


「ねえ、ちょっと待って!」


「はいぃ……?」


「もしかして、入部希望者?」


 ん?入部?

 ……ああ、そうか。

 ミチルの視線は、女学生が抱えている書類の一部。題に、「入部希望届」と表記されてあった。


 クッソ、観察力もまだまだだな。


「そうですけど……」


「よく来てくれた!取り敢えず、此処にかけてくれ」


 さっきの威勢は何処へ行ったのやら……。


 女学生と言えど、背は俺等よりも遥かに下回っている。140cmくらいだろうか。

 充は、部室兼探偵事務所と化した部屋に招き入れ、来客用のソファーに座らせる。


 それにしても、よくこの部活を見つけたな……。

 俺が入部している部活は、ミステリ部。

 名前からすると、ミステリーを好む者たちが集う場と勘違いする者が多い。


「そんな、のほほんとした内容ではなぁいッ!!」


 と、充は叫ぶだろう。


 ミステリ部は事件を解決していく部活でもある。

 ただ、依頼など滅多に来ない。

 それに、頼みに来る奴はどうにかしてるんじゃねえのって思う。


 =====


「えっと……、1年B組の我朱あがあけ愛水あいみです」


「我朱さんね…。何でミステリ部に?

 あ、その前に、一つ推理して貰おう」


「推理…?」


「俺等の時、そんなんなかっ……」


「いいから!

…オホン。

さて、密室殺人が起こったとしよう。鍵はカード式で、マスターキーは何処に有るかさえ不明。

さあ、どうやって入るか!?」


正解するか、しないかはあなた次第!とでも言いそうな表現かおを見せる。

女学生–––––我朱さんは、間髪入れずに答えた。


「簡単なことです。

ドアの下の隙間から、先を少し曲げ、L字型に変形させた針金を差し込んで、部屋の中のドアノブに引っ掛ければ良いんです」


「もしかして…、ミステリ愛好家?」


「好意を持っちゃいけませんか?」


俺は、我朱さんの笑顔にぞっとする。

彼女にとってミステリーは、ただのファンのような浅はかな存在ではなく、愛人という捉え方なのだろう。


「あ、“我朱さん”ではなくて、下の名前で読んで良いですよ。

可愛く聴こえるし」


俺は愛らしさを求めてはいなくて、君の実力を拝見したいんだけど……。


「よぉし、解った!」


いきなり充が立ち上がり、座っていたキャスター付きの椅子が、棚にぶつかる。

そして、愛水さんの手を掴む。


「是非とも、入部してくれ!」


「えッ……ありがとうございます!」


そして、暫くの間、部室兼探偵事務所は、パリピが去っていったような状態になった。


……俺の本を穢すなぁッ!!

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