2話 魔王召喚、リビングから

「透明人間必殺奥義・召喚魔法!」 

「透明人間関係ねえ!」



「ウラララララララララララララララララララララララララララララララララ!」

 言うが早いか、彩々が猛烈な勢いで地団駄を踏み鳴らし始めた。

「おい、ちょ、やめろ! 何やってんだ、お前、二階でそんなことしたら―――」

「うるせぇぇぇぇぇぞぉぉぉぉぉぉぉ! リョ――――――アぁぁぁぁぁぁン!」

 階下で怒号が爆発した

「ほ、ほら見ろぉ! どうすんだよ、これぇ!」

「へへ~ん、べ―――だ☆」

 ドスっ! ドスっ! ドスっ! ドスっ! ドスっ! ドスっ!

すぐさま分かり易く怒りのこもった足音が階段を駆け上がってくる。

 ヤ、ヤバイ。この足音はマジでヤバイ時の音だ。ちくしょう、透明人間め。なんちゅうヤツを召喚しやがるんだ。どーする、どーする、僕!

 

 バッキャ―――――――――――――――――――ン!


 どうすることもできない間に、半分ほど開いた扉がわざわざ蹴り破られ、

「今、何時だと思ってんだ…………リョーアン」

 戸口から鬼が姿を現した。

あ、いや、違う。鬼じゃない。そんな生易しいものじゃ………………決してない。

ド金髪のロングヘアーを振り乱して現れたのは、かつて「金色夜叉」と恐れられ、県下一円のヤンキー達の頂点に君臨した我が町のラスボスこと、

「近所迷惑だろうがああああああああああああ!」

―――杉田市子二十一歳。

「ちょ、ちょ、待って待って待って! 違う、僕じゃないんだ、ねーちゃん」

―――世界最強の僕のねーちゃん❤

「リョーアン、午後十時以降に騒いだら殺すって八年前に言っておいたよな。忘れたとは言わさねーぞ!」

 八年も前の事よく覚えてたなこの元ヤンは。

「選べ…………世界の半分か、死か」

「どんな権限持ってんだよ、ねーちゃんは! 違う、マジで違うんだよ、ねーちゃん! 僕じゃないから! 騒いでたのはコイツなんだよ!」

「こいつ……?」

 ねーちゃんの眇めた視線が、僕の伸ばした人差し指の延長線を辿る。

「…………本棚か? 本棚が騒いだのか?」

 とーめー人間のバカっ!

「本棚でも机でもなんでもいい。お前の部屋のモンの不始末は主であるお前の責任だ。ほら選べ…………デッド・オア・ダイ?」

「それ二択じゃないから! 信じて、ホントに僕じゃないんだよ、彩々なんだよ!」

「あぁん? お前の幼馴染かつ、お隣さんかつ、同級生で昔から家族ぐるみの付き合いのあった彩々がどうしたって?」

 とても自然な紹介ありがとう。

「み、見えないけどいるんだ、彩々が! そ、その、透明人間になって!」

「とぉぉぉぉぉぉめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ人間だぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?」

 なんだろう。本当の事を言ってるはずなのに、まるで火に油を注いでいるかのようだ。

「リョーアン、おめーよー」

メドゥーサにも勝てると豪語する必殺のねーちゃんメンチが閃いた。


「やっと、気付いたの?」


 …………え?

「はあ~~、ったく……」

ねーちゃんはダルそうにド金髪をかき上げて、

「彩々……いんの?」

「はーい」

 いつの間に避難したのか、ベッドの上から彩々の声が答えた。

「もう十時半だからあんまり騒ぐんじゃないよ」

「ご、ごめんなさーい」

「ん」

 ……え、なにこれ。も、もしかて、もしかして……。

ホットパンツからはみ出た下尻を掻きながら再び僕を見やるねーちゃん、ポンと一つ肩を叩いて、

「お前からもちゃんと彩々に注意しておくんだぞ、リョーアン」

「知ってたのかよおおおおおおおおおおおおおおお!」

「騒ぐなっつてんだろっっっっ!」

 

 結局、殴られました。

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