第2話 自然の神 ダリア

魔王討伐。正に異世界ファンタジー。

うーん、リアリティーはない響きだ。

憧れではあった。

そういう物語を幾つも読んでは妄想してみた。

現実になってみると、この『思ってたのと違う感』ね。


ジョガーパンツにジップアップパーカーにスニーカーの村人レベルのスキル。

完全に『まんま俺』

一回現世で死んで、この世界の住人として新しい人生をって意味では確かに『転生』かもだけどさ。


モノローグでぶつくさと文句を言いながら、神様見習いのマナの案内で、かれこれ森の中を1時間と20分ほど歩いている。


「マナ…君は俺の前に現れた時、瞬間移動的な感じで出てきたよね?あの時みたいに自然の神様とやらのところにパパッと行けないわけ?」


いい加減疲れてきたし、どうしても疑問だったので背後からマナに尋ねてみた。


明らかにビクッとなってマナは立ち止まり、タラタラと汗をかいて、ひきつった笑顔で


「いやぁ、こうして徒歩で目指すのもRPGぽくていいかなぁと。ほら!体力作りにもなりますし!」


すげー言い訳っぽい。いや、明らか言い訳だろ。

さては…


「…自然の神様と面識は?」もうズバリ聞いてみた。


「…ないです。今日が初対面です…ね。あの…森の中のどこかとしか」


縮こまって申し訳なさそうにマナは予感どうりの返答をしてきた。


俺はハァッと溜め息をついて、今まで読んだ物語の中に出てきたスキルを提案してみた。


「今いる場所から何メートル、何キロかの範囲内の気配を読み取る魔法とか。動物たちに自然の神様のいる場所へ案内してもらえる魔法とか、さ?なんか無い?」


すると「あ!」と何か思い出したように声をあげ


「そうだ!つい最近習得した魔法を忘れてました。広範囲の気配を読み取る魔法!動物の言葉を聞く魔法は…動物の種類によりますが…少し」


いや、どっちもいけんのかよ!


物語からの知識で提案した魔法はどうやらこっちじゃ実在したらしく、両方習得したのを忘れてただけだそうだ。

本当に大丈夫か?神様見習いよ。


俺の高まる不安感を他所に、マナは手を合わせて唱え始めた。


「ファインド・ウィンディア・フォレスティア」


英語っぽい言葉が並んでいるが何かしらの呪文のようだ。


すると辺りの草木がガサガサッと鳴り、俺たちの背中を押すように風が吹いた。

風向きは東。一瞬の強風の後は緩やかに東に向かって風が吹き続けて、カサカサと葉が鳴り続けている。


なんだか凄い自然な魔法だ。派手さは全くない。

なんとなく…疑ってるわけじゃないが…


「たまたま風向きが東ってだけじゃないよな?」


これまでの抜けっぷりからマナを少しばかり舐めている俺だった。


「失敬な!風と木々が教えてくれてるんですよ!私も確かにこっちの方向に武道の達人である自然の神・ダリアの気配を感じてますし」


なるほど。居場所さえわかればおっちょこちょいなマナでも気配は感じ取れるようだ。


葉が鳴り風の吹く方向へ暫し歩いていると木製の家が見えてきた。


普通に綺麗な外観、なかなか大きく人が住んでいそうな立派な家だ。


なんだか美味そうな匂いが漂っている。

クリームシチューのような。


匂いに反応して腹がグーッと鳴って空腹を意識したその時、ギギッと家のドアが開き、中から浅黒い肌、赤茶けた髪、露出多めな民族衣装のような服、モデルのような背丈、スラリと伸びた長い脚の美女が出てきた。


描いていた人物像とはかけ離れた人物の登場に驚き、その美しい容姿に見とれているとー


その美女の姿が一瞬消えて、ドカッという音とともにマナがぶっ飛んだ。


「ぐはぁっ」と声をあげ、近くに生えている木に激突。

木の枝に成っていた実が落ち、更にマナの頭にゴチンゴチンと当たる。


「あたしが待たされるの嫌いだって聞いてなかったか?人と会う初日に遅刻とはいい度胸だな?」


見とれていたさっきまでの美女はどこへやら。

怒り心頭、鬼の形相でマナを睨む彼女がダリア。

自然の神である。と悟った俺だった。


この美しくも恐ろしいお姉さんに武道や魔法を習うのか…

一瞬でも天国を夢見た俺が馬鹿だった。

いやドM男子ならば最高のシチュエーションだろうが。

生憎と俺にその趣味はない。


などと考えている間に…あぁ哀れなりマナ。

「あぐっ!ぶふぉ!」怒り収まらぬ恐女神ダリアに引き続きボコられている。

美少年フェイスはいずこへ。

ぷっくり腫れ上がり不細工に仕上がったところでダリアの鉄拳制裁は止まった。


くるりと俺のほうに振り向いたダリアは少し目を細め「んん?」と言ってズカズカと近づいてきた。


俺の胸ぐらを掴み、グイッと顔を近づけてまじまじと見つめた後、パッと手を離された。


尻餅をついた俺が「っ痛ぅ…!何すんだよぉ…」と尻をさすっていると、ダリアはハァッと溜め息をつき


「なぁ。こいつホント普通も普通の人間だよね?魔力も闘気も微塵も感じないよ?見込みもない弱味噌の一般人をレベル0から育てろってわけ?」


ダリアの問いに「誰だ?」と言いたくなるほど変形した顔面のマナが答えた。


「確かに自殺者ですし、現状は心身ともに強いとは言えないですが。彼には強い願望があります。勇者や戦士、魔法使いや超能力者など異能を持つ者への強力な憧れ。それが強さに繋がるのでは、と思い連れてきたのであります!」


さすがは神様。見習いだけど。腐っても神様だ。

まだ話してもいない俺の頭の中をよく御存知で…

ん?いや待てよ?

次の瞬間、うっすら感じた嫌な予感が的中した。


「更に彼は貴女のようなセクシー美女との異世界生活をそれはもう猛烈に欲しているのであります!褐色美女やエルフや姫騎士などを夜な夜なオカズにすること数百回!そんな彼が貴女の下で修行すれば、どんなスパルタにも願望と煩悩の力で必ずや乗り越え、強者となり魔王討伐への希望となってくれるでしょう!」


マナの無駄に達者な口から俺の秘密事項がベラベラと語られた。

最悪な演説である。


「…確かに。願望と煩悩は才能足らず者にはスキルを身に付けるには有効だ。だが、今のところこの青年が性欲の塊だという印象しかないぞ?私には」


ごもっともです。

精一杯、俺の情報を絞り出し、プレゼンした結果がほぼ性癖の暴露じゃあね。


「大丈夫です!男性の強さへの願望や異性への欲望は英気となり、いっぱしの雄へと成長させてくれます!だから、どうか!どうか彼、雄也に武道の達人である貴女の力をお貸しください!」


マナの一応もっともらしい最後のプレゼンにダリアはフンッと鼻を鳴らし


「…わかったよ。とりあえずは1ヶ月を目安にな。それまでに何の変化も見られなかったら直ぐに追い出す。それでいいね?」


ダリアのOKが出た。

俺の良さ、長所は全く出てないプレゼンだったのだが。

まぁ修行させてくれるのならいいってなもんだけど。

いろいろバラされたし、お姉さんは怖いし不安と不満しかないんだが。


ネガティブ思考が働いている俺を他所にマナが「ありがとうございます!ありがとうございます!どうかウチの雄也を男にしてやってください!」とまた余計な言葉を足して意味深さを匂わせながらペコペコと頭を下げている。そして誰が『ウチの雄也』だ。


「とりあえず家に入んな。先ずは腹ごしらえだ」


ダリアに促され、家に入るとさっきのいい匂いが漂っていた。

着席したテーブルにはスプーンと水、キノコのシチューが並べられた。


美味そうな匂い。見た目はキノコと野菜のシチューだけど。

普通にクリームシチューだよな?

変な生き物の肉とかは入ってないよな?


そう警戒しつつ「いただきます」と言ってスプーンですくったシチューを一口。


「美味い。普通にというかスゲー美味い!」


俺の反応にダリアもニッと笑顔を見せた。

こうして見るとやはり美人だな。

そう思いながら二口、三口とシチューを口に運び、あっという間に完食。


一皿が大きめだったので、それなりに腹は満たされた。


そこへ「まだまだあるぞ!」とのダリアの声。


ドンッ!とテーブルの上に置かれた特盛のチャーハン(キノコたっぷり)

そして見たことない生物(角らしきもの、鰭、鱗らしきものあり)の丸焼き。


「私の自信作だ!特別にふるまってやる!全部食べていいぞ♪」


…嬉しそうだな。ダリアさんよ。

料理好きで料理上手。

褒められて御満悦か。かわいいとこ、あるじゃん。


でもこれ…苦行だな。


「頑張ってください、雄也!…ドンマイです」


うるせーよマナ。


自然の神 ダリア。

彼女とのスパルタな修行は翌日からのはずだけど。


俺にとっては今晩から始まっている。


そんな気分です。


誰か胃薬ください!

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自殺転生~罰として魔王討伐~ MASU. @MASUMASU69

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