第51話 もしかすると
そもそも保良間は本当に和泉を刺す気はなかったし、その瞬間のことは正直に言って自分でも上手く思い出せず、こうして彷徨うように道を歩いているのも、瞬間的に自分のしたことが恐ろしくなって逃げてしまっただけだ。
和泉君は、無事だろうか?
刺してしまった自分が本当に和泉君のことを心配しているのか、罪が重くなることを恐れて不安になっているのか分からない。この期に及んでそんな風に考えてしまう自分の矮小さがとても醜く、自己嫌悪に陥った。
和泉君は、生きているだろうか?
何度も浮かぶ疑問に、答えを出すことは出来なかった。
加害者である自分が被害者である和泉君の容態を知る方法なんて、まるで思い浮かばない。そこまで考えて、目の前に交番があることに気づいた。
何の目的もなく歩き続けていたが、自分はもしかすると、ここを目指していたのかも知れないと保良間は思った。
このまま逃げて罪が重くなるのを恐れて、という気持ちは否定できない。
でも、それよりも知りたいという思いの方が上回っていたのは、間違いなかった。
「すみません」
「どうされましたか?」
顔を上げた警官は人の良さそうな笑みで見つめてきて、自分にはそんな笑顔を向けられる権利はないのだと保良間は思う。
「人を、刺してしまいました」
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