第50話 スクリーンショット


「もう、疲れたぁあああああああっっっ!!」


 山の木々に囲まれながら、五十嵐いがらしりんは声をあげた。


 視界の悪い着ぐるみで走り続けるのは想像以上にハードであったし、右足を入れている触手はその負荷に耐えられずに破れてしまったし、くま店長は自分を助けてくれなかった。


 悪いことだらけではあったが、どうにか自分はあの親子から正体を隠し通せたらしい。


 背後に追手がいないことを確認して木の幹に寄りかかり、五十嵐は宇宙人の頭を外した。


 額には汗でまとまった前髪が張り付いていて鬱陶しいし、肺が空気を求めていて大きく息を吸った。これ以上走ったら、今度は自分が病院送りになってしまうと五十嵐は思う。


 でも、これだけやれば、充分でしょ?


 あまりの暑さに着ぐるみを脱ぎながら五十嵐は考える。


 最初からこの役目は貧乏くじだと思っていたし、普段なら絶対に頼まれたりはしないが、腹を刺された幼馴染の〝一生のお願い〟とか言われたら、やるしかなかった。


 やっと呼吸と気持ちが落ち着いて、和泉いずみは無事だろうかと心配になってきた。


 貝塚かいづかに連絡を取ろうと思って携帯を取り出してみれば、熊店長からメッセージが届いていた。


『回収できなくて悪い。今から切通きりがよいさんたちを連れて病院へ行く』


 連絡を入れてくれて助かる反面、この汗だくの状態で車を使えないことに気が滅入った。早くリサイクル・パラダイスに帰って制服に着替え直したい。この着ぐるみは脱ぎ捨てて後で回収すればいいだろう。


 そこまで考えたところで、熊店長から別のメッセージが届いて五十嵐は携帯に視線を向けた。


『お前の逃げる姿、ひょこひょこして可愛かったぞ』


 思わず眉を寄せたが、数秒後には笑みが浮かんだ。


 熊店長は空気を読めるのか読めないのか、よくわからない人だと五十嵐は思う。


 でも、五十嵐はその画面をスクリーンショットで保存して、お気に入りに登録した。

 

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