第47話 無価値だなんて
昨日と変わりないミステリーサークルを見つめて、ようやく
自分はずっと、それに気づいていたのだ、と。
気づいていて、そこから目を反らしていたのだ、と。
陰謀論なんてモノは頭のおかしい人間の妄想でしかなく、政府には宇宙人の存在を隠す理由が存在せず、現代に出回っている情報には嘘なんてこれっぽっちも含まれていない。当たり前で当然で正当で、そんな溢れかえる情報の全てが――宇宙人の存在を否定し続けていた。
それらを鵜呑みにするなら宇宙人がこの世にいるわけがなかったし、それから目を反らし続けていたことこそが間違いだったのだ。
しかし、それを認められない自分がいた。
父を想い、自分を捻じ曲げてでも信じたいと思ったソレは、続ければ続けるほどに引き返すことができなくなった。中学生の頃に気づいていれば友達を失うこともなかったし、高校生になった頃なら母との関係ももっと良好だったに違いない。もっと普通に過ごしていれば、自分はもっと幸せに生きていたのかも知れない。
しかし、それが正しいのであれば。
自分の今までの想いはどうなってしまうのか。
全てが無駄で無意味で、無価値であることが正しいハズなのに、父の信じたソレが無意味だとは、どうしても思えなかった。
思いたく、なかった。
だからこそ、自分は一人になっても、様々な情報を頭の中で誤魔化してでも、それを信じ続ける道を選んだのだ。
そして、このミステリーサークルは、その気持ちの表れだった。
それは結局のところ、自分の想いが正しいと、本気で信じられなかったからだ。
仮にミステリーサークルを作って、宇宙人から何の反応もなかった場合に、これ以上にできることが自分には思いつかなかったからだ。
今までに信じてきたモノの先に繋がるものが見つからなくて、怖かった。
今までに積み重ねてきたモノが全て無意味で無価値だなんて、受け入れられなかった。
でも、それを受け入れなければならないのだとも、分かっていた。
このままではいられない。
毎日、自宅の屋上で宇宙人に会いたいと祈りながら、ずっとそうやって考えていた。
そして、それに白黒をつけることにしたのは、ある出来事が起きたからだ。
私の前に、彼が現れた。
宇宙人のことを信じているという私の秘密を知っても、彼だけはいなくならなかった。
そして、彼は宇宙人ではなかったけれど、宇宙人がいると信じてくれた。
彼が信じてくれているのに、自分が信じないなんて許されないと、思った。
だから、ミステリーサークルを作った。
父の残したメッセージが、宇宙人に届くことを信じて。
一縷の望みをそこに抱いて。
しかし、結果は。
自分はもう、宇宙人を見つけるためにできることは、全てやり切ってしまったのかもしれない。これ以上、自分は意地を張る必要はないのかも知れない。宇宙人なんているわけがないのだから、そんなことを忘れて、これからは普通に生きていけばいいのかも知れない。
そう想うには、自分は十分に頑張ったのだとも、思う。
そう納得しかけた時、切通はこちらにやってくる黒いワゴン車に気づいた。
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