第45話 キモカワ


 五十嵐いがらしりんは、生まれて初めて着ぐるみを着た。


「意外とコレ、可愛くないですか?」


「……キモカワって奴か?」


 ワゴン車の後部座席から五十嵐は声をかけたが、くま店長の返事は芳しくない。


「若者の感性はわかんねぇな」


 熊店長は運転席でこちらを見ることもなく首を振っていた。


 この着ぐるみは丸い頭と寸胴という出で立ちだから、新手のゆるキャラに見えなくもないが、その細部はとても現実思考だ。腹はしっかりと影になる部分が塗装されているし、触手の付け根やら目玉はグロテスクで、なんだか虫の裏側に近いと思う。


 でも、可愛いと思い込まなければやってられないと五十嵐は思う。


 運転に集中してもらうことは不本意ではないにしろ、伝わらない思いにいじけそうになる。自分は確かに可愛いといってもらえるような女子ではなかったが、こういう時くらい、熊店長に可愛いと一言だけでも言って欲しかった。


「でも、なんとかなりそうで良かったな」


「……そうですね」


 古くさい着ぐるみは可動域が少ないから動きづらいし、少し無理をすれば経年劣化によって関節部分が破れる可能性も高い。気を遣うくせに重量もかなりのもので、特有のゴム臭さと体内にこもる熱は着た者にしか分からない不快さだろう。リサイクル・パラダイスの商品である古着に着替え、その上に着ぐるみを着てから数分しか経っていないが、すでにかなりの汗をかいていた。


「そろそろ着くぞ」


「はい」


「……頑張れよ」


「……はい」


 正直、自信はまるでなかった。


 宇宙人のフリって、どうすればいいんだろう?

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