第42話 神は天にいまし、全て世は事もなし


「んじゃ、行ってくるわ」


「気をつけてな」


 放課後になって、和泉いずみ貝塚かいづかと別れて校舎裏に向かうことにした。


 五十嵐いがらしも手伝ってくれるということだったから先ほど声をかけたが、先に用事があると伝えると、五十嵐は先に自分だけ行くと言ってリサイクル・パラダイスに向かってしまった。そんなにくま店長に会いたいのかと思ったが、五十嵐を応援したい気持ちは嘘ではない。好きなだけ熊店長と二人きりで話せばいいと和泉は思う。


「和泉君!」


 下駄箱で靴を履き替えていると、切通きりがよいが声をかけてくれた。


「よう。無事に伊知子いちこさんを呼べそうか?」


 和泉の問いに、切通は眉を寄せた。


「私がお母さんを呼ぶことより、和泉君がちゃんと宇宙人になれるかって方が心配よ」


 そりゃそうか。


 でも、


「なるようにしかならないけど、できるだけ頑張るよ」


 自信を持って答えられないのが申し訳なかった。


 和泉の曖昧な言葉に切通はため息をついたけれど、その顔はどこか楽しそうでもある。


「神は天にいまし、全て世は事もなしってとこかしら?」


「そうかもな」


 切通もその言葉を知ってたか。


 色々な解釈のある言葉だろうけれど〝なるようになるさ〟てのも、一つの答えかも知れない。


「なんだ。和泉君もこの言葉を知ってたのね」


 切通が笑って付け足してくる。


「やっぱり『赤毛のアン』って最高よね」


「……待て。あれは『ブラックラグーン』の名言じゃねぇのか?」

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