第40話 話すと長くなる


 切通きりがよいと別れて、和泉いずみは夜の山道を家に向かって歩いていた。


 木々の間から虫の音が届いているし、夜風が涼しくて心地よい。スマホを取り出してみれば、時刻は二十二時を回っていた。この時間なら閉店作業中だろうし、そこまで迷惑にならないだろう。和泉はそのままスマホをタップし、電話をかけた。


くま店長、お疲れ様です」


『和泉か、どうかしたか?』


 熊店長の促す言葉に甘えて、和泉はさっそく要件を口にした。


「明日、リサイクル・パラダイスに伊知子いちこさんの売った宇宙人の着ぐるみを取りに行きたいんです。店を開けてもらっていいですか?」


 今日は火曜日で、明日の水曜日はリサイクル・パラダイスの定休日だ。だから、宇宙人の着ぐるみを取りに行くためには店を開けてもらわなければいけない。


『いつでも開けてやるよ。それより、切通さんに何か喋ったか?』


 切通さん――熊店長がそういう言い方をするのは、伊知子さんのことだ。


「何かあったんですか?」


 和泉の問いに、熊店長は唸ってから答える。


『ついさっき、切通さんが来店されてな。和泉が切通さんの商品を買い戻したのを知ったらしくてよ? しかも、その値段まで知っててな。こんな大金は受け取れませんって、金を返しに来たんだ。最初は突っぱねたんだが、なかなか退かなくてな。結局、和泉が出す二十万と五十五万の差額の三十五万を受け取っちまったよ。まったく、俺の男気を無下にすんなっての』


 言われて、ようやく思い出した。


 伊知子さんは先ほど別れてから、リサイクル・パラダイスにお金を返しに行ったらしい。


 律儀というか、生真面目といえばいいのか。でも、そうなってしまうと、品物を勝手に買い戻した和泉の立場がない。


「熊店長、いろいろと、その、ありがとうございます。このお礼は、いつか必ず!」


『……和泉、ちょっといいか?』


 和泉は通話を切ろうとしたが、熊店長は何か思うところがあったらしい。


「なんですか?」


『……あのコレクションって、何か訳アリなのか?』


 熊店長に聞かれ、どう答えようか迷った。


 この奇天烈な巡りあわせの話を、伝えるべきなんだろうか?


「話すと長くなるんですけれど、聞きたいですか?」


『長くなるなら、こっちからかけ直すぞ』


 熊店長は笑って続ける。


『通話代だって、学生には馬鹿にならねぇからな』

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