第36話 どこにいる?


切通きりがよい! ここか!?」


 和泉いずみは廊下に繋がる窓を開けて、視聴覚室に顔を突っ込んでいた。


 和泉は鷲崎わしざきさんの家で伊知子いちこさんと別れ、切通のいそうな場所へと走ってきた。入れ違いになる可能性も考えて、伊知子さんにはとりあえず自宅で待機してもらっているし、何か思い当たる事があれば伝えて欲しいと話しておいたが、今のところ連絡はない。


 和泉は切通のことが好きだが、まだ切通について知らないことは多い。


 切通がいそうな場所として最初に思いついたのが視聴覚室だったが、


「空振りか」


 視聴覚室には誰もおらず、時が止まったように静かな空間があるだけだった。


 和泉は頭をかいて、とりあえず窓枠を飛び越えて視聴覚室へと入った。


 体は熱を帯びて汗をかいていたし、息を整えるためにも近くの椅子に腰かけた。


 ここにいないなら、切通はどこにいる?


 次の場所を探しに行くとしても、当てもなく探しまわって見つけられる気がしなかった。


 高校生の家出として思い浮かびそうなのは、友達の家やファミレスやカラオケ、ゲーセンとか、候補は絞り切れないほど多い。でも、あの切通が普通の場所にいる気はしなかった。


 そもそも、切通が感情に任せて家出をするっていうのがイマイチ想像できない。


 切通の行動は、いつも理にかなっていた。


 あの時、切通は宇宙人を呼び出す儀式をしていた。あの時の和泉には、そんな切通がまるで理解できなかったけれど、今の和泉にはその気持ちがよくわかる。


 今の和泉は、むしろ切通を応援したいとすら思っていて、今日だって切通が普通に登校していて放課後になったら、ここで話した――


 そうか。


 切通がやりたいことをしているだけなら、行くところは一つしかない。


 和泉はスマホを取り出して、伊知子さんに電話をかけた。


 待ち構えていたのか、呼び出し音が二回も鳴らないうちに伊知子さんが出てくれる。


咲希さきは見つかりましたか!?』


「まだ、見つかってません」


『……そうですか』


 落胆する伊知子さんに申し訳なく思いながら、和泉は口を開く。


「切通のお婆ちゃんの畑って、どこにありますか?」

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