第34話 お見舞い


 放課後になって、和泉いずみはとりあえず鷲崎わしざきさんの家に向かった。


 切通きりがよいの家が別にあるというのは伊知子いちこさんから聞いていたけれど、和泉が知っている切通の家はここだけだ。ここにいなければ、伊知子さんに改めて電話すればいいと思う。


 とりあえずチャイムを押してみると反応があった。


 ままあって玄関から顔を覗かせたのは伊知子さんだ。


「伊知子さん、こんにちは!」


 和泉の訪問に少しだけ驚いているようだったけれど、伊知子さんは笑顔を作る。


「あら、こんにちは。和泉さんじゃないですか? どうされたんですか?」


 伊知子さんの疑問を聞いて違和感を覚えるが、その正体に思い当たる。


 恐らく伊知子さんは、自分が切通と付き合い始めたことを知らないのだろう。だから、伊知子さんは和泉が切通のお見舞いに来た事に不思議に思ったのかも知れない。


 ……きちんと話しておく、べきなんだろうか?


「切通――いや、えっと、咲希さきさんの様子はどうですか?」


 和泉の言葉に、伊知子さんは小首を傾げた。


「咲希なら、まだ帰ってませんけど?」


 噛み合わない会話に疑問が浮かんだ。


「もう治ったんですか?」


「何が、治ったんです?」


「いや、その、切通は風邪で学校を休みましたよね? お見舞いに来たんですけど?」


 和泉のその言葉に、伊知子さんは顔を曇らせた。


「咲希は、普通に登校したんですけれど……登校して、いないんですか?」


 伊知子さんの言葉に、今度は和泉が虚を突かれた。


 高校生にもなって、ずる休みなのだろうか? でも、家にいないのなら、切通はどこにいるんだ?


「あの、和泉さん?」


 悩み始めた和泉に、伊知子さんが話しかけてくる。


「少し、お話をしても良いでしょうか?」

 

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