第三種接近遭遇

第33話 ふりだし


 五十嵐いがらしたちばなさんの予想通りに恋をしていたが、その対象は和泉いずみではなかった。


 つまり、


「脅迫状と五十嵐は無関係だったよ」


 和泉がそう口を開いたのは翌日の昼休みだった。


「そうなると、また犯人捜しは〝ふりだし〟か」


 和泉の前で相変わらず弁当箱を広げる貝塚かいづかが、腕を組んで悩んでいる。


切通きりがよいさんの方にも心当たりは無かったんだろ? そうなると犯人の手掛かりはナシか」


「そうなるな」


 和泉はちらりと切通の席へと視線を向けた。


 いつもなら昼休みを寡黙に過ごしている切通だが、今日のそこは空席だった。


 なんでもホームルームでの担任曰く〝風邪で欠席〟らしい。


 珍しいなと思いつつも、少し心配だ。


 和泉が知る限りでも、切通は夜に出歩くことが多かった。そんなに遅くまでファミレスにいたわけでもなかったけれど、昨日のうちに切通が風邪をひいたのなら、原因は少なからず自分にもあるかも知れない。


 こういう時に連絡先を知っていたらメールのひとつでも送るのだけれど、和泉はまだ切通と連絡先を交換していなくて、和泉が知っているのは伊知子いちこさんの電話番号ぐらいだった。


 授業が終わったら、お見舞いに行こう。


 一応……その、彼氏になったし。


 そんなことを考えていた時だった。


 何気なく視線を動かした先――廊下から和泉達を見つめている男子学生がいた。目が合ってしまったが、そいつは初めて見る顔だった。合同授業で見たこともないし同学年ではないだろう。背も高いから、恐らく一年じゃなくて三年なんじゃないかと思う。


 そいつは和泉からすぐに視線を外したし、特にそれ以上興味を惹かなかったけれど、ちょっとした和泉の様子に貝塚は気づいたらしい。


保良間ほらま先輩か」


 貝塚は席を立った。


「約束あったの忘れてたわ。ちょっと行ってくる」


 貝塚はそのまま教室から出て行って、そいつと廊下で楽しそうに話をしていた。


 同級生どころか上級生とも交流があるのは素直に凄いと思う。和泉がこのクラスで孤立してないのは間違いなく貝塚のお陰だったし、あれだけ社交的なら就活とかでも有利なんじゃないかと思うし、貝塚の爪の垢でも煎じて飲めば、切通も少しはマシになるかも知れない。


 そんな相手に心配してもらえて、幸運だなぁ。


 友情って、やっぱ良いよな。

 

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