第23話 モテモテ


 月曜日の朝。


 登校した和泉いずみは、下駄箱の前で眉を寄せていた。


「朝から辛気臭い顔してんな?」


 声に視線をやると、貝塚かいづかが隣で上履きを取り出していた。


「いや、なんかさ? また入ってた」


 また――という表現は語弊があるかも知れない。前回の封筒は切通の仕業であり、飾り気のない茶封筒だったが、今回は全体的にピンク色で、縁にハートの並ぶ封筒だったからだ。


 それが、和泉の下駄箱に突っ込まれていた。


 和泉は封筒を取り出して裏も確認するが、送り主の名は書かれていない。


「これが噂のモテ期って奴か?」


「……なら、俺は生涯モテ期だな」


「いってろ」


 和泉は貝塚を制して封筒を開いた。


 中には三つ折りにされた一枚の紙が入っていて、それが普通の手紙ではないことに気づいた。


 いつか、テレビドラマで見たことがある。


 これは新聞を切り抜いて一文字一文字を貼り付けることで、筆跡を隠すテクニックだ。


「……文字も見られたくないぐらいシャイな子なのか?」


 貝塚がフォローのつもりかそう言うが、その顔も少し曇っている。


 和泉はその文面を読んで、顔が引きつった。


 


   ★★★




 あの人にお前は相応しく無い。


 これ以上手を出したら、殺してやる。




   ★★★




「きょ、脅迫文じゃねぇか!」


 予想外の内容に、貝塚も眉をひそめている。


「……モテモテだな」


 言い得て妙だと思う。


「俺って、変な奴にしかモテない呪いでも受けてるのか?」


 そんな和泉の虚勢に貝塚は苦笑して、


「でも、これが本気なら笑い事じゃねぇな。……先生に相談するか?」


 貝塚の提案は、一つの選択としては正しいと思う。


 しかし、もかしたら、それで切通に迷惑がかかる可能性もある。


「悪戯かも知れないし、少し様子見するよ」


 自分の出した答えは、正しいんだろうか?


「……そうか」


 心配そうな声が隣から聞こえて、少しだけ嬉しかった。


「貝塚って、意外と良い奴だよな」


「意外はよけいだっての」

 

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