第17話 マーズ・レイド
出会いと言っても、ネットで鷲崎さんの呟きをたまたま見かけた和泉が一方的に連絡を取ったに過ぎない。その呟きは〝UFO写真の撮り方〟という五年も前に書かれた呟きだった。
こう書くと
やり方としては以下の手順である。
第一に、UFOの模型を作る。
第二に、そのUFOの模型を釣り糸で釣る。
第三に、そのUFOが飛んでいるように見えるアングルで写真を撮る。
ワンポイントアドバイスとして、夜間撮影なら模型が発光できるようなギミックを持っていたり、釣るのに黒い糸を使ったりすると良いと書かれていた。
ネタ自体は簡単に思いつきそうな捏造写真ではあったけれど、その方法で撮られた写真は説得力のある出来で、なかなか面白いなと感じたのを和泉は覚えている。
普段なら面白い記事だと思うぐらいで、返信をするようなこともない。
時間を持て余していた和泉は、そのまま鷲崎さんの過去の呟きにも目を通していた。そこには写真で使われた模型の制作工程の写真がアップされていて、その一つを見て思考が止まった。何気ない作業台の横に『マーズ・レイド』という映画のパッケージが映っていて、その映画に登場するUFOを参考に今回の模型は制作されたらしい。
和泉の目に留まったのは、その『マーズ・レイド』という映画のパッケージの絵だ。
そこに映っていた宇宙人の姿は――和泉が小学生の頃に出会った宇宙人と瓜二つだった。
それに気づいた和泉は『マーズ・レイド』について調べた。
しかし、それは一筋縄ではいかなかった。
マイナーな映画なのか『マーズ・レイド』について詳しく書かれたページを見つけることはできなかったし、通販サイトで探しても、そんなDVDは売られていない。僅かに出てきた情報はといえば『マーズ・レイド』は二十年も前に作られた日本人監督の映画であるらしいということと、その制作会社がすでに潰れているということだけだった。
結局のところ、和泉は『マーズ・レイド』を売っている所を見つけられなかったし、分かったのはその監督が〝
それでも、和泉は諦められなかった。
どうしても『マーズ・レイド』を観てみたいという思いに駆られた和泉は、確実にそのDVDを持っている人物がいることに思い至って、ダイレクトメッセージを送ったのだ。
その人物こそが――和泉が『マーズ・レイド』を知ったきっかけである〝UFOの撮り方〟という呟きを発信した鷲崎さんだった。
偶然なのかは分からないが『マーズ・レイド』を撮った監督と同じ名前。
……名前が同じだからと言って、本人だとは限らない。
しかし、あの呟きをした人物が、鷲崎という名前を使うほどに『マーズ・レイド』に思い入れのある人物なのは間違いないし、これだけ探しても見つからない『マーズ・レイド』を持っているに違いなかった。ならば、和泉にできることは一つだけだった。
和泉は鷲崎さんに無理を承知で『マーズ・レイド』を譲ってくれないかと連絡を入れた。
ここ最近、鷲崎さんは新たに呟きをしていなくて、五年も前の呟きに返信がくるのかと不安になったが、鷲崎さんは和泉に丁寧な言葉を返してくれた。
――申し訳ありませんが『マーズ・レイド』をお譲りすることは出来ません。
当初、鷲崎さんは和泉の言葉にかなり難色を示した。
それでも和泉は鷲崎さんと連絡を取り続け、仮に購入でなくても貸して頂けないかと持ちかけた。しかし、貸すことも渋っていた鷲崎さんには、それなりの事情があったのかもしれない。
それでも諦められなかった和泉は、いくらならば貸して頂けるのかと相談した。
そして、その相談の末に鷲崎さんが提示した金額が三十万円だった。
借りるだけで、三十万円。
いままで貯金もしてなかった高校生である和泉にとっては、とても手が届かない大金だ。
諦めようかと思った。
鷲崎さんも『マーズ・レイド』に三十万の価値はないと考えている節はあったし、それは和泉を諦めさせるためだけに提示した金額であるような気もした。
そもそも、いくら考えても、自分にとって『マーズ・レイド』は三十万円の価値がある作品だとは思えない。どこにもレビューすらないその映画は、当時だって流行らなかったのだろうし、いまさら観たところで凄くつまらない映画である可能性も大きい。
でも、和泉の出した答えは、自分でも意外なものだった。
――今すぐには用意できないのですが、一年ほど待って頂いても構いませんか?
その答えに鷲崎さんは驚いていたようだが、どうにか約束してくれた。
――三十万円を用意できれば、WASENさんに『マーズ・レイド』をお貸しましょう。
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