君と僕の花

@yukane

第1章 黄色のゼラニウム

俺は両親に捨てられた…

中学卒業と同時に両親が失踪、親戚にも俺を引き取ることが難しいと言われた。 


「俺の人生波乱万丈だな…」


両親に捨てられた時、不思議と悲しくはなかった。

もともと愛されてないことはわかっていたし、ようやく一人になれたと解放感すら湧いた。

今は何とか安く狭いアパートを借りて、バイトをしながら高校に行く普通の日々を送っている。

しかし、そんな俺の一人ぼっちの生活も、すぐにに変わっていくのだった…


「なぁ喜一?」


「ん?どうした?」

 

「放課後みんなでカラオケ行くんだけど、たまには喜一も行こうぜ!」


「あーわりぃ、今日もバイトなんだわ」  


「えーまたかよー」


「すまん」 


「一人暮らしって大変なんだな」


「まぁな。今日はみんなで楽しんでくれ」 


「わかった。今度また誘うから来れる時は来てくれよな〜」 


「了解ー」

 

みんなを羨ましいとは思うが、今の暮らしに後悔はない。

今はお金を貯めて普通に大学に行き、普通の生活が出来ればそれでいい。

それが幸せだと思っている…

 

「店長お疲れ様です。」 


「喜一君お疲れ様。今日もこんな時間まで悪いね。」 


「いえ、僕が頼んでいることなのでむしろありがたいです。」


店長の清水さんは30代半ばの少し強面の男性だ。 

しかし、そんな外見とは裏腹に俺の事情を知ってバイトに採用してくれたり、たまに売れ残りの弁当なども恵んでくれたりする。

従業員の人を気遣ってくれるとても優しい人だ。 

俺はそんな店長の下、ファミレスで働いている。

両親には恵まれなかったけどバイト先には恵まれたなぁ…


「ありがたいけど、さすがに疲れちまうな」 


夜9時過ぎ、俺はバイトを終えて帰宅していた。


「ん?誰だあの娘?」 


俺のアパートの前で一人の少女が寂しそうな表情で座っていた。

少女は髪色がブロンドでハーフのようだった。

しかし、髪はボサボサで4月のまだ寒い日の夜に薄着で寒そうに震えていた。


「どうした?こんな時間に?」 


俺は放っておく事が出来なかった。 

少女の表情が過去の自分と重なったような気がした。 


「家に帰らないのか?」 


「帰れないし、帰りたくない…」 


何となくだが少女の状況が理解できた。


「親が怖いか?」 


「!…どうして分かるの?」 


「何となくだよ…お前家はどこだ?」

 

少女はアパートの俺の部屋の上を指さした。


「俺の部屋の上かよ…ちょっと待ってろ」 


 

俺は少女を下に残してその部屋に行った。

チャイムを鳴すと、中から少女の父親らしき日本人の中年男性が出てきた。 


「あ?誰だお前?」 


「夜遅くに申し訳ございません。娘さんがこんな時間に外にいるので危ないと思いまして…」 


そう言おうとすると俺の言葉を遮り、中年男性が怒鳴ってきた。 


「うるせえクソガキ!俺は忙しいんだ!あんな使えないガキの面倒なんて見てられるか!」



俺は過去に両親から吐き捨てられた暴言を思い出す。


「はぁ…何でこんな簡単な事も、お前は出来ないんだ?本当に使えない子供だ…」 


「本当に、何であんたなんか産まれてきちゃったのかしらねぇ?」


子供に平気でこんなことを言う類の親とは、まともな話が出来ない。

結局、中年男性との話は一方的に切られてしまった。 


「ごめんなさい…」  


下に戻ると少女がいきなり謝ってきた。

先程の怒鳴り声を聞いていたのか、寒さではなく恐怖で震えながら。 


「別にお前が謝るようなことじゃないだろ。」

 

少女は驚いた顔で俺を見上げた。

おそらく怒られると思ったようだ。 


「なぁ、良かったら今晩は俺の部屋来るか?腹も減ってるだろ?」 


少女のお腹からは小さな音が鳴っていた。 


「いいの?」 


少女は少し怯えながらも先程よりは警戒心をなくしてくれていた。 


「ああ。このまま放ってもおけねぇしな。」


「あ、ありがとうございます…」 


「俺は天江喜一あまえきいち。お前名前は?」


「ア…アイリスです。」


「そっか、よろしくなアイリス。」 


これが俺とアイリスの出会い。ここから二人の…いや、の生活が始まっていく。





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