その10 開戦ブラス王にゃ!

 バルコニーにスキップでもしそうな勢いで現れるブラス王はシシャモたちに呼び掛ける。


「さあ、おいで全員一斉にかかっておいでよ」


 両手を広げまるで胸に飛び込んでこいとでも言わんばかりのポーズをとり、その表情は愛おしさを全面に出している。

 そんなブラス王を離れた場所で見るペンネとポムは少し戸惑う。


「おい、あいつ気持ち悪くないか」

「私無理……生理的にムリ……」


 そんな2人に対していつも通りなシシャモとバトはブラス王を観察する。大陸中に飛ばしたドローンで戦況を観察するバトは青く光る瞳の奥で現状の把握を行いシシャモに伝える。


「シシャモ、戦線をズレた魔物の修正は終わったぜよ。燕と紅葉も直ぐに戻るはずちや」

「分かったにゃ。バト、あいつが魔王と仮定してアダーラの言う通りアースの魔王と同一人物と思うかにゃ?」


 バトが青く光る瞳を向ける。


「ロボットらしくないこと言うてええか? あいつはアースの魔王より恐らくバカちや。つまり叩けばボロが出るはずや」

「無茶苦茶だにゃ」

「犯人だって逮捕するのもしてからもえらいんやき、そがなんやよ」


 シシャモは苦笑しながらもペンネを見ると既に変身を終え弓を構えている。体に黒い雷が舞い銀色の髪をなびかせるその姿は艶美紅姫えんびこうきに相応しい艶やかさを感じさせる。

 赤い瞳の残像を残しながら放たれる黒い稲妻の矢は──


 ブラス王が剣を抜くと高速で突っ込んでくる矢を横に払い飛ばし矢は城の塀にぶつかり黒い雷を放ち周囲を破壊する。


「てめえ人間じゃねえな!!」


 矢に合わせブラス王の元に来たポムの放つ銃弾を涼しげに避けてみせる。避けられた銃弾は赤く燃えブラス王の背後からイフリートが拳を振るうが受け止められ腹部を蹴られて城の壁を破壊しながら吹き飛ばされる。

 その足を氷と水の刃が襲うが服すら切れず驚愕するフェンリルとウンディーネを刃ごと上空に蹴りあげると上空からペンネが叫ぶ。


「ポムさん、下がって!」


 黒い暴風の矢が上空から放たれるとブラス王の足元に刺さり城を破壊しながら黒い竜巻を天まで作り出す。その周囲をシルフィードが飛び回り緑色の風の刃を次々と投げ込む。

 黒と緑の風が暴れる中を少しだけ傷がついたブラス王が飛び出してくる。


 刹那、銀色のブレードの手が伸びてきてブラス王を襲う。剣で弾くと赤い仮面のシシャモがブラス王の腹部を思いっきり殴る。

 少しよろけるブラス王にチェイスのビーム放ちつつ両手のブレードで連撃を繰り出すバトを剣で受け止めると再びシシャモに脇腹を殴られできた隙をバトが斬りつける。


 2人が連撃を繰り返し殴る斬るをするところをポムが銃弾を放ち、攻撃の隙間を埋めていく。

 シシャモとバトが同時にブラス王の顔面を殴り後ろに飛んだところをイフリートがタックルを加え押し戻すと、再びシシャモとバトが戻ってきたブラス王に同時に踵落としを決め地面に叩きつける。


 地面に水が現れその水の両端で向かい合うウンディーネとフェンリルが手を上げると水は上空に上がり一瞬でブラス王ごと凍りつく。

 全員がその氷から散開するように離れると上空から放たれた黒い太陽が業火を散らしながら落ちてくる。


 周囲全てを飲み込み燃やし尽くす黒い炎はかつてそこに城があったと言っても誰も信じてくれないほどの大きな傷跡を残しながら黒い炎を燻らせ続ける。



 ここまでの一瞬の出来事を見て魔物も人間も皆が戦いを止め、上空に映るその映像と城の方向で燃える黒い炎を見比べる。

 その戦いを見る魔物たちは魔王シシャモたちの強さに歓喜し、人間は恐怖するそんな中、黒い炎が切られ斬撃がブラス王のいた場所から放たれる。


「おい、あいつ生きてんぞ!」

「みたいやのぉ」


 驚くポムとバトの横を風が駆け抜けると黒い炎を掻き消しながら残撃を放った場所に突っ込んでいく。

 風が放つ斬撃を甲高い音で剣が受け止める。


「ほうその状態で拙者の太刀を受け止めるとはな」


 少し嬉しそうな燕が赤い雷を纏い受け止められた刀で反動をつけ宙に浮くと一回転し再び刀を振るう。

 赤い竜巻が吹き荒れ黒い炎ごと巻き上げるとその竜巻の中で立つブラス王が剣を構え燕に突っ込み刀と剣の応酬が始める。


 燕の振るう剣に燃える矢がぶつかると刀は赤い業火を放ちながら舞う。燕が燃え盛る斬撃を8つ飛ばしブラス王に放つと受け止めきらなかったブラス王の体を斬りながら爆発する。


 追撃は緩まず刀に雷の矢が当たると電撃を纏い周囲に雷を放ちながら刀を振るう。

 斬撃を受けつつも反撃してくるブラス王に向かって4精霊合体させたポムが放つ赤い弾丸の雨は地面から赤く燃え盛る鳳凰を呼び出しブラス王を羽で包み上空へと舞い上げ空中で大爆発を起こす。


 空中で燃える炎から大きな魔力が膨れ上がり白く神々しいエネルギが炎を掻き消すと白いエネルギーを雨のようにして地上に降り注がせる。

 そのエネルギーを上空に並べられる数千枚にも及ぶ盾が受け止めていく。


「たく、みんな喧嘩っぱやいんだからさ」


 紅葉がぼやきながら盾を出し入れしていく。


 ゆっくりとブラス王が宙から下りてくる。その体はボロボロで血は流れ火傷も酷いのが一目みて分かる。

 それでも6人を見て嬉しそうに笑う。


「やっと6人揃ったね」


 6人を舐めるように見ると心底嬉しいと言わんばかりに笑いだす。


「くはははははははははは、いい! みんないいよ! 私のものにしてあげるよ。すごく可愛がって上げるから。ねえ良いよねえ、ねえって」


 嬉しそうに声を上げるブラス王を見てシシャモが仮面の中でニヤリと笑う。


「にゃるほど、なんとなく分かったにゃ。核心を得るにはあいつの力を借りるしかないにゃ」


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