その9 ブラス王にゃ!
ジガンテスカ大陸の上空には戦場の様子が映し出され特に大きな戦況の変化があった時にその場面がアップされる。
そのすべてが魔物側が有利になっていくことを知らせるものでありその度に国民たちは落胆し今後の不安を募らせていく。
シンツィアは映像でアリアの死を見て目に涙を浮かべるがすぐに拭うと避難する住民を誘導を続ける。
紅葉と別れた後すぐにアリアの知り合いの元へ向かい明日にも魔物が攻めてくるかもしれないことを告げる。
初めは半信半疑だったが元とは言え魔法軍の副隊長のシンツィアの言うことだからと住民に伝え信じて協力を得た人達を避難させることに成功する。
ただ信じてくれず笑う者もいたわけだが、その笑った者たちを助けるため町に戻り魔物を討伐している。
シンツィアのブレスレットが光り周囲に雷撃を落とす。
数体の魔物が黒く焦げて倒れるが次々と魔物が押し寄せてくる。
「切りが無いな、それに魔力が持たない」
シンツィアの周囲で戦っている冒険者たちにも疲労の色が見え始める。
「シンツィアさんこのままじゃ私たちもやられてしまいます。一旦逃げましょう」
「くっ、まだ避難が終わってないのに」
女性の剣士に腕を掴まれ逃げるように促されるシンツィアは悔しそうな表情を見せながら魔物の群れを睨む。
「リザードマンの軍隊が押し寄せてくるぞ! 引け! 撤退だ!」
前線にいた冒険者たちが走って逃げ始めるその後ろには100はいるリザードマンの軍が見えたと思ったらすぐに町の中にまで侵入してくる。
「人間どもよ覚悟しろ!」
リザードマンのリーダーらしき人物が宣言したのと同時に上空から大きな壁が降ってきてその上に紅葉が着地すると拡声器を片手に叫ぶ。
「こらあ! リザードマンの人達持ち場が違うよ! ここは攻め込まなくて良いとこだから」
紅葉の呼び掛けで軍の進行は止まるが興奮状態のリザードマン達は不満をあらわにする。
「で、ですが紅葉様ここで人間どもを殲滅させておいた方が」
「そうです! 俺たち魔物の力を見せつけるべきです!」
「そう言えば紅葉様だけあの訓練に参加していない。実力も分からないあなたについて行くのは俺は不満です!?」
不満を訴え始めたリザードマンを拘束するように剣や斧が体の周りに突然現れ地面に突き刺さる。
少しでも動けば刃に触れ切れてしまいそうなその小さな牢獄に捕らえられたリザードマンに紅葉が冷たくいい放つ。
「上見てごらんよ」
リザードマン以外の魔物や人間も空を見上げると上空にはびっしりと多種多様な武器が矛先を下に向け並んでいる。
その範囲は魔物だけでなく人間の方にも向いているのでシンツィアをはじめとした人間たちも立ちすくんでしまう。
「ボク以外全員始末出来るけどやってみる?」
剣に囲われたリザードマンが小さく首を横に振ると全ての武器が消えてなくなる。
「じゃあ持ち場に戻って。無駄なことはしない!」
パンパンと手を叩きながら言う紅葉の言葉でリザードマンや他の魔物たちは急いで町から出ていく。
それを見届けた後紅葉はシンツィアたち人間を見下ろす。
「人間も調子にのらないことだね。今後魔界大陸に攻めようなんて思わないことだよ。それがお互いの為だから」
空中に壁を横に並べるとその上を走って去っていく。
「シンツィアさん。なんなんですかあの魔物は? 人間みたいな姿してましたけど」
「分からんがおそらくあの魔物が一番我々人間と話せる気がする」
シンツィアは紅葉の去った方向を見て呟き心の中でお礼を述べる。
***
圧倒的な魔王シシャモ軍優勢の状況においてもブラス王は余裕の表情で自室を後にし、嬉しそうに誰もいない廊下を歩いて行く。
途中瓦礫の下敷きになっている兵士達を見付けるとおもむろに近付いていく。
苦しそうになにやら唸る兵士に自前の剣を突き立てると兵士は剣に吸われるように消えていく。
「1人くらいじゃレベル上がらないか」
そう言ってステータス画面を開く。そこに記載されるレベル791の文字。
「あっちの世界の方が人間が弱いから大量に吸えるんだけど身動きが取りづらいし。兵隊たちも皆死んじゃったみたいだしどうしよっかな」
壊れた壁の隙間から見える魔王シシャモの姿。
「今はあの可愛い魔王を捕まえてわたしのペットにしないとな。
あ~でもあの吸血鬼も良い、オーガの娘もそそられるし、銀色のロボットとやらも手にいれたい! 綺麗に混ざったあの子も良いし、あれは……人間だけど人間を飼うのも良いな! ハーレムだハーレムを作ろう!
あーー楽しみだ! まさか魔物の方からわたしに会いに来てくれるなんて夢みたいだ」
頬を赤らめ興奮気味のブラス王が剣を腰に差すと優雅に歩いてシシャモの方へと向かって歩いていく。
「アダーラよ。お前の救世主とやらはわたしが大切に可愛がってやるから楽しみにしてるといい。
5000年前にお前に追放された怨み忘れてないぞ。ここまでくるのに1000年もかかったんだ。万全の準備を終えたわたしが、あんなネコの獣人に負けると思うなよ」
ブラス王は不敵な笑みを浮かべながらもその足取りは軽い。
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