その7 グラープそれ迷宮と違うにゃ!

 テオの率いる隠密部隊が構える城の西側にアンデットを中心とした魔物が攻め込んでくる。ここでも激しい戦いが開幕する。

 隠密部隊の素早く正確な攻撃に対し大降りで遅い攻撃をするアンデットたち。次々と討伐されるが切られた傷を塞ぎ起き上がると再び襲ってくる。


「埒があかないな。火薬で吹き飛ばしてもダメか?」

「ああ、さっきからやってるが粉々にしないと復活しやがる」


 はなしをする1人兵士の足が地面から伸びてきた朽ちた手に捕まれる。


「この! 気持ちわりいんだよ」


 兵士が振り払おうとしするが次々と手が下から出てきて両足を捕まれる。もう1人の兵士が助けようと向かうのを大量のスケルトンが流れ込んできて邪魔をしてくる。

 その間に足を捕まれた兵が地面から這い出てきたゾンビにまといつかれてしまう。


「た、たすけ!」


 兵士の短い叫びはゾンビに喉を噛みきられ途絶えてしまう。男の肉を貪るように食べ始めるゾンビの集団に話していた兵士は驚き言葉も出ない。

 ゾンビの集団がサッと離れるとあちこち噛みちぎられた兵士の死体が横たわている。

 ビクッと死体が動きムクリと起き上がると爛れた体のままダガーを構える。他のアンデットより素早く動く元隠密部隊の兵士ゾンビは元の仲間を襲い斬りつける。怯んだ兵士にそのまま噛みつくと肩を引きちぎる。

 倒れる兵にスケルトンたちが持っている剣を次々と突き立てる。

 刺された兵もしばらくすると起き上がりゾンビ兵となりまた次の犠牲者を産み出す。


「なるほど、なるほど元のステータスが高いので優秀なゾンビが作れる訳か。やっぱり外に出てみなと分からないことが多いもんだな」


 スケルトンの耳打ちに満足そうにうなずくグラープは遠く離れたテオがいる陣地を見る。


「あっちに強い力を感じる。あれは俺がやるからお前ははサポートをたのむ」


 グラープが足元に魔法陣を描くとズブズブと沈んでいく。



 ***



「テオ様、戦況が思わしくありません。アンデットにやられた兵もまたアンデットとなり敵の戦力が増えていっております」

「そうか……俺が出る」


 テオが血異闍薬DXを飲み干すと立ち上がるとすぐにナイフを投げる。


「そこにいるのは分かっている出てこい」

「流石に分かってしまうか」


 影からグラープがゆっくり出てくると錫杖を取り出し手に持ちテオの攻撃を受け流す。


「やっぱりきついなあ」


 グラープが手をパタパタさせ痛がると錫杖を地面に突き刺す。

 グラープを中心に大きな魔方陣が描かれテオや周囲の兵士を巻き込んで囲んで光り始める。


「転移魔法か……」

「いやいや必殺技だよ」


『必殺技 黄泉の迷宮』


 魔方陣に巻き込まれたテオを含め兵士たちが地面から出てきた大量の手に引っ張られ地面の下へと引き込まれる。



 ***



 テオは魔方陣に引き込まれて気がつくと石の壁に囲まれた広い部屋にいた。

 じめじめとしていて居心地はよくないが松明が灯してあり視界は悪くない。

 部屋には2ヶ所ドアがありそこへ行く道はなぜかスロープになっていたり、階段であったりと作りがかなり独特である。

 部屋の真ん中には川が流れて小さな橋が掛けてある。


「テオ様ここは一体……」

「分からんが扉を開け部屋から出るしか方法はないだろうな。ただこの部屋怪しいな。罠が仕掛けてあるかもしれん」

「では私が先行して罠を確認します」


 1人の兵が志願し1つの扉を目指し移動を開始する。


 隠密らしく足音をたてない慎重な歩みで一歩床を踏んだ瞬間そこに罠があったのではなくそれは突然現れる。

 床が跳ね上がる罠によって壁に飛ばされると壁に現れた無数のトゲに刺され貫かれ、よろける兵士の上から花瓶が落ちて頭にはまる。

 フラフラと歩く兵士の足元が爆発しキリモミしながら吹き飛ぶと小さな川に落ちる。

 川の両端にあった装置が動きだし川に電流を流すと兵士は黒焦げになり動かなくなる。


『5HITコンボ! 2600ダメージ』


 頭上に表示される文字。


「罠が突然現れるだと。駆け抜けた方が賢明か」

「で、では私が!」


 再び1人の兵が今度は全力で駆け抜けようとすると壁に穴が現れバキュームのように空気ごと吸われ壁に貼り付けられた後、ペンデュラム→油壺→火矢→頭上に岩石→床に跳ね上げられ飛んでいき突然現れたギロチンにはまり刃が落とされる。


「じっとしてても殺られる。罠の発動より早く全力で駆け抜けろ!」


 テオの号令で一斉に走り出す。次々と罠が発動する中テオが扉を開け次の部屋に飛び込むと床が跳ね宙に投げ出される。


「ちっ!」


 空中で体勢を整えるテオに横から巨大なハンマーが現れ吹き飛ばされると壁に掛けられていた巨大な振り子時計にはまり首から上だけ12時丁度のところから出ている状態になる。

 振り子時計の針が動き始め長針と短針首を挟まれてしまう。ただテオはレベル140、首は切れずダメージは50程度しかない。

 そのまま時計が爆発し吹き飛ばされると下から出てきた大砲にセットされ発射され部屋の真ん中にあった線路に叩きつけられ突然隣の部屋から蒸気を上げ走ってくる汽車に吹き飛ばされる。


「なんだこれは……」


 ダメージこそ少ないが気分の良いものではない。テオが周りを見ると部下たちが罠にかかり次々と絶命していく。


「いかがかな? 魔王シシャモ様にダメ出しをされ俺が新たに作った迷宮は」


 部屋に響くグラープの声。


「お前は薬のお陰でダメージが少ないようだがその効果はいつまで続くのだろうな?

 仲間が減れば減るほどお前にかける罠の数も増える。それに元お仲間もお前に仲間になって欲しいって言ってるぞ」


 テオが倒れた部下を見るとムクリと起き上がり武器を構える。

 次々と起き上がる元部下たち。


「く、くそこれでは……」


 悔しがるテオの足に虎ばさみが噛みつく。


「!?」


 宙にに吊り上げられるテオに元仲間たちが襲いかかる。

 ここまで1時間程度。血異闍薬DXが切れる1時間後までテオの受難は続く。



 ***



 複数のモニターが並ぶ部屋でグラープは椅子に座るスケルトンたちを監視していた。


「よしよし、順調だな。俺は外に出るからお前たちしっかりあいつを仕留めておけよ」


 グラープの命令にゲームのコントローラを手に持ったスケルトンたちが敬礼する。

 そして再び設置されている画面を見ながら罠を設置し発動させるタイミングを見計らう作業に戻る。

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