その4 通りすがりの……人にゃ!

 シンツィアはロルフの笑みに気味の悪さを感じながら冷静に会話をするよう努める。


「ロルフ様、私は軍を抜けた身。今更用があるとは思えませんが何かご用でしょうか?」

「抜けた身だから用がない? 逆だよ抜けたから用があるんだよ」


 意味の分からないといったシンツィアを見て心底嬉しそうな笑みを見せる。


「鈍いなあ。シンツィアちゃんさ俺の女になりなよ」

「えっ? それはどういうことでしょうか」


 やれやれといった感じでロルフが立ち上がるとシンツィアの顎を持ち引き寄せる。


「どういうってそのまんまじゃん。いい俺はジガンテスカ王国の騎士団総括なわけでシンツィアちゃんはただの一般人。

 玉の輿だと思うけどな。チャンスは逃さない方が良いと思うよ」


 シンツィアはロルフの腕を振り払うと手首につけているブレスレットに力を込め雷を纏う。


「いくらロルフ様といえどこれ以上は許しませんよ」


 怒るシンツィアをニヤニヤしながらロルフは見ながら剣を抜く。


「俺もさ雷属性なわけ。相性もバッチリだ」


 爽やかな笑みを送るロルフに背筋に悪寒が走るシンツィアが雷を解き放ち牽制の稲妻を散らすと、ロルフはわたあめでも作るように稲妻を剣で絡めとってしまう。


「ああ良いね。合体技なんてのも出来そうだね」

「旦那、俺らはどうしましょう?」


 今まで黙っていた3人の男がロルフにお伺いをたてる。


「そうだなあ、ちょっと痛い目みせた方が後々大人しくしたがってくれるかな。よし、ちょっと頼むわ」


 ロルフの言葉に嬉しそうに3人の男が武器を構える。


「まあ悪く思わんでくださいよ。こういう職業柄対人ってのはあるんですけど美しい女性をいたぶれる機会ってあんまりないんですよ。

 もしかしたらおこぼれにもあやかれるかもしれませんし、あまり傷つけないようには努力します」


 シンツィアの体をイヤらしく見る3人の男に放たれる雷は鎧に掻き消される。


「シンツィアさんそれはあまりに軽薄ですよ。あなたの属性が雷と知っていれば対策してくるのはあたりまえですよ」

「くっ!」


 シンツィアが雷撃で距離をとりながら隠していたダガーを取り出すと男たちの遊ぶような剣技を必死で受け止める。

 必死なシンツィアを見てロルフは嬉しそうに笑う。


「いいね、いいね。必死な女性って綺麗だよね」


 そんな声を聞く暇もなく効果のない雷撃で攻撃を繰り返すが1人の男が雷を掻き分けながら腹部を蹴り上げる。


「がっ……は、はあ」


 お腹を押さえ膝をつくシンツィアを囲んで男たちはニヤニヤと笑う。


「旦那たまには俺らからやっちゃダメですか?」

「バカか、最初は俺からだって決まってるだろ」


 剣を持つロルフが近付くと男たちは少し残念そうな表情をみせるが渋々道を譲る。


「さて、シンツィアちゃんどう? 俺の女になる気になった?」

「お、お断りします……」


 苦しそうにしながらも否定するシンツィアの髪を乱暴に掴み無理矢理たたせる。


「お前は一般市民なわけ。俺に逆らうなんて選択肢なんてないんだって。今まで俺が彼女と長続きをしなかったのはある程度の地位や立場をもった奴らだったからだ。だから俺に反抗してきたけどシンツィアお前は違う。

 なにせお前と俺は地位が違うお前に拒否する権利はないからな!」


 掴んでた髪を乱暴に離しシンツィアはよろけ後ろに下がると尻餅をつく。


「もうちょっといたぶれば自分の立場ってもんが分かるだろう」


 ニヤニヤ笑う3人の男をバックに近づいてくるロルフにこれから自身に起こることを覚悟する。


 ドンッ!!


 鈍い音と地面がほんの少し震える。


「ああもう! 関わる気なんてないけど見てらんないや」


 突然降ってきた盾に立つ眼帯をした少女に驚くがすぐに苛立ったように声を荒げるロルフ。


「なんだお前! ガキが邪魔するな」

「なんだって言われても……と、通りすがりの人です」

 

 ロルフが剣を構えた瞬間ハンマーが飛んできて頭に直撃し崩れ落ちるロルフ。


「えーい、もうやけだ! 通りすがりのボクが相手してやる」


 倒れるロルフに驚くが見た目で舐めてかかろうとするが盾が飛んできて1人の男が気絶しもう一人も上から落ちてきたハンマーが頭に当たり崩れ落ちる。

 最後の1人が投げナイフを数本投てきするが空中に現れた盾に落とされ四方を盾に囲われたと思ったら弾け潰され気絶する。


「はあ大丈夫ですか? って、あ!?」

「ありがとうございます……あ!?」


 4人が倒れた後向き合う2人が声を上げる。


「お前は確か盾守宵闇人たてかみよいやみびとの紅葉!!」

「しーー! 声が大きいですってば! しかも一回しか名乗っていないのによく覚えてますね」


 必死に口を押さえる紅葉だが彼女のレベル200シンツィアを圧倒するレベル差で口を押さえられ苦しそうにもがくシンツィア。


「ああ、ごめんなさい。加減が難しくてついつい……てへへっ」

「ぷはあ~死ぬかと思った。助けてもらってなんだけどあなたね──」


 文句を言おうとしたシンツィアの喉に冷たい刃が当てられる。


「紅葉様……殺る?……」

「フェンリルやいばを収めて。この人から聞きたいこともあるしさ」

「了解……」


 解放され座り込むシンツィアをぼんやりした瞳で見つめる狼の獣人。


「こんなところではなんですし、別の場所で話しましょう」


 シンツィアに手を差し伸べる紅葉の手を握ると路地裏を出ていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る