その2 魔王シシャモの御披露目にゃ!

 シシャモ城を目の前にした広場には多くの魔物たちが集まっていた。

 多種多様な種族たちはまだ建築途中ではあるがその立派な城を見て感動し、魔王シシャモの登場を待ちわびていた。

 彗星のごとく現れあっという間に魔界大陸を制圧して遥か彼方に魔物に仇をなしてきた人間が再び攻め込み再び驚異となりそうなとき、逆に攻め込もうとする魔王シシャモとその仲間に賛同し集まってきたのだ。


 魔王シシャモの登場を今か今かと待つ魔物たちのボルテージが上がるその裏ではシシャモたちが準備に追われていた。


「シシャモ洋服の襟がめくれてるにゃ」

「お姉ちゃん、これ! これ着てみたらどうにゃ?」

「いつもの服で良いにゃ! なんにゃこれ? ドレスとか興味ないにゃ」

 

 シシャモを囲んでメバルとカレイがシシャモの服をただしているその横でペンネも姉のファルファッレとイーネと服について言い合っている。


「ペンネこっちの方が可愛いですわ。たまには黒以外も着てみるのもいいと思いますわ」

「いーやこっちの強そうなのがいいと思うな。威厳みせた方が良いって!」

「もーお姉さま方、好き勝手言って私もいつもの服で良いんです」


 2人が着替える部屋の外ではそれぞれの父親であるマグロとダンジェロが談笑している。


 違う部屋では紅葉とポムが魔物の女性陣に囲まれ服を押し付けられてもみくちゃにされている。


「紅葉さま! こっちこっちの方が似合います。あーー! ちょっと私が先なんですから!」


 服を持って紅葉にアピールするマオカを押し退け服を持ってくる他の女性に文句を言う。そんな様子を見て苦笑する紅葉。


「ポム様! こっちの方がお似合いです」

「いえこちらの方が!」

「なによ! 私の見立ての方がポム様に似合ってるの!」


 途中から言い合いになる女性たち。


「あんたも人気あるじゃないか」

「ばあさん他人事だと思って楽しんでんだろ」

「そりゃあ、あんたの育ての親だからねえ」


 舌打ちをするポムの隣にいたライムは楽しそうに笑う。


 廊下を出てエントランスでは燕が母の賤鳥しずとりと話をしている。


「燕、あなたは着替えなくても良いのですか?」

「ええ母上、拙者はこのままで良いのです。それよりも父上はどうされたのですか?」


 燕の視線の先には父の玉鷸たましぎが隅に座り込みバトになだめられている。


「あれはですね……燕以外の仲間も強いの見極めてやると言って勝負を挑みバト様が応じてくれたのですが、その……瞬殺で負けてしまってですね」

「は、はあ」


 燕はバトになだめられる小さな父親の姿にちょっぴり哀愁を感じてしまう。



 ***



 広場の魔物たちがガヤガヤと騒いでいるとラッパを吹く魔物兵たちの合図で皆が静かになりバルコニーに注目が集まる。

 因みにラッパを吹いた魔物兵たちはビアシンケンの兵から派遣され人々である。


 バルコニーに姿を現す魔王シシャモ一団。シシャモ、ペンネ、燕、バトはいつもの格好だが紅葉とポムは豪華なドレスに身を包み恥ずかしそうにしている。


 そんな6人を見て怒号のような歓声が上がる。ペンネの拡声魔法が使われシシャモが第一声を発する。


「あたしが魔王シシャモにゃ! 今からこの魔界大陸を全て支配する魔王を宣言するにゃ!」


 その言葉に歓声を上げる者と不満を叫ぶ者が現れる。


「魔王シシャモ! お前の実力も見ていないのに支配者とは認められないぞ!」


 そんな声を上げる一部の魔物に苛立つペンネが一歩前に出て黒炎を上げるがシシャモが制する。

 このペンネの黒炎の時点で凄まじい殺気を感じ引き気味の魔物たちに向けシシャモが腕に力を込める。空気が震え始めその揺れに合わせ地面も揺れ始める。

 ゆっくりと構える拳に広場の皆が自身の死を感じる程の力を感じてしまう。


「まあこんな感じにゃ。別に認めたくないならそれでもいいけどにゃ」


 拳を収めたシシャモが軽い感じで話し始めるのに対し皆がホッと胸を撫で下ろしそこから文句を言う者はいなくなる。


「さてこの度、人間があたしたちの住む魔界大陸に攻めてこようとしてるにゃ。これに対抗し人間の王を討つことにしたにゃ!

 そこで人間の住むジガンテスカ大陸に攻め込むことを決めたにゃ!そこでにゃあたしら」


 シシャモが一呼吸溜める。


艶美紅姫えんびこうきのペンネ・フェデリーニ

 刀鬼春疾風神とうきはるはやてのかみの燕

 盾守宵闇人たてかみよいやみびとの紅葉!

 砲追樅錫乙女ほうついじゅうすずおとめのバト

 召弾天使しょうだんてんしのポムの6人が城を攻め落とすにゃ! その間周りの人間の兵たちを討伐してほしいのにゃ」


 その提案にざわめく魔物たちにシシャモの話はまだ続く。


「そしてその戦いには

 孤高の魔王 ルイーサ・ヒューブナー

 灯火の魔王 ビアシンケン・メガロ

 黄泉の魔王 グラープの3大魔王に指揮のもと行ってもらうにゃ!」


 シシャモに紹介され6人にお辞儀をして3人の魔王が前に立つ。それなりに知名度はある3大魔王が出てきたことで知っている者たちからは歓声が上がる。


「今日から1週間後人間の大陸に攻めるにゃ! この作戦に参戦したい者は集まるがいいにゃ!」


 シシャモの発言を受け皆が叫ぶ。その姿を見てバルコニーの皆が裏に帰って行く。


「姉上、余も参加するのはいいのだが、姉上たちだけでも制圧出来るのではないのか?」


 城の中に戻るとルイが疑問に感じていたことをシシャモに訪ねる。


「あたしたちの目的は人間の王1人にゃ。正直他の人間はどうでもいいけど。あたしらがやると全て殲滅させてしまうにゃ

だからこそ他の人間を引き付けて欲しいにゃ」

「でも余たち魔物の方にも被害がでるのだ」


 ルイは少し不満そうな表情をみせる。


「酷い言い方だがそれでいいにゃ。人間にも魔物にも被害を出すことで今後それぞれの大陸に攻め込もうと言う考えをなくしてもらうにゃ。その上であたしたちの力を見せつけることで更に抑止力になればいいと思ってるにゃ」


「?」


「簡単に言うとにゃ。あたしらが力を見せることで人間側は魔界大陸に攻め込むことはなくなるかもしれないがにゃ、魔物たちが調子にのって今後勝手に攻め込まないように今回勝てたのはあたしらがいたからで自分の力では敵わないと感じて欲しいわけにゃ」


 首を傾げながらも必死に考えるルイ。


「少しだけ分かったのだ。姉上は今後のことも考えて行動しているのだな。余は姉上についていくと誓った身。今後も近くで学ばせてもらうのだ」


 ルイがそう言ってシシャモの後ろをついていく。この日から1週間後歴史に残る魔物と人間の争いが起きることとなる。

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