その21 砲追樅錫乙女と盾守宵闇人(両方紅葉命名)にゃ!

 大きな壁の上をぎこちないジャンプで飛び越え進んでいく紅葉だがこの世界には魔法使いがいて空を飛ぶことの出来る者たちがいる。

 紅葉目掛け飛んでくる魔法を盾で受け止めながら弾いた武器で落としていく。


「もーーボクはみんなと違って足遅いんだから邪魔しないでよ」


 文句を言いながら飛ぶように走り進んでいくその視界に入るビームの嵐。


「見えた! バト、ボクの位置分かる?」

〈バッチリ確認しちゅーよ!〉


 その言葉を聞いて紅葉が盾の階段を作ると下に移動を始める。その紅葉を狙ってくる兵達に武器を飛ばし吹き飛ばしながら進んでいく。

 やがてバトを見付けると更に走るスピードをあげてジャンプする。


「バト! 究極合体だ!」

「おお! 任せとーせ!」


 紅葉がバトの背中にしがみつく。究極合体その正体はおんぶである。

 背中に背負われ移動速度が速くなった紅葉は満足そうである。

 ここからビームと銃弾に盾や武器が飛んでくるとんでもない2人が移動しながら攻撃を開始する。


「粗方くるめたき片付いたから作戦の最終段階にいこうか」

「よ、よしやろうか」


 紅葉をおぶったバトが草原を駆け抜ける。



 ***



 後悔は先に立たずとはまさにその通りだと思う。物事が進んでからでないと悔やむことなんて出来ないのだから。


 今まさに港にいた兵たちは今回の戦いを後悔して死を覚悟していた。

 魔物を狩り、質の良いものを捕獲するだけの簡単なものだと認識していた。

 魔物は人間により狩られる存在。レベル上げの道具。ミッシング島での魔物管理実績もあり完全に舐めていた。


 魔界大陸の方から黒い炎を散らしながら彗星のごとく現れた目の前にいる魔物。銀髪の幼さの残る綺麗な顔立ちと品を感じさせながらも圧倒的な威圧と殺気を放つ魔物の少女が名乗る。


「私は魔王シシャモ軍 艶美紅姫えんびこうきのペンネ・フェデリーニと申します。今からこの町を吹き飛ばしますので宜しくお願いします」


 スカートの両端をつまみ空中でお辞儀をした瞬間に町の地面から黒い炎が吹き出し始める。

 黒い炎に巻かれて燃えていく兵たち。中には魔力が高かったり対魔法の防具で耐える者が少なからずいるが、それはただより深い絶望を味わうだけでしかなかった。


 空に大きな黒い太陽が昇る。ゆっくり落ちてくる黒い太陽に港町は飲み込まれ消え去ってしまう。


「これで拠点は潰せたから退路は絞られるか……」


 ペンネが遠くを眺めると小さく兵の大群が見える。魔界大陸の草原に向かう隊とその後方に控える隊。


「あの後ろの隊が生き残ってこの状況を報告に帰させるってことだね。

 見てもないのにここまで人の流れを読んで動かすってバトの作戦は凄いな」


 ペンネが関心したように頷く。



 ***



 シンツィアは目の前で戦う燕に違和感を感じる。自分を瞬殺するほどの実力を持っているだろうに本気で攻めてきていない、まるでわざと兵を誘き寄せているような。

 一時の感情に身を任せ兵を進軍させたのは失策ではなかろうかと思い始めたとき拠点である港町の上に黒い太陽が昇る。


「あれはアリア様の報告にあった黒い太陽……退路を断ったということか。くそ、後方が経たれたのなら進軍しあの壁を破りエトとニコライに合流した方が得策か」


 悩むシンツィアの元に伝令がやってくる。


「シンツィア様、港町は全滅と報告が上がってきています。それと後方で吸血鬼が暴れており前進せざるおえない状況になっています」

「前進……まるでここに集められているかのようだ」


 シンツィアが今だ1人で戦う燕の姿を見る。シシャモ軍と名乗っていたが援軍の気配もない。数で押しきればいくら強いとはいえなんとかなるのではなかろううかと安易な考えが過る。


「どのみち退路がないなら進むしかないあの魔物を押しきって前進だ。ただし油断するな」


 シンツィアの指示で兵たちが前進を始め燕に襲いかかると燕が徐々に下がり始める。

 それを好機と見た兵たちが燕を追い徐々に前に出始める。それに合わせ後方の隊も進軍を始める。

 燕が刀を振り付近の兵たちを斬っていくが兵たちは我が身を犠牲にして前へ前へ進んでいく。それに合わせ燕が徐々に後ろに下がるのをみてこのままいけるのではないかとそんな希望が沸いてくる。


 そんなシンツィアや兵たちの真上から大きな壁が落ちてくると地響きをたてながら地面に突き刺さる。

 この壁、どこかのビルの側面であるがこっちの世界に住む人から見れば巨大な壁にしか見えない。

 その壁の上に立つ少女が拡声器をもって名乗る。


「ボクはシシャモ軍 盾守宵闇人たてかみよいやみびとの紅葉!」


 名乗り終えた後反対側にも大きな壁が落ちてくると上に銀色の魔物が飛んできて着地する。


「うちはシシャモ軍 砲追樅錫乙女ほうついじゅうすずおとめのバトや。よろしゅうね」


 その2人の姿を見てシンツィアの額に汗が伝う。たかだか2人増えただけ、されどここまで完全にはめられたような感じになんとも言えない恐ろしさを感じてしまう。


「魔物が知略的に戦争を進めるのか。そんな話は聞いたことがない」


 ──────────────────────────────────


『とことんスピカちゃん』


「久々の私コーナー。今日は皆が名乗った『シシャモ軍 ~ の誰々』とか言うやつについてね。

 当初はペンネちゃんが勝手に名乗ったように『魔法軍隊長 ペンネ』みたいな名前を名乗る予定でしたが6人で話してるうちに、自分たちが軍を率いることなんかないんじゃないかという訳で2つ名を名乗ることになったみたい。

 当て字のような漢字は紅葉ちゃんが考えたものでカッコ良さと見た目で選んだって聞いたわ。

 因みにシシャモにも『真魔王』とか『お昼寝魔王』とかあったみたいですけど却下されているの。『鬼畜魔王』とか『性悪猫』とか名乗ればいいのに」

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